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なろうラジオ大賞6

飛んでこなくなった紙飛行機

 小学校低学年の頃、僕は一軒家に住んでいた。二階建てで庭があって、庭には芝生があった。


 芝生の上に、ある時紙飛行機が落ちていた。僕が知らない折り方の紙飛行機。試しに投げてみると凄く飛んだ。


 翌日も紙飛行機が飛んできた。開いてみても、何か書いてあるわけではなかった。紙飛行機は雨の日は飛んでこなかった。


 出かけた先で紙飛行機を見つけたこともあった。当然の事ながら、風向きは毎日同じではない。出かけた先と僕の家の間には病院があった。


 母さんは、

「ターミナルケアの病院なの。入院している人が飛ばしているのかもよ」

と言った。


 ある日を境に紙飛行機が飛んでこなくなった。母さんは何も言わず、庭に白い花を何本か並べた。


 当時は分からなかったけど、そういう意味だったんだ、と芸能人の葬儀の様子をTVで見てやっと分かった。


 僕たちは引っ越すことになった。父さんが転勤することになったからだ。気に入っていた家、街、友だち。離れる事が決まって、僕は泣いた。


 新しい学校に行く時は凄く緊張した。高学年で転校生になるなんてついてない。もっと小さい頃だったら、あっという間に馴染めたんじゃないかな。


 新しい担任と新しい教室に入って、僕は自己紹介をした。挨拶がてら、教室の背面黒板に向けてあの紙飛行機を飛ばした。


 その時僕をジッと見ている男の子がいた。なんだろう?ちょっと怖い。休み時間になると僕に話しかけてきた。


「その紙飛行機見せて」

「いいよ」

「やっぱり!なんで折り方知ってるの?」

男の子は驚いていた。


「前に住んでた家の庭に飛んできた紙飛行機なんだ」

「……話したい事があるから、放課後ちょっといい?」


「……う、うん」

「じゃあ、また後で」

なんだろう。


 同級生が帰った後の教室で、彼は話し始めた。

「俺の心臓、移植されたものなんだ」

僕は何も言えなかった。


「移植後急に折れるようになった紙飛行機と同じなんだ」

彼は僕の目の前で紙飛行機を折った。


「同じだ……」

「知ってる?前の臓器の持ち主の記憶を受け継ぐ事があるって話」

「あぁ、TVで見た」

「それじゃないかと思ったんだ」


「……その紙飛行機、突然飛んでこなくなったんだ」

「三年前の十月?」

「そのちょっと前くらい」


「じゃあ、きっとそうだ」

彼の目に涙が浮かんでいた。

「その人の分も生きなきゃ」

「きっとこの紙飛行機の折り方広めた方が喜ぶよ」

「そうかもな。これ、凄いもんな」

「それな」

秘密を分け合った僕たちは握手をした。


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