第1話「勇者、ここに立つ!」
「ここから全てが始まる…」と、
この物語の主人公である俺はそっと呟いた。
目の前に広がる大地を見据え、決意を新たにした。
俺が今立っている場所は、
『はじまりの村』
そう、ここが旅のスタート地点だ。
まだ見ぬ世界への興味と好奇心に胸を膨らませ、
大きく息を吸い込んだ。
ごほごほ…吸い込み過ぎて少しムセてしまったぜ。
村人Aが心配そうにこちらを見てくる。
そんな目で俺を見るな!
あ、いや、ホント大丈夫ですから…心配かけてすいません。。
…コホン。
これから先、
まだ見ぬ世界を舞台に冒険と挑戦に満ちた日々が待っている…
きっと、不安や恐怖を感じることもあるだろう。
しかし、俺は俺自身の可能性とシルバーフェンリルを信じている。
おっと、シルバーフェンリルというのは俺のパートナーの名前だ。
厨二病っぽくてめちゃくちゃカッコイイ名前だろ?
ふふっ。
俺たち2人ならば、どんな困難もきっと乗り越えていけるはずだ!
おぉ!シルバーフェンリルが激しくしっぽを振りながら、
キャンキャン鳴いている…喜んでいるようだ!
よせよせ、そんなにぺろぺろ舐めるな。
あぁ…せっかく新調した装備がよだれまみれになってしまった…
うぅっ(涙)
「…ここから全てが始まる」と、
よだれまみれになりながらも俺は再び呟いた。
…うーん、しまらないなぁ。
そして、
俺は未知の世界への第一歩を踏みだそうとしたのであった。
一歩踏み出そうとした…その瞬間に後悔が襲ってきた。
右足から1歩を踏み出した方が良いのか、
左足から1歩を踏み出した方が良いのか…
どちらから記念すべき第1歩を踏み出すのが正しいのかと考え、
不安になった。
心が揺らめく中、1歩を踏み出せずにいる俺は、
どうするべきか悩んだ。
…多分、3時間位は悩んだと思う。
…それでも、立ち止まっているわけにはいかなかった。
自分が選んだ道を進み未来へと向かっていくしかない。
そう心に決め、俺は歩みを進めていく決心をしたんだ。
だって…そうしないと、
また村人Aがさっきから心配そうにこちらをチラチラと見ている。
…このままだと、不審者がいると通報されちゃうかもしれないからな(汗)
ふと、俺は、パートナーのシルバーフェンリルが不安そうな表情でこちらを見ているのに気がついた。
どうして不安そうにしているのか心配になり、話しかけた。
「どうしたんだ、シルバーフェンリル?何か悩み事でもあるのか?」と優しく声をかけた。
シルバーフェンリルは、俺の声に反応して、小さく尻尾を振った。
しかし、まだ不安そうな表情は消えていなかった。
俺は、改めてシルバーフェンリルの様子をよく観察して、
何か見落としていることがあるのではないかと考えた。
そして、シルバーフェンリルが見ている方向に目を向けた。
すると、…そこには何もなかった。
「何が気になるんだ?何か見えるのか?」
と俺は不思議そうに問いかけた。
すると、シルバーフェンリルは、再び不安そうな表情を浮かべた。
彼は、俺にはわからない何かを感じ取っているようだ…。
刹那、後ろから何かが近づいてくる音が聞こえたので、
俺は慌てて振り返った。
そこには見慣れた人物が立っていた…そう村人Aだった。
村人Aは、こう言った。
『あのー、6時間も同じとこでつったって何やってんスか?マジで大丈夫っスか?』と…。
なんと!体感3時間位だと思っていたが、
実際には6時間も経っていたようだ…びっくりした!
どうりで…お腹もすいてきた訳だ。
あ、そうか、シルバーフェンリルが不安そうな表情をしていたのは、俺がなかなか1歩を踏み出せずにいたからか…(汗)
…でも、もう大丈夫!俺はもう迷わない!!さぁ進むぞ!!!
そう覚悟を決めた俺の背後から、
また、何かが近づいてくる音が聞こえ、俺は慌てて振り返った。
すると、なんとそこには今まで見たこともない生き物が立っていた。
その生き物は、巨大な翼を持ち鋭い牙と爪を備えていた…
え?ドラゴン!?
俺は恐怖に打ち震えた。
逃げ出したいと言う気持ちはめちゃくちゃあったが、
なんせ6時間も立ちっぱなしだったせいか、
足が棒のようになり歩けない…。
「足が痛い…何ということだ…ここはまだ、はじまりの村の敷地内だぞ?どうしてこんな場所にドラゴンがいるんだ?…それにしても足が痛い」と俺は困惑した。
ちなみに俺の目の前にいるドラゴンは、この辺りに生息しているスライムのようなザコモンスターなんかじゃなく、明らかにヤバそうなオーラが出まくりだった。
「シルバーフェンリル!助けて!」俺はとっさに叫んだ!
シルバーフェンリルは、俺の言葉を理解しているかのように、
モンスターに近づいた。
そして、モンスターが襲いかかってくるのを見計らって、
シルバーフェンリルは飛び掛かり、モンスターの喉元に噛み付いた。
しかも噛み付くだけではなく…何かビームみたいな攻撃も繰り出して、しっかりトドメまでさしてた。
…すっげぇ。
助けてくれてありがとう!シルバーフェンリル!
やっぱり俺たち2人は最強だ!…などと思っている俺を横目にシルバーフェンリルは、ビームでいい感じに焼けたモンスターのお肉を美味しそうに食べている。
「あっ…お腹がすいていらしたのですね。」
…俺はシルバーフェンリルを怒らさないようにしようと強く心に誓った。
「それにしても一体、なぜ、こんなところにドラゴンが湧いてでてきたのか…」と俺は疑問に思った。
いや、はじまりの村の入口には門などはないので、
町の外と町の中は簡単に行き来はできる構造ではあるが、
いわゆるRPGの世界と言うのは、町の外にはモンスターがいるけど、町の中には入って来れない設定のはずだ!
なのに、…いったいどうして!?
しかもいきなり『はじまりの村』でドラゴン出てくるとか無理ゲー過ぎでしょ?
町にモンスターが現れる原因を探さないと、
冒険を続けていくどころじゃないよな…。
何か原因があるのかもしれない、
そう思った俺は村人Aに話を聞いてみようと思った。
しかし、そこらじゅうを見渡したが、もう村人Aの姿は無かった。
辺りはもう真っ暗だし…きっと家に帰ったのだろう。
新たな冒険の旅の始まりを感じながらも…
俺は、村を出発すること無く、まだ村の入口で立っている。
〜第1話終了〜