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1-2 連合王国

 その連合王国北部にある王都の城壁の外で駐屯し、設営を終えた陣から、城壁の向こうにある王城を眺めた。


「主様、今は遠征中。お忍びでも王都に入るのはおやめになった方が」

「わかっている。心配ならついて来るといい」


 陣の外へ出ても景色は変わらず、王城はなお遠い。その外堀、外壁、内側に広がる城下町と王城の規模は、サンフィールド城が百年を費やしても同じような光景には成し得ないだろう。


「わざわざ王都を経由する必要はあるのか。帝国軍として、サンフィールド伯爵領の南側にあるアクアランス領から林道を越えれば半分以下の日数で現地に着くだろうに」

「我らはあくまでも援軍。林道から連合王国領へ入ると、連合王国軍と合流する前に反乱軍との戦いとなり、侵略と疑われます」

「…………反乱軍か。今、帝国と連合王国は友好を結んでいる。反乱に勝機があるように思えないが」


「奇遇ですね。私もそこは不思議に思っていました。なんでも、重税に苦しむ民を連合王国から解放するための反乱だそうですが。ただ」


 声が変わったことに気づき、振り返ると、年上らしき一人の女が言葉を止めてにこりと微笑んだ。

 高貴な貴族の女性が、無理に平民を装ったかのような衣服。細身の剣を携え、姿勢も良い。警戒する護衛を前に物怖じしないどころか見慣れているかのように悠々としている。その衣服の紋章は帝国中央貴族の子爵位を示していた。

 アーロン、キース、オリバーは身構えながらも判断に困った視線を向けていた。


「友好国の地とはいえここは他国。随分とご油断なされているようですね」

「どうやらそのようだ。私は……サンフィールドと呼んでくれ。そなたの名は?」

「私の名はヘレナ……と呼ばれております」


 アーロンたち三人が剣に手を添えて身構えていた。それを手で制した。


「それで。“ただ”の先は何を言おうとした?」

「大事なのは戦略の正しさなどではなく外交という動機です。外交の交渉力が勝利も正義までも覆すことは、後継者争いに勝利したリュートレイク王国の王女が良い例でしょう」

「……その王国は帝国に併合され、滅んだ。しかもその王女によってな」


 王女の権威を地に落とした大事件。帝国の旧王国出身の貴族に対して中央貴族がよく持ち出す嫌味だ。

 そして、東部と呼称が改められて以降も、旧王国出身の女性当主が存在しない理由でもあった。


 ヘレナ子爵の反応は中央貴族の下卑た笑みでも、旧王国出身の女性貴族への疑念の目でもなかった。


「致し方ないとはいえ、その答えは些か残酷にございます。

 それに私がわざわざ嘲笑いにここへ来たのだと思っていらしたのでしたら心外です。ただ、お互いに初対面でもありますし、一度目は聞かなかったことにしましょう」


 笑っていない微笑みを浮かべたヘレナ子爵の瞳が、じっとこちらを見つめていた。


「……なるほど。ではヘレナ子爵はその言葉に見合う力があると?」

「無論です」


 ヘレナ子爵のハキハキとした迷いなき口調。取り入ろうとするだけの者なら決して触れない王女の話だ。

 お飾り当主であったからこそ、人の瞳や振る舞いから経験が読み取り告げる。


 使える。……そして危険だ。だが判断に迷いはない。


「サンフィールド軍にヘレナ子爵の力を貸してほしい」

「そのお言葉をお待ちしておりました。私が帝国兵数万を率いる以上の価値を見せましょう」


 仰々しい言葉とは裏腹に、その礼は成り上がりでは決して真似できない、繊細で優雅、そして隙のないものであった。


「ですが先に家来の方々へご相談なされなくてもよかったのですか?」

「他の者もわかってくれるはずだ」


 そう護衛として付き添う三人の家臣を見ると、納得した表情の者はいなかった。


「……主様、おそれながら一言よろしいでしょうか?」


 護衛の長でありサンフィールド七家のひとつ、アーロン・ウイリアムズが一歩前に出た。


「申せ」

「私は主様のお側で何年も仕えてきた身。主様の判断を信じております。ですが、今のやりとりで……その、ヘレナ子爵の能力を信じろというのはいささか難しいかと存じます。

 それにそのお方は女性にございます。主様のお側に置けば周囲に下世話な勘繰りをされる恐れもあるかと」


 その言葉に左右に居たオリバーとキースも頷いていた。


「そうか。どうやらそれが大勢の認識のようだ。忠言に感謝する。……だが、判断は変わらない」

「かしこまりました」


「まずは展望について話を聞きたい。天幕まで来てもらえるか」

「喜んで」


連合王国

 帝国の東側にある隣国で、大森林の東側に位置する平野と河川、そして沿岸を有する。

 南側には南南東へ開く湾があり、その北部、東部、北西部にかけて勢力を有する。北西から南東へ主要街道が通っており、湾岸北部の平野では大河を含むいくつもの川によって豊かな大地を形成している。

 しかし、その肥沃な地形ゆえに周辺国との争いは多く、平野北部・東部、そして湾南西部の勢力とは小競り合いから戦争、和平、反乱が国境付近で幾度となく繰り返されてきた。特に、湾岸西部は中央部と区切るように大河を挟んだ先が不安定な地域であり、今回の反乱が起こった地域でもある。


 なお、その湾岸西部から西の大森林の先はサンフィールド地方を含む帝国領である。


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