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最終話

 


「……きゃっ! ステファン様!!」

「おはよう、リュシー。今日も可愛いね」


 それからのステファン様は朝から会うなりまず、私を抱きしめるようになった。

 

(そして必ず可愛い……とか言うのよ! もう!!)


 そうして、そのままチュッチュとキス攻撃へと移り……私の顔は朝から真っ赤になる。

 この王子様はキス魔だと思う。

 

「……ステファン様、分かっててやっているでしょう?」

「…………なんのことかな?」


 なんて誤魔化すくせに、私がちょっとプクッと膨れると、「リュシーが可愛すぎる!」ってすぐに悶えてしまう。

 だけど、こんな時間がとても心地よい。

 私がそう感じていることをちゃんと伝えたい。


「ステファン様」

「……どうしたの? リュシー?」

「だ、大好きです!」

「え?」


 突然の告白にポカンとするステファン様。


「で、ですから、こんな風にあなたと過ごせる時間が私は…………ってあれ?」

「…………」


 ステファン様が真っ赤になって口元を手で押さえながら私を見つめている。

 そして、小さな声で呟く。


「何だろう、この幸せ……言葉に出来ない。あぁ、リュシー……」


 そして、再び私に手を伸ばして触れようとする。

 だけど、そこで声がかかる。

 

「あー……失礼、ステファン殿下。それに、リュシエンヌ。二人はこのまま遅刻する気かい?」

「「あ!」」


 ずっと私たちの様子を見ていたお父様の呆れた声で我に返った。


(また、やってしまった!)


 先生たちにも“二人の世界を作りすぎ”とお説教されたばかりなのに!


「す、すまない……行こう、リュシー」

「は、はい! お父様……行って参ります!」


 私たちは手を繋いだまま慌てて馬車に乗り込んだ。

 そして、ステファン様が当たり前のように私の隣に腰を下ろし、抱き寄せられた辺りでようやく私は気付く。


 ───ん? 馬車?

 

(待って? 馬車の中でこそ二人きりよね? これって……)


 チラッとステファン様を横目で見ると、バッチリと目が合う。

 そしてニッコリ笑われた。


「ははは、リュシーは分かりやすいね?」

「!!」


 私は息を呑む。

 そして、頬が熱い。


「僕は、リュシーがお望みとあらば、幾らでもイチャイチャ……」

「いいえ!? 私は何も言っていないですよ!?」

「……リュシーは照れ屋さんだね。そんな所も可愛い」

「あっ……」


 そうして、あっさり私は捕まり、ステファン様のキス攻撃が始まる───



「……んん」

「リュシー……」


 ステファン様は唇だけでなく、額や頬、手など色々な所にキスをする。


(そんなにキスがお好きなのかしら?)


 人前でされたらさすがに恥ずかしいけれど、嬉しい気持ちは変わらない。

 そんな風に、甘い時間を過ごしていたら、ステファン様が少し真面目な表情に変わった。


「リュシー」


(……?)


 私は顔を上げる。


「ウォーレン皇子の強制帰国が決まったよ」

「!」

「我が国からの永久追放……つまり、彼は今後、この国への入国は一切禁止となる条件が付けられた」


 その言葉にハッとする。


「そ、それって……」


 そうなると、ウォーレン殿下は隣国の跡継ぎから……


「そうだね。外交の出来ない皇子は後継者レースからは脱落確定だろう」

「……!」

「具体的にその他の細かい処分はあちらの国に任せることにしたけれど、ウォーレン殿下がこの国でしたことは全て報告済みだ」


 そんな大きな話をニッコリ笑って告げるステファン様から感じるのは黒いオーラ。

 これは言葉通り、包み隠さず全て報告しているのは間違いない。

 つまりそれは、場合によってはウォーレン殿下は皇族からも追放される可能性も……?

 

 改めて思う。

 ウォーレン殿下の未来は大きく変わってしまった。


(ある意味、彼もシナリオ通りの未来を望んだだけだったけれど……)


 やっぱり現実を見ないで、自分の気持ちばかり押し付けて人の気持ちを無視し続けた代償は大きいのだと思わされた。


(彼の末路は私にも起こりえたかもしれない未来……)


「もし、ウォーレン殿下があのしつこさで諦めていなかったらどうしていましたか?」

「ん? そんなの二度と起き上がれないくらいに叩き潰して再起不能にするだけだよ?」

「……」


 ステファン様は、そんな物騒なことをなんでもないことのようにあっさりと言う。


(あ、無理! ウォーレン殿下は絶対、ステファン様には勝てない)


 この瞬間、私はそう悟った。


「そうそう。ついでにあの気持ち悪い迷惑女もあっちの国に押し付けることにした」

「……え?」

「ほら、特待生のあの女、退学になっただろう?」

「え、ええ、そうですけど」

 

 ウォーレン殿下とアンネは泣き崩れていた後も、二人揃ってなかなか現実を認めようとせず先生たちはとても手を焼いた。

 中でもアンネは特待生として入学したにも関わらず、あまり勉強に身が入っておらず、そして今度は王子を誘惑しようとしたという騒ぎを起こしたことで、学園としては“退学”以外の道はないと判断された。

 また、階段落下事件を起こしていることも関係しているのは間違いない。


(アンネだけは漫画の通り退学……)


 本当にもう私の知っていたシナリオはめちゃくちゃだ。


「アンネ……さんは隣国でウォーレン殿下の元で暮らすのですか?」

「いや、どうかな? ウォーレン殿下は何であんな役立たずな女を俺が! って全力で拒否している」

「……拒否ですか」


(でも、ステファン様はそこを無理やり押し付けた……と)


 ステファン様って絶対に敵に回してはいけない人よね、と、改めて思う。

 私に好かれたくて変わったとか言っていたけれど、変わりすぎだ。

 ステファン様こそ、この世界のシナリオを崩した……


「当然! 僕はリュシーに害を成す人には容赦しないって決めているからね!」


 ステファン様はニッコリとした笑顔で、またもやそんな物騒な事を平気で口にする。

 そこでようやく私は気付く。


(違う! 原因…………私、私だわ!)


 ステファン様を変えてこの世界のシナリオが大きく変わることになった一番の原因は他の誰でもない。

 あの小さな頃の怖いもの知らずだった私──……


(あぁぁ……)


 私は頭を抱える。


「どうしたの? リュシー」

「いえ、少しこれまでの自分(のしたこと)を振り返っていました」

「ははは……何それ? リュシーはやっぱり可愛くて面白いね」


 笑って軽く流したステファン様は、再び顔を近付けて来る。


「ま、また……!」

「ん、諦めて? 僕の理性はリュシーを前にするとペラッペラだから」

「!?」


 チュッ……


「リュシー、大好きだよ」

「~~!」


 迫られながら私の脳裏に浮かんだ言葉───

 

 ────リュシエンヌ! 貴様は、ここにいるアンネを平民だからと言う理由で不当に虐め陥れたと言うじゃないか! もう我慢ならん! 貴様とは婚約破棄だ! 俺は真実の愛を見つけた。そして、その相手は貴様ではない!!


(この言葉をステファン様の口から聞くことはないんだわ……)


 代わりに聞けるのは、私に向けたたくさんの愛の言葉。

 不思議ね。

 悪役令嬢の私は、この目の前にいる王子様に婚約破棄されて隣国で幸せになるはずだったのに。


(私の幸せは、ここに……ステファン様と共にある)


「……ステファン様」

「うん?」

「幸せに……私たち、幸せになりましょうね?」

「……」


 私の言葉にステファン様は少し目を瞬かせた後、破顔した。


「勿論だよ、リュシー!」


 ステファン様は嬉しそうにきつくきつく私を抱きしめた。

 その温もりに私は幸せを感じる。



 ───ここから先は、誰も知らない未来が待っている。

 悪役令嬢でもバカ王子でもない私たちの未来。


(この先に何が待っているは分からないけれど、これだけは確信を持って言えるわ)


 ───隣国に行かなくても、悪役令嬢は幸せになれました! ってね!



 ~完~



これで完結です。

ここまでお読み下さり、ありがとうございました!


他サイトに投稿したのが2022年4月……2年近く前になることに驚きつつ、

かなり修正と加筆をしました。(これでも)

各話のサブタイトルも追加しようかとも思ったのですが、思いつかなかったため断念。

読みにくかったら申し訳ないです。(考えるの苦手なんです)


他サイトのあとがきにも書いたのですが、この話は何が書きたかったって……

ヒドインの男性バージョンです。

ヒドインはすっかり定着していますが、男性の場合はなんと呼ぶものなのでしょう?

当時、コメントで色々意見もらいましたが結論は出なかったです。


なんであれ、最後までお付き合い下さりありがとうございました!

完結記念にポチポチしてくれたら最高に喜びます。


私は、無駄に作品数だけはあるので、そんなに間を開けずに次の話もどれか選んで持ってくる予定です。

見かけた際、また読んで貰えたら嬉しいです。


ありがとうございました!



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― 新着の感想 ―
[一言] ステファン様のリュシーちゃんへの溺愛がとても甘くて素敵でした。 最初から最後までステファン様がリュシーちゃんを大好きなのがとても癒されました。 後、ステファン様が紳士でかっこよかったです。
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