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第二十章 諦めないで

 深夜、工房の机に『時衣手引き』の初版を積む。表紙の帯は白と黒。角に薄く〈時の布〉を貼った。押せば戻り、戻れば進む。工房主は「よくやった……ね」と一冊に指を置き、アジェルは「……仕方ねーな」と書式の余白を最後まで整えた。


 雪巴は宛先を「むかしのわたし」と書いた手紙を封に入れ、砂時計を返す。三分で、黒い夜は霧白へ薄まる。三分で、課題は“相手”に変わる。世界は敵じゃない。余白は燃料。戻れる道を赤で用意して進みなさい。君の時間は君のもの。だから――諦めないで。


 砂が尽きる前に、扉を開ける。廊下にほの白い光。外では橋の上を風が渡っていく。遠くで笛が一度だけ鳴った。翌朝の掲示に、新しい紙が貼られているという噂がもう回っている――「第六十四条案:三分会議の市域標準化」。敵の顔は動き、都市が揺れる。雪巴は白黒リボンを結び直した。三分で戻り、三分で進む。次の橋へ。

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