少女と狸と異世界と
「それじゃあ、そろそろ行きますか!」
神々しいまでに―神様だけど―きらびやかな笑顔で振り向くミニ神様。
どこに?それはもちろん異世界に!
では、早速レッツゴー!・・・と言いたいのはやまやまだけど。
「まだあんまり説明受けてないよ!?」
「え?説明しましたよね?茶太郎のことに・・・」
一つ、二つ、と指で数えだした。
「異世界ってどんな感じなの?」
「うーん、自由な感じですね!今まで生きてきたところではあまり見られない生物や植物、職業なんかもありますが、すぐに慣れますよ!」
ほんとかな。聞く限りには、そんなすぐ慣れるような気がしない。
毒のある生き物や植物とかいたらやだな。
「それに、日常生活を送る分にはお姉さんと茶太郎は大丈夫です!強くしておきましたから」
「たとえばどんな?」
「攻撃力・・・つまり物理的に強くしたり、毒は効かないけど薬は効くようにしたり、そのほかいろいろ手を加えておきました」
「物理的に強く!?」
「本当はそんなに手を加えてはいけないのですが、今回は特別ですよ?」
ミニ神様はいたずらっぽく人差し指を口に当て、片目を閉じた。
姿形が整っているため、それすら絵になる。
「ミニ神様にとってはただの夏休みの宿題なのに、手を抜かないでくれたんだよね。ありがとう!」
狸である茶太郎も、感謝!と両方の前足を上げた。
ミニ神様は、少し目を見張って、戸惑うように視線をあちこち向けた後、うつむいてしまった。
「ミニ神様・・・いえ・・・せっかくなら幸せになってほしいですから」
コホンと咳をして、
「そ、それにお姉さんと茶太郎の第二の人生を手伝うことで、僕の成績が上がるかもしれませんし!」
お礼を言われなれてないのか、ちょっと照れて赤くなっているように見える。
本当は小学一年生だもんね。
「この話はおしまい!さっさと異世界に行っちゃってください!」
「まっ待って!もっと詳しく教え「じゃあ、行ってらっしゃい!」
私の言葉が遮られた。
「投げやりになってない!?」
驚異的なジャンプで、茶太郎が顔面に飛びついてくる。
手加減してくれているのか痛くはないけど、もふもふに埋もれて息できないって!
「もご、はなしてって・・・ば!?」
しっかりとしがみついていた茶太郎をようやく顔面から引き離すと、さっきまでずっと同じだった何もない白い空間――ではなく。
「森ぃ!?」
わさわさと雑草が生い茂った森が広がっていた。
約十分後。
茶太郎、空、綺麗だね~。あはは、うふふ。
私は現実逃避をするために膝を抱え込んで地べたに座っていた。
茶太郎はポンポン背中を撫でてくれる。なんだこの優しい生き物。
この子は道ずれにしたくない。
「茶太郎だけでも生き延びてね・・・」
言葉を聞くと、おろおろ動き回り、前足で地面を軽くたたき始めた。
「どうしたの?トイレ?」
よくわからなくて、首を傾げる。前足でバツのポーズをされた。
ちがうっぽい。
「あ、分かった!怒ってるポーズ!」
また前足でバツのポーズ。違う!という声が聞こえるような気がする。
やれやれ、と茶太郎が肩らしきところをすくめた。
ゆっくりと片方の前足で私を指す。そして、ドスッドスッと地面をたたく。
わかるよね?と言いたげに頭を傾ける様子に、若干圧がかかっているのは気のせいだろうか。
一回落ち着いて整理しよう。茶太郎は前足で私をさした。次に、地面を・・・あぁ!
「ここにいろってこと?」
茶太郎と見つめい、緊迫した空気が流れる。
そして――前足で丸を作った。
「茶太郎から、大当たり頂きました~!」
満足げにうなずくと、茶太郎は森の奥へと消えていった。
それからしばらくたった。既に日は落ち、夜になったせいで少し冷えてきた。
おなか減ったなぁ。お母さんのご飯が食べたい・・・。
「グワーッ!」
さっきから、何の生き物だか分からないけど遠くから気味の悪い声が聞こえてくる。
遠くから、いや、だんだん近づいてきている――?
ガサガサ周りの木が揺れた。
とりあえず武器を探さなきゃ・・・!
二度目の人生という自覚はあまりないけど、せっかく遺体を治してもらって転生したんだから、どうせなら長生きしたい!
腰が抜けそうになりながらも立ち上がって見渡す。
この際、石でも木の棒でも何でもいい!何か落ちてない!?
血眼になって探していると、ふと上から影が落ちた。
「え・・・?」
「グェー!」
武器を探すのに夢中で、全然注意を払っていなかった。目の前には立派なくちばしをもった、見た目は鶏。その大きさ、大体二メートル。鶏は、獲物を見つけたというように大きな鳴き声をあげた。
十五歳の女子、勝てるでしょうか?
「いや、無理無理無理無理!」
「グワーッ」
震える体を無理やり駆使して森の中を突っ切る。
茶太郎にはここにいろとは言われたけど、仕方ない!
「こんな生き物いるなんて聞いてないんですけど!?」
たしかに、『今まで生きてきたところではあまり見られない生物や植物』がいるとは言ってたけどね!?
『強くしておいた』ってミニ神様が言ってたのに、強くなってる気が全然しない。
息を切らしながら後ろを見ると、どんどん迫ってきている。
「うわっ!」
後ろに気を取られてつまずき、ゴロゴロと転がる。
木にぶつかって勢いが止まり目を開けた。
バッチリ鶏と目が合う。
「・・・どうも?」
こちらの気も知れず、鶏はゆっくり近づいてくる。
異世界にきた当日に死ぬなんてやだよ!
助けて茶太郎~!
♦♦♦♦♦♦
一方、茶太郎はやっととれた川魚を口にくわえて、小鞠がいるはずの場所に戻っている最中だった。
現在小鞠が鶏に追われているなど思いもしない茶太郎は、自分の意志の伝え方を考えながらのんびり歩いているのだった。




