天使はある美しい魂を見つけた
天使が地上を眺めていると、一際美しい魂がある母親の腹に入っていくのが見えた。
それはいままで天使が見た中で最も美しく清廉な魂だった。
「ああ、なんて美しい魂だろう。あんな魂は、ぜひ守護して、天国に迎え入れないと」
そう決めた天使は天国から飛び降りると、子どもを守護するためにその母親の元へと舞い降りた。
子どもが生まれると、天使はあらゆる害からその子どもを守った。
病気が近づけば病原体を追い払った。怪我をしそうになればさりげなく救った。時には人間に姿を変えて危険から遠ざけた。
子どもが学生になると、一目惚れした相手にキューピッドの矢を使い失恋で傷つかないようにもした。
賭け事での失敗を防ぐために大勝ちもさせた。
子どもが喧嘩に巻き込まれたときには、相手が大怪我を負うようにもした。
そうして子どもは大人になり、いつの間にか非合法な仕事に手を染め、人を傷つけてもなんとも思わない、大きな組織を動かす非情な人物になっていた。傲慢で鼻持ちならないと言われていたが、それが耳に届くことはなかった。
わずかでも心が、魂が傷付くような事態は、すべて天使によって阻止されていた。
それから数十年後、その人物はついに寿命を迎えようとしていた。その側には天使が控え、ここまで育てた魂は、あれからどれどけ美しくなったのだろうと楽しそうにしていた。
そしてついに体から魂が離れたとき、天使は思わず声をあげる。
「なんだい、この汚らしい魂は」
そこには悪徳に塗れて、美しさが見る影もなくなった魂が存在していた。
天使はその魂を摘むと、母の腹に宿る前に見せたあの美しさの欠片でも見つからないかと探すが、そんなものはもうどこにも残っていなかった。
天使は鼻を鳴らすとその魂を投げ捨てる。
「あれだけ丁寧に育てたって言うのに悪徳まみれになるなんて、人間ってのは本当にどうしようもないな」
そう言って一人で天国へと帰っていった。
天使によって投げ捨てられた魂はしばらく漂ってからある女性の腹へと入り込んだ。
その魂を地獄から見上げていた悪魔が呟く。
「ああ、なんて穢れた素晴らしい魂だ。あんな魂はぜひ俺様が直々に鍛え上げて、悪徳を蔓延らせる旗印にしなければ」
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