1話 入隊試験
俺の高校生活が狂い始めたのは、きっとあの日、入隊試験の日からだと思う。
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「このあとは、20メートルシャトルランです! 十分後に始めるので、今のうちに水分補給やトイレなど済ませておいてくださーい!」
ここは、自衛隊関連施設の中にある体育館。
俺の名前は、東雲 空。
俺は今日、あの「攻略隊」に入隊するため、ここへやって来た。
「攻略隊」…………それは、半年前、突如としてこの東京に出現した、世界で唯一のダンジョンに対して、モンスターと戦いながら調査活動を行う組織である。目的は、ダンジョン内に隠されているとされる、ダンジョンにおける全ての物のエネルギー源、マザーコアを破壊し、ダンジョンを消滅及びモンスターを全滅させることだ。
今や、ほとんどの若者たちが、一度は攻略隊員になることを夢に見るという。目的は様々だ。
この世から一匹残らず、モンスターを駆逐するため!
モンスターに殺された、家族や友人の仇を取るため!
大人の平均収入の二倍近い、給料のため!
自らの使命を果たすため!
そして、俺のように…………周りからチヤホヤされるため、である!!!
俺はこの春、隊員になることを見越し、攻略隊員が多く在籍し、ある程度勉学に融通の利く、恵陽高校に入学した。
はたから見たら、早計な判断だと思うのが普通だろう。なぜなら、望んだ者が誰でも隊員になれるわけではない。
隊員になれるのは、一部の適性を持った、およそ十代後半から二十代前半の若者のみ。ダンジョン内において、未知の対モンスター装備を得ることが出来る者だけなのだ!
その率、数字にして十万人に一人。
また、適性を持つ者の中にも、適性値というふるいが存在する。
適性者は適性値が高くなるにつれて、その数を減らす。しかしその一方で、適性値が高いほど、ダンジョン内での装備は強くなり、向上する身体能力も高くなるのだ!
そ、し、て……………この俺の適性値は、脅威の95パーセント!!
日本に片手で数えるほどしかいないとされる、90越えの適性者なのである!!!
つまり俺は隊員になれば、超活躍して、金も名誉ももうお腹一杯という、天に恵まれし者なのだ!
身体能力試験も、このシャトルランで終わり。
さあ! 安泰が保証された未来に、チェックメイトだ!!
「はあ……はあ……つらい…………」
ちょっ……シャトルランとか久しぶりにやったけど、こんな辛かったっけ? くっ……さすが攻略隊を目指すやつらだ。誰もまだリタイアしていない。
もうやめたい…………いや、待てよ?
病院で血液検査をして書いてもらった、俺の適性値を証明する書類はすでに提出済み。冷静に考えて、こんなに貴重で即戦力となる逸材を、たかがシャトルランくらいで落とすわけがない。
ここまで受けた筆記試験や他の身体能力試験だって、別にへまをやらかしたわけじゃない。
俺のこの走り、無駄じゃね?
よし、やめよう!
はい、いち抜けっと。
クックック……他の連中め、俺が早々にやめたのをみて、まるで俺が入隊を断念したかのような視線を送りやがる。
バカめ! 俺は、貴様らのような凡人とは違うのだ!
「え? 今なんて?」
「いや、だから悪いけど、君は説明会には参加できないんだ。
さっきも言ったけど、各種目には最低限クリアしなきゃいけない記録があってだね。君の場合、シャトルランで30回超えてないから、失格なんだ。
ちなみに、君の記録の20回って六歳の平均だから、正直ここで気づけて良かったと思うよ。
俺は今日、人手が足りないから手伝いに来てるだけで、普段は隊員としてダンジョンに潜ってるんだけど、六歳児並みの身体能力の人間があの現場にいたらと思うと、心底ぞっとするよ」
ん? なんだとこいっつっ……俺のこと六歳児並みだと……?
本気でやれば、俺だって200回ぐらいやれるわ! しかし、ここでキレてはいけない。他の試験官の目がある。
「あ、あの~実は僕、適性値が95ありまして。たぶんその、特例か何かでもう一回チャレンジとか、なんなら即合格とかじゃないかと……?」
よし、頑張った。いいぞ、これでいいのだ。バカボンのパパも、そう言っている。目は多少ピクついていたが、しっかり伝えるべきことは伝えられた!
「いや、そういう規定なんで。
ちなみ知ってると思うけど、攻略隊の試験は一度落ちたら、その後7年間受けれないから。
君は今16歳だから、次は23歳の時だね。そのくらいの年なら、まだ適性値が下がらないで、適性者のままの可能性もあるから。ま、7年後、頑張って」
俺の感情ゲージは振り切れ、泣きわめいて訴える。
「待っでぐだざい!! 俺、7年間も待てまぜん!
俺、95パーなんでずよ! 超貴重なんでずよ! 逸材なんだから、もっと大切にしてぐだざい!
そもそもなんで、7年も受けれないんでずか! これは、お役所の陰謀でず! 陰謀でずよ! 俺が隊員になったら強すぎて困るから、誰かが邪魔しようとしてるんでず!」
「そんなこと言われたって、そういう決まりなんだよ。てか、逸材だかなんだか知らないけど、六歳児並みって……ぷぷっ……」
「うがぁー! 今、笑いましだね! 本気出してないだげなのに! 陰謀だー!」
こうして俺は、警備員たちによって強制的に施設から追い出された。
変えたはずの設定混ざってたらすみません