表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/44

第43話 ミシェルはやっぱり、ウサギのようだ(キース視点)

 目の前で、顔を真っ赤にしているミシェルが可愛すぎて、キースは目を細目ながら笑った。


 いくらでも彼女を見ていられる気がした。

 木漏れ日がかかる赤い髪は華やかな花も負けるくらいに輝いているし、その柔らかそうな頬も、触れたい──本音でいえば食べたいくらいに愛らしい。


「それも美味いな」


 口の中のパンケーキを飲み込み、そういえば、ミシェルは頷いて、ナイフとフォークを一度下ろし、カップに手を伸ばした。

 よくある動きだっていうのに、一つ一つの仕草が可愛くて仕方ないのは何でなのか。


 一瞬、疑問を浮かべたキースだが、そんなのは些細なことで、ミシェルが嬉しそうに笑っているのを見るだけで、どうでもよくなる。


「ここには、また来ないとだな」

「……う、うん」

「ん、どうした。こっちの方が好きだった?」


 突然、しおらしくなったミシェルに目を瞬かせたキースは、無花果イチジクをナイフで示す。だけど、そうじゃないと言うように、ミシェルは慌ててかぶりを振る。


「そうじゃなくて……なんでもない!」

「お、おう?」


 突然ナイフを動かし始めたミシェルは、黙々とパンケーキを口に運びはじめる。生クリームと一緒に口にいれたナッツが、カリコリと噛み砕かれる音が響いた。


「そんな急いで食うなって。取ったりしないから」

「べ、別にそんなこと思ってないし」

「あー、ほら、また口にクリームついてるぞ」

「え、嘘っ!」


 伸びてきた指に慌て、咄嗟にテーブルナプキンで口元を拭ったミシェルは、紅茶を一気に煽って喉を潤す。

 ころころ変わる表情が面白い。

 その慌ただしい様子を見て、キースはこういう時間も悪くないなと思うと、自然と口許に笑みを浮かべた。


「……笑わなくっても良いじゃない」

「ほんと可愛いなって思ってさ」

「また、子どもだって言うんでしょ?」

「いや──」


 一度そこで言葉を切ったキースはミシェルを見つめる。

 生クリームとハチミツで、しっとり潤った唇がちょんっと突きだされている。拗ねている姿は、子どもっぽいが可愛くて仕方ない。

 その唇に触れたいと言ったら、どんな反応を見せるのか。そう思いながら、苦笑した。


「好物を前にしたウサギを見てるようだなって思ってた」

「うっ、ウサギ……!?」

「前から思ってたけど、お前ってやっぱ小動物っぽいよな」


 ふわふわしていて抱き心地も良さそうだし。と続いた言葉はすでにミシェルには届いておらず、フォークをパンケーキに突き立てると「知らない!」と言って再びそれを口に運び始めた。


 機嫌を損ねても可愛い姿に、自分はだいぶ重症だなと思いながら、キースは紅茶を口に運んだ。


 風が吹き抜け、木々の葉が擦れてかさかさと音を奏でた。

 華やかな紅茶の香りを吸い込み、ふと木々を見上げたキースは美しい緑の木漏れ日に目を細めた。それは己の瞳の色によく似ている。そしてもう一人──


「なぁ、お前の兄ちゃん、捕まえなくって良かったのか?」

「……それは」


 手を止めたミシェルは少し思いつめた顔をした。

 ヴェルヌ山を降りてハーディに戻り、ミシェルの体調が回復するまではしばらく付きっきりで傍にいたロデリックだったが、彼女が動けるようになると忽然こつぜんと姿を消したのだ。


「まさか、精霊使いになってるとは思わなかったし、何か、目的があるんだと思うの。勿論、お父様には報告するけど」

「そっか。まぁ、案外近くにいる気もするし……まだ俺のことを認めてないみたいだし、また会えるだろう」

「……うん」


 ミシェルがパンケーキを口に運ぶのを見ていたキースは、少し離れた彼女の後ろに視線を向けた。


 そう、案外近くにいるものだ。



 二人を室内からこっそりと伺う二つの影があった。

 手を組んでテーブルに肘をつき、深いため息をつくのは兄ロデリック。その向かいでは、アニーがご機嫌な顔でパンケーキを口に運んでいる。


「なぜ、私があなたと茶を飲まないとならないのだ?」

「あんたが王都にいること、ミシェルに話しても良いのよ?」

「……それは困る」

「じゃぁ、これくらいの口止め料ですむことを、ありがたく思ってほしいわね」


 フォークをひらひらと動かしたアニーは、テラス席に視線を投げた。

 窓を隔てていることもあり、キースとミシェルが何を話しているのかさっぱり分からないが、二人は終始笑顔だ。


 初々しさにこっちが恥ずかしくなる。そう思わせるほど微笑ましい光景で、当人たちは気付いていないが、周囲の席に座っている客もちらちらと見ては微笑んでいた。


「ねぇ、諦めたら? どう見たって、あれは相思相愛よ」

「私はまだ認めん」

「頑固ねぇ。あら、二人が席立ったわよ。ちょ、今立ったら気付かれるでしょ、バカ」


 立ち上がろうとしたロデリックのすねを蹴り飛ばしたアニーは、俯いて痛みをこらえる彼を気にする様子もなく、会計に向かうキースとミシェルの様子を注視した。どうやらこちらには気づいていないようだ。


「追いかけるの?」

「当たり前だ」

「ミシェルも可哀そうね。慕っているお兄様がとんだ粘着質男ストーカーだなんて」

「何とでもい言え。ミシェルのためだ」

「……あんた、童貞でしょ」


 最後のひと口のパンケーキを口に放り込んだアニーは、黙るイケメンの微妙な表情に「マジ?」と顔を引きつらせた。

次回最終回、本日20時頃の更新となります

最後まで、どうぞよろしくお願いします!


続きが気になる方はブックマークや、ページ下の☆☆☆☆☆で応援いただけますと嬉しいです。

↓↓応援よろしくお願いします!↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ