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第十二章 耳を澄ます円
床に白墨で小さな円を描いた。三人が座ればいっぱいの、控えめな輪だ。砂時計は伏せ、呼吸で三分を刻む。最初の三分は静けさだけがいて、二回目で音が層を作った。紙の擦れ、金具の触れ、作業ラインの唸り。昼前に足音が速くなる場所がある。そこが中断の山だ。
「言葉は一行で」工房主が紙を配る。
わたし——提出前相談の入口をもっと手前に掲示。
アジェル——中断の切れ目を昼前に仮設、段取り表を前倒し。
先輩——新人の再作業偏在、声掛け順を固定。
合図に合わせ、入口に「調律中」の札を下げ、掲示を一枚追加した。三分会議は午前二回。終わったら数字を板へ。中断は四十から三十三へ、再作業は十六%から十二%へ、提出前相談は三から七へ。
夕方、帯域がひと息低くそろう。アジェルは右耳に手を当て、「……戻ったな」と小さく笑った。「仕方ねーな、続けよう。申請も出す」
「うん。明日も三分×二回、やってから話す」
島で身につけた三分の盾は、いま、工房全体の呼吸になりつつある。守るべき五分を自分たちで決めるために、まず三分で耳を澄ます。奪われていた時間を取り返す方法は、大げさな魔法じゃない。小さな輪と、短い静けさと、紙に走る一行だ。




