第十九章 君へ
工房の小部屋に見習いが十人集まった。わたしは扉に「調律中」の札を下げ、机に『時衣手引き』と白黒リボンを置く。最初にやるのは三分会議だ。目的を一言で宣言してから、三分だけ静かに座る。紙の擦れる音、金具の触れる音、作業ラインの唸り――帯域の高いところが詰まりだ。終わったら一行で共有し、失敗時の〈一手戻し〉を赤で書く。
数字で確かめたい人のために、壁の板を見せる。三指標――中断回数/再作業率/提出前相談――は○△×でもいい。昨日は中断が三十三から二十七へ、再作業は十二%から九%へ。相談は七から十一に増えた。前倒しの相談は遅延じゃない、あとで戻さなくていい遅延だ、と何度でも言う。
質問が出る。「三分で足りますか」「怖くて黙っていられないときは?」。わたしは時の布を指で押して見せる。押した形がゆっくり戻る間、呼吸も戻る。三分は短いけれど、戻るには十分だ。群島で夜に耐えたころ、わたしは三分の砂で泣くのをやめる練習をした。放課後の教室で、院師に言われた。「君の瞳は猛獣のようだ。世界は敵か?」。三分後に決める、と答え方を学んだ。
「仕事は遊戯みたいに楽しんでほしい」と工房主は言った。遊びは軽さじゃない。集中を長持ちさせる“遊び方”を、手順に落とすこと。刻針で秒を縫うように、動きを細く刻むこと。白黒リボンは二人の合図だ。誰かと向きが揃うと、早さは刃ではなく方向になる。
終わりに、見習いへ短い宿題を出す。明朝、三分会議を一度だけやって、板に三指標を記す。できたら手引きの余白に今日の“一手”を書いて、また来てほしい。世界はたまに硬い真っ白に見える。けれど霧白に薄める方法はある。三分で戻ってから、進もう。




