表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/38

4話

「ソラ、あれ……」


「またか、キリがないな」


 十メートルほど先の壁から、二体のスケルトンソルジャーが押し出されるようにして出てくる。


「俺は向かって右をやるから、あずさは左を頼む」


「わかった」


 二体のスケルトンソルジャーは、関節をカチャカチャと言わせながら、重そうに剣を持ち上げた。

 その剣が一番上まで上がった瞬間、俺は体を低くしたまま、素早く剣を振り上げた。


 スケルトンソルジャーは頭を落とすと、ガクッと体を崩し、倒れた。

 俺とあずさの攻撃は、ほぼ同時だった。おかげで二人とも、全くダメージを受けていない。


「やったな。あ、レベル4に上がった」


「私もだ」


「結構どんどん上がっていくな。ついさっきまでレベル1だったのに」


「まあ、ゲームとかでも最初はレベル上がりやすいし、そういうもんなんじゃない? それに私たちだけで全部倒してるし」


「それもそうだな」


 スマホの時計を見ると、護衛の隊員たちが全滅してから二時間近くが経過していた。

 あずさはすっかり泣き止み、俺も落ち着きを取り戻していた。


 しかし、俺たちが異常事態の最中にいるということは、変わりなかった。


 〜〜〜


「あずさ、ちょっと待て」

 俺はあずさの肩を軽くつかみ、引き留める。


「わっ、急になによ」


「あれ見ろ」


 通路の角を曲がった先に、数えきれないほどのスケルトンソルジャーがたむろしていた。


「な、なにあの数……私たち二人だけじゃ倒せるわけない……」


「くそっ……どうしたら……」



 すると突然、別の通路からスケルトンソルジャーの大群に向かって、三つの影が斬りかかった。


「なにあれ……? よく見えないわ。モンスター同士が戦ってるの?」


「違う……よく見てみろ……」


 それらは英語で声を掛け合い、モンスターと戦う人間だった。


「まさか……米軍?」


「なあ、あいつらどこか、戦い慣れてないか?」


「私もそう思う。でも、米軍のダンジョン探索参加は見送られたはずじゃ……」


「一体どうなってるんだ……」



 三人の米兵らしき男たちは、大勢いたスケルトンソルジャーの集団を、あっという間に全滅させた。


 彼ら何やら叫んだり、歓声をあげている。


「あの人たち、なんか喜んでるわよ」


「おい、左腕を見てみろ」


「なにこれ……クエスト達成。入り口は再び開かれた……? じゃあ、私たち帰れるってこと!?」


「喜ぶのはまだ早い。あいつらは本来、日本側に見つかってはまずい連中だ。だが、今の状況を考えると、俺たちの方が見つかるとまずい気が……」


 そのとき、いきなり彼らの方から敵探知の魔法陣が広がり、俺たちは存在を気付かれてしまった。



「おい! あんたたち、日本人か?」


「「は、はい……」」


「そんなビビんなよ。別になんもしないって。敵はモンスターなんだから」


 男たちのうちの一人はアジア系の顔つきで、日本語がやたら上手かった。おそらく、日系アメリカ人か何かなのだろう。


「日本の攻略隊? 二人だけ?」


「あの、俺たちマップの製図に来てたんですけど、俺たち以外みんな全滅して……。あの、皆さんは……」

 俺たちも無許可で換装したことがばれるのはまずいので、微妙にごまかす。


 日本語が話せる男は数回仲間と言葉を交わし、答えた。


「俺たちは横須賀から来た。在日アメリカ海軍所属の軍人だ」


「海軍?」



「ああ。俺たちは適性値が高いから特別に選抜されたんだ。こいつから順に84、82。んで俺は87」


 俺はあずさと目を合わせたが、とりあえず自分たちの適性値は黙っていることにした。


 今度は梓が口を開く。

「あの、こんなこと聞くのもなんですけど、どうして米軍の方がここに? 米軍の作戦参加は見送られたはずじゃ?」


 こいつ、余計なことを……。


「表向きはな。日本がダンジョンを自分たちだけで確保したかったからだ。

 ダンジョン内には未確認の土地があれば、そこには生物もいるし、資源が大量に埋蔵されてるっていう話もあるから、それはもっともだ。

 でも、それが美味しい話なのはどこの国にとっても同じ。

 それでアメリカ政府は米軍が東京を調査できるよう、日本政府にちょこーっと圧力をかけた。


 その結果、少なくとも今のところは公表せず秘密裏にという約束で、俺たちが調査に来てるってわけだ。

 このことは、そこら辺の連中にペラペラ喋らない方がいいぜ。最悪、家族もろとも軟禁。もっと悪けりゃ監禁。さらに悪けりゃ、消されてもおかしくはないからな」


「は、はあ……」

「でも、なんでそんな大事なことを簡単に教えてくれるんですか?」


「別に君たちに言ったくらいじゃ、大して状況は変わらない。聞かれたから答えただけさ」


「そ、そうですか…」



 俺は思わず問いかけた。

「あの、さっき見てたんですけど、どうしてそんなに強いんですか?」


「俺たちはみんな、レベル20は超えてるからな。このぐらいの層なら余裕だよ」


「「に、にじゅう!?」」


「そんなに何回もここで戦ってたんですか?」



「いや、俺たちはネバダのダンジョンでも戦ってた」


「え!? ネバダ!? アメリカにもダンジョンがあるんですか!?」


「なあに、別にアメリカだけの話じゃない。

 いいか? 今、世界にはダンジョンが五つある。

 アメリカのネバダと、ロシアはチェルノブイリに、イギリスは南極のロゼラ基地だろ。あとは、すっごいちっさいのが台湾にもあるけど、中国が狙ってる。

 ただし、全部で五つあるとは言っても、東京のは規模が他と段違いだ。


 だから今、どの国も東京のダンジョンをなんとか我が物にしようと、必死なんだ。まあでも、そう簡単に他国の領土なんて奪えない。国としてのメンツもあるしな。

 米軍の俺が言うのもなんだが、アメリカはむしろそれでいう、メンツを気にしない連中から日本を守ってるって立場だと思うぞ?

 それもあって、日本政府も米軍がダンジョンを調査するのを、しぶしぶ許可したんだろうな」


 やけにダンジョン慣れしている彼らと、意図せず知ってしまった機密事項に、俺とあずさはただただ呆然としていた。



「ま、これも何かの縁だ。せっかくだから、入り口の近くまで送ってやるよ」


「「あ、ありがとうございます……」」



「言い忘れてたな。俺はサムだ」


「ソラです」

「わたし、あずさ」



 帰り道はとても心強かった。彼らのおかげで帰還が確実なものになり、一気に気持ちが楽になっていた。


 サムたちとは、入り口から直接見渡せる道の直前で別れた。

 俺もあずさも、ひたすらにダンジョンからの生還を喜んだ。



 ダンジョンの外へ出ると、もう日暮れだった。

 何時間もダンジョンにいた俺たちには、夕日がやたらとまぶしかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ