遠吠え
いつからだったろう。
私は普通でないと気が付いたのは。
どこにいても私は浮いていた。
どんな人とも話が合わなかった。
毎日、人の中にいると緊張して疲れてしまう。
ひとり、なるべく緑が多く人の気配がない場所を探していた。
土や木の香りが落ち着く。
寝ている時、遠くから遠吠えが聞こえる。
寂しそうに鳴いている。
その遠吠えは誰かを探しているようだった。
ある晩、
夢を見た。
黒炭のように黒く美しい狼が走っている。
私も走っていた。
でも、とても狼には追いつけない。
距離は縮まらない。離されていき見えなくなる。
そして遠吠えが聞こえ目が覚めた。
繰り返し同じ夢を見た。
でも、だんだんと私は距離が近付いていた。
私の体は夢を見るたびに変化していく。
服は必要がない。毛皮があるから。
靴もいらない。4本の立派な足は大地を強く蹴る。
もう人である必要はない。
白い狼になった私はやっと彼に追いついて一緒に走っていた。
もう悲しい遠吠えは聞こえなくなった。