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ミステロ  作者: 來洦
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第二話

 時間にして9時だった。まだ朝だが出勤ラッシュは過ぎている。

 気が気でなかった。何もかも思考が追いつかない。とにかくここではないどこかに行きたかった。

 木を隠すなら森の中。ここより人の多い首都、東京に向かった。


 足がつかないように切符で、秋葉原まで快速一本で行ける電車に乗った。同じ列の席に離れて大学生ほどの男性が一人、向かいの席にお婆さんが一人座っていた。少しずつ自分の家から遠ざかっていく。駅を一つ、また一つとすぎるたびに、安堵が生まれていく。


 今までの人生、比べられて生きてきた。小学生の頃、病気がちな私をいつも母親は看病してくれた。対照的な生き物の妹は、いつも皆勤賞を取っていた。小学校5年生でインフルエンザになった時、ポカリスエットのおかわりを貰おうと寝室からリビングに行った。

「あの子も波瑠みたいに体が丈夫だったらよかったのに。」

 何気ない一言だったのだろう。だけれど、私の心のどこかに刺さった。


 県を跨いだ頃、離れた席の男が席を立ち、柏の葉キャンパスで降りた。少し、また少しと目的に近づいていく。


 中学生になってから、気づき始めた。私は比較対象でしかない。と。

 そこから今まで嫌いだった勉強に熱が入り、テストの順位は5位以内に入るのが当たり前になっていた。

 なんでこんなにも嫌いな親のために時間を費やして、自分がやりたくもないことをしていたのだろう。


お婆さんは浅草で降りた。


 受験期に入り、より一層勉強に熱が入った。これまでより順位は上がり、2位と3位を往復するようになっていた。だが、ここでも波瑠は私の障壁になった。最初のテストから毎回、必ず、1位を取ってくる。

 『ただこちらを向いて欲しい。』それだけだった。

 両親の腹部から、鮮やかなピンク色をしたホルモン料理の材料が出てきた時、不安や恐怖、吐き気、不快感と共に、妙な達成感があった。2人とも、息を引き取る寸前まで、私を見てくれていたからだろうか。


「ご乗車ありがとうございました。まもなく、終点。秋葉原、秋葉原。お出口は、左側です」

 気づけば終点だった。電車から降り、ヨドバシカメラがある方の出口へ向かった。友達と何度かきている。

 ここなら、私を知っている人は誰一人いない。

 まずどこに行こう。スマホは電源を落としていていて、警察に道を聞くなんて論外だ。頼れるものが何もない。

 急に、感情の栓が抜けた。 

 駅の隅で泣き崩れた。もうお父さんもお母さんも帰ってこない。あんなに嫌いだったのに。波瑠だって無事かわからない。せめて波瑠だけでも元気でいてほしい。比較されたのはあの子のせいじゃないんだから。

 その心のスキマから、スマホに電源を入れてしまった。波瑠に少しでもメッセージを残しておきたい。

 通信がつながったあと、友達からのLINEがなだれ込んできた。「今どこ」とか、「大丈夫?」とか、ありきたりな言葉ばかりだった。でも、その中に違う言葉を見つけた。

『なんかあったなら好きなだけ休みな。嫌なことがあったらいつでも話聞くからね。』

 私が入学した時から優しくしてくれているクラスメイト、りょうせいからだった。これは恋心からくる優しさと捉えていいのだろうか。私の恋心が邪推を生んでいる

 ここで既読をつけたりするとめんどくさくなる。そう頭ではわかっていても、体がLINEを開いてしまった。

「ううん、大丈夫!ちょっとおばあちゃん助けてて笑」

 下手すぎる嘘だけど、もうこれでいい。

 波瑠のLINEを開いて、メッセージを綴った。

『波瑠、ごめんね。私のせいでお父さんとお母さ んが死んじゃって。でも、信じて欲しいのは、私は絶対に殺してない。なんでかは自分でもわからない。こんなこと言ったって信用できないよね。

 わがままかも知れないけど、波瑠にはずっと生きて欲しい。だから死なないで。波瑠はずっと一番の家族だよ。』

 メッセージを書き終えて、送信ボタンを押した。

 一度は殺そうとした妹だけど、愛に嘘はない。もうこれ以上私のせいで誰かが死んで欲しくない。

 そろそろ動き出そうと、目線を上げると、大柄な男が立っていた。目が合うやいなや、スプレーで何かをかけられた。


 目が覚めると、冷たい質感の椅子に拘束されていた。

 

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