第五章 灰の季節・壱
首都ルクスナの星桟橋は朝からざわめいていた。掲示板には「余白は浪費、沈黙は停滞」。雪巴は視線を外し、小さな工房へ向かう。今日から三度目の夏の同行作業。扉を開けると、机に工具、壁に図面、奥で作業ラインが低く唸っている。まず三分、砂時計を返して呼吸を整える。わたしの〈三分会議〉は一人でもできる——見えたものを一行で、次の一手を一行で。
目についたのは待ち時間の重なりだった。工程二の前で紙が詰まり、手が空く人が出ている。雪巴はノートに矢印を引く。「二→四へ並べ替え」。ただし安全のため〈一手戻し〉を赤字で添える。「失敗時:四→二へ即時復帰」。先輩に見せると、「理由は?」と問われた。「紙が擦れる音が増えている。唸りの帯が高い。二番手を後ろへ回すと待ちが重ならないはずです」
小さな入れ替えで、ラインの揺れが一段落ちた。午後のまとめで数字を出す。「中断回数 14→10、再作業率 17%→14%、提出前相談 0→2」。先輩は親指を立てて笑う。「君は、待つのが上手い」。帰り道、灰帽の監察官が掲示の角を整え、腰の灰笛を指で叩いた。雪巴は〈時の布〉を指で押し、戻る速さで心拍を合わせる。——まだ門前払いもあるだろう。けれど三分で戻れば、また前に出られる。