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第十八章 星桟橋へ
夜行の甲板に油の匂いと潮が混じる。風は冷たく、金具が低く鳴る。少し離れて“境界線を守る人”が立った。距離を詰めず、離れすぎない位置。彼は上着を肩にだけ掛け、視線で「ここでいいか?」と尋ねる。
「ここでいい。三分、黙る?」
「黙ろう」
床に小さな円を描き、二人で三分会議を始める。波、鉄、遠い船笛。言葉は最小で、一行ずつ。「明日、札の位置を二重化」「“誤配の一日”を教材化」。円が解けると、彼は短くうなずいた。
「君の戻りの速さは、君が決める。誰にも渡さない」
「うん。払う時間と払わない時間は、わたしが決める」
岸が近づくほど、昔の影が濃くなる。けれど影は影のまま、顔は見えない。〈時の布〉を押し、戻りの速度で息を整える。白黒リボンを結び直し、合図を胸にしまう。距離は距離のまま。支えは、支えのまま。




