始まり
高校三年生の春。
クラス替えなんて今さら一喜一憂したりしない。
仲の良い人とクラスが別になっても、同じクラスでまた見つければいい。
広く浅く交友関係を保つのは数少ない特技の一つだ。
そんな事を思いながら、学校までの道のりを歩く。
僕と同じ道のりを歩く生徒達はクラス替えでわいわいとはしゃいでいる。
そんな雑音を消したくなりイヤホンを両耳につけ、音楽を流す。
ただ一つ、少しだけ願っていいのならば憧れの彼女と同じクラスになりたい。
と言っても、仲がいいわけではない。
彼女はどちらかといえば大人しく地味めな方だと思う。
ただ綺麗な顔立ちと誰にでも分け隔てなく接するから、皆の人気者だ。
僕はその姿を遠くから眺めるだけで充分だ。
僕は特に取り柄もない平凡な人間だと自負してる。
期待なんてしない。
ただ、横目で見るくらいがちょうどいい距離感なのだ。
そんな事を考えていながら、昇降口に貼られたクラスの紙を見る。
…うん。前クラスで仲良くしていた人もいるしぼっちは回避できそうだ。
一安心したところで上からもう一度しっかりクラスメイトを確認する。
「…うわ。まじか。」
憧れの彼女の名前がある。
実はこれで3年連続同じクラスだ。
ここで運を使いすぎているような気もする。
「秋飛ー。おはよー。また同じクラスだな」
僕の名前を呼ぶこいつは、数少ない友人の一人だ。
明るくスポーツ万能。モテる。
なぜ僕と仲良くするのかはわからないが、気が合うので一緒にいて居心地がいい。
「おー。おはよ。また一也と同じクラスになるとはな。去年同様お世話になります。」
半笑いしながらお互い頭を下げて挨拶をする。
このふざけたノリもこいつとだからできる。
「なあなあ。秋飛さ今回もあの高嶺の花と同じクラスじゃん!3年連続ってやばくね?」
一也が彼女を高嶺の花と言うのは僕が彼女の事をそう呼ぶからだ。
やめてくれと何度も言ってるが僕自身のせいだからあまり強くは言えない。
「…何回も言ってるだろ。彼女を高嶺の花って呼ぶなって。ちゃんと山下冬空って名前があるんだから。俺は隠れて呼んでるんだから。」
「はいはい。りょーかい!」
絶対話聞いてないな、こいつ…。
でもくだらない話を出来る友人と憧れの彼女がいる。
それだけで最後の高校生活幸運だと思った。
この時までは…。