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微笑みの裏側


王都の中心にそびえる、白亜の学び舎――王立総合学院。

高く尖った塔と、石造りの回廊が陽光に輝き、まるで絵本の中の城のようだった。



王都に来て数日、見慣れない景色に心が踊りっぱなしだ。



―――まるで留学生みたいだけど。カモミラの学院生活は、現実的にはそんな甘いものじゃない。



魔術の才能もなければ、まともに勉強したことのないカモミラは、学院になじめず、頼れるひともいない孤立無援である。転生前の記憶だけが頼みの綱というわけだ。





数人の特待生向け簡易講義は頭がいっぱいで集中できなかった。


「生徒手帳は各自確認しておくように。手続きが終わった者から、初等魔導講義室へ向かいなさい」


事務官が言い渡す。ほかの特待生たちの流れに合わせて書類を提出する。


―――ゲームだと、このあと最初の魔法暴走イベントが起きて、王子が助けてくれるんだったっけ



この間の王子の表情が頭をよぎる。

不審、軽蔑といった感情を向けられ、さすがにへこんだ。

ジグルドはカモミラにいつも優しかった。強引で俺様なところが好きだった。

出会いもカモミラを助けるところから始まるはずだったのに―――








心ここにあらずというように講義室に向かい、指定された席につく。

木目の浮かぶ重厚な机。深い琥珀色の艶が、丁寧に磨き上げられていた。

幾年もの時を経た温もりが、静かに滲み出ている。



まさに“選ばれた者”たちの空間という感じだった。

周囲には、格式の高い仕立ての制服を纏った貴族の子女たち。どこか張りつめた表情を浮かべている。

その一方で、特に目を引くグループでは年若さにそぐわぬ静けさと品位をまとい、まるで幼き頃から舞台の幕裏に立ち続けてきたかのような、確かな佇まいを見せていた。


みな、所作が洗練されていて、言葉の端々に誇りと余裕を滲ませている。

当然だが特待生の隣に貴族はいない。


―――浮いてるわ。間違いなく。



不安を抱えたまま、講義が始まろうとしたそのとき。


教室の空気が、ぴんと張り詰めた。

廊下に響く革靴の音―――誰もが同じ制服、同じ靴を履いているはずなのに、なぜだろう。

王族の歩みにだけは、不思議と耳を奪われる。凛と澄んだその足音は、空気を振るわせ、空間に余韻を残すかのようだった。


教室の扉から入ってきたのは―――

金色の髪。完璧な姿勢。清廉なオーラ。

その存在を前に、生徒たちは自然と席を立ち、軽く頭を下げる。



「ジグルド殿下……」



そう、彼は“理想の王子”。そして、わたしが追いかける未来の―――


初対面とは違う。今回は、わたしは“同じ学院の生徒”として、彼の前に立っているのだ。

彼の視線が一瞬、わたしをとらえる。


思わず息をのんだ。


「……ああ。お前は、あのときの」



彼の瞳が、まっすぐにわたしを見ている。

まるで、わたしだけを―――覚えていたかのように。



胸が高鳴る。これだ、これが「王子様」との再会。


―――よかった...ちゃんと、物語は進んでる



でも、その瞬間ほんのわずかに、彼の口元が緩んだ。


優雅な微笑。


それは、記憶にある“ゲームの王子”と、ほんの少しだけ違っていた。


けれど今の私は、その違和感の正体にまだ、気づいていなかった。



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