この世は弱肉強食・・・あれ?立場逆転?
「グワーッ」
大体二メートルの大きな鶏っぽい生き物が鳴いた。
今日やってきた異世界の薄暗い森の中で、私、小鞠は鶏に追いかけられていた。
近づいてくる鶏の動きをよく見ると、私のいる方向に向かってきているが、動きがゆっくりだ。
そういえば、鶏って夜だと見えにくいんだっけ?
そもそもこの二メートルほどの大きさもある鳥は、見た目だけで鶏といっていいのかな?
そんなことを考えながら息を殺して座り込む。
あぁ、鶏がどっか行きますように!
泣きそうになりながら祈る。
そんな私の願いはかなわず、こっちに向かってくるペースも速くなった。
もしかして、鳥目とかじゃなくて、単純に疲れてゆっくり歩いてただけ!?
目の前で大きなくちばしが開いていく。
この世は弱肉強食?分かってる。でも、何もしないで死ぬのは嫌だ。
・・・どうせ死ぬなら、一発殴ってから死んでやる!
もう一回死んでるんだし、二回目だって同じだ!
あと、私を食べるんだったらせめておいしくいただいてね!
やけくそになりながら、謎に湧いてくる勇気を胸に、右手を握りしめて殴った。
手に触れた生温かい体温に怯み、途中で勢いを弱めてしまったが、ものすごい風圧や木が折れ地面がえぐれる音を感じた。
鶏が何かやったのだろうか。
確認したいけど、目を開けたらくちばしでばくっ!とか嫌だ。
少し待ってみても何も起きないので、薄目で見てみた。
「わ・・・」
目を見開く。
一言でいうと、大惨事である。
さっきまで生えていた木が殴った方向に向けてごっそり折れ、鶏が立っていた場所の地面が三十センチくらいえぐれていた。
・・・誰か穴でも掘った?
なんて言えるはずもなく。
「原因、私だよね・・・」
どうすればいいんだろう。はぁ、とため息をついた。
「あっ!鶏!」
慌てて探すと、殴った場所からだいぶ離れたところの木にめり込んだ状態で見つかった。
私が殴った腹部に痕がついているが、死んではおらず気絶しているだけのようだ。
ホッと息をついた。
よかった、生きてて。自分の身を守るためとはいえ、殺したいわけではなかったし。
ひとまず茶太郎を探しに行かなきゃ。
鶏に背を向けた途端、
「クーッ」
後ろから鳴き声がした。恐々振り返ると、木にめりこんでいた鶏が立っていた。
そして、まただんだんと近づいてくる。
「それ以上近づかないで!な、殴るよ!」
我ながら最低な事を言っている自覚はある。
でも、やっぱ怖いよ!二メートルだよ!?さっきは勢いで殴れたけど、できれば殴りたくないよ!
「クー・・・」
言葉が通じたのか近づくのをやめたが、悲しそうである。
さっきまでは食べようと追いかけてきたくせに!そんな悲しそうな目で見ないで!
「・・・じゃあね。食べようとしてきたとはいえ、殴ってごめんね。」
殴ってしまった罪悪感で謝り、えぐってしまった土をなおしに戻った。
「ふわぁ~」
眠い。あくびをしながら土を戻していると、追いかけてきたのか鶏がやってきた。
ただ、さっき近づかないでと言った距離は保っている。
律儀だなぁ。あ、私が鶏を殴り飛ばしたからか。
「・・・もう食べようとしないなら近づいてもいいよ」
「クーッ!」
追いかけてきた時とは打って変わり、甘えるような鳴き声をあげ土を戻すのを手伝ってくれた。
私の様子を見ていたのだろうか。
「土なおしてくれてありがとう。頭いいんだね!」
「クー」
すり寄ってきた鶏を撫でる。お。結構ふわふわしてる。
ぽとっ。
音がした方向を見ると、茶太郎が口にくわえていた魚を落としていた。鶏と、鶏を撫でている私を交互に見る。
幻覚だろうか。切なげにこちらを見る茶太郎の目に、涙が浮かんでいるように見える。
この浮気者!と責められている気分だ。
「違うの!さっきまで食べられそうになってたんだよ。茶太郎のもふもふが一番だから!」
必死に言い訳をする。
私、鶏から逃げてただけだよ!無罪!無実!
「ほら、これ!殴った跡!見て、この木!殴ったら鶏がのめりこんだ!」
何を言っているのか自分でもわからなくなってきた。しかし、報告しなければならない使命感にかられ、一生懸命鶏がのめりこんだ木を指さす。
茶太郎はじーっと長い間その木を見つめ、それならよしとしぶしぶうなずき、勇敢に鶏に向かっていく。
指の骨を鳴らす仕草がしたいのだろうけど、肉球をふにふにしているようにしか見えない。
茶太郎・・・!すっごく可愛い!今度肉球触らして!
私が悶絶している間に、茶太郎は鶏の目の前に立っていた。
「茶太郎?危ないよ!」
そう言っている間だったと思う。
私が認識できたのは、茶太郎が鶏より高く跳躍し、鶏が地面にめりこんだことだけだ。
速すぎてよくわからなかった。
鶏の何かが茶太郎の気に障ったからだろうか。すごいめりこんでいる。
これは土を平らにするの大変そうだなー。
ミニ神様には言われてたけど、
「茶太郎って本当に強いんだね・・・!」
感心すると、茶太郎は当然でしょ!と腕を組んだ。
ちょっとドヤ顔してるような?
この鶏、一日に二回も殴られるなんて災難だな。
まぁ、二回のうち一回は私なんだけど。
追いかけられ食べられそうになったので、罪悪感はあるが同情はできなかった。
ぜひ反省してもらいたい。
鶏も完全に気絶しているようなので、一人と一匹で協力して火をおこし、茶太郎がとってきてくれた魚を焼いた。
魚から、いい匂いがしてくる。
「そろそろかな?」
棒に刺さっている魚を地面からとる。茶太郎の分として、近くにあった大きな葉っぱの上に半分のせた。
いい?食べていい!?と尻尾をふる茶太郎に癒される。
「いただきまーす!」




