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第十一章 時務庁の帳

 朝いちばん、灰色の封筒が届いた。封蝋には天秤と砂時計。中身は通達だ。第十七条――無為の五分、禁止。第三十四条――三分会議、許可制。第五十二条――私物計時器の規格化、色砂は没収。ほどいた紙は冷たくて、昔の家の空気を思い出した。誰かの機嫌で一日の色が決まる、あの感じ。でも、いまは違う。境界線は自分で引ける。


 外では監察官が掲示を張り替えている。「余白は浪費、沈黙は停滞」の文字が濃くなった。わたしは視線を外し、入口に「調律中」の札を下げ、作業場の唸りを耳で確かめる。紙より先に音を整える。これが合図だ。


 昼、帳簿係が現れた。灰の帳票、乾いた声。「午前の余白、記録は?」

「三分×二回。会議は“計測行為”として申請中です」アジェルが板と草案を出す。折れ線の山は、少しずつ丘になっている。


 帳簿係は短く頷き、「観察は継続。ただし申請」と印を置いた。扉が閉まると、工房主は窓を少し開けた。潮の匂いが薄く入り、唸りが呼吸に似て整っていく。


「紙の言葉が強い日は、音で自分たちを取り戻そう」と工房主。

「はい」わたしは〈時の布〉を押し、戻る速さで呼吸を合わせる。規則は避けられない。だから、使い方を決める。三分で戻る。三指標で示す。あの家から抜け出した夜と同じように、今日も静かに、線を引く。


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