第4話
学園祭が終わって一週間が過ぎた頃、わたしは偶然にも、秋人くんの秘密を知ってしまった。
その日わたしは、検査を受けに一階へ下りた。
待合室の椅子に座って待っていると、検査室から秋人くんが出てきた。わたしのお母さんも一緒だった。
何やら二人は、深刻そうな顔をして話していた。秋人くんはそのまま病院から出て行った。
「ねぇお母さん。今日秋人くんが検査室から出てきたところを見たんだけど、秋人くん、どこか悪いの?」
その日の夕方、お母さんがわたしの病室に来たタイミングでそう訊ねてみた。
「さあ、人違いじゃない? ほら、秋人くんみたいな子ってどこにでもいるじゃない」
お母さんはそう言ったけれど、わたしは彼女の動揺を見逃さなかった。お母さんは嘘をつく時、早口になるのだ。
問い詰めると、お母さんは観念して全てを話してくれた。
「秋人くんね、病気なの。心臓の。だから、もう長くは生きられないの」
まさに青天の霹靂だった。そんな大切なことを、お母さんは何でもないような言い方であっさりと言った。
お母さんの軽い口調と放った言葉の重さが釣り合っておらず、わたしは言葉を失っていた。聞き間違いではないだろうか、とさえ思った。
「心配かけたくないから、春奈には絶対に言わないでくださいって言われてるんだから、秋人くんには黙っててあげて」
お母さんはそう言い残して、仕事へ戻っていった。
わたしは訳がわからず、ひたすら泣いた。信じられなくて、嘘であってほしかった。あまりにも突然のことで、事実を受け入れられなかった。
その後すぐ綾ちゃんが来てくれたけれど、わたしは構わず泣き続けた。
わたしはずっと、秋人くんは何かを抱え込んでいるような気がしていた。でもそれは、学校での悩みだったり、家族の悩みだったり、その程度のものだろうと思っていた。
それがまさか命に関わる悩みだったなんて、全く想像もしていなかった。
秋人くんはもうすぐ自分が死んでしまうかもしれないのに、それでもわたしに会いに来てくれた。
残された時間を、全部わたしの為に使ってくれた。そう考えると、どんどん涙が溢れ出て、止めどなく流れ続けた。
わたしはその日のことをブログに書いた。
泣きながら、震える手で必死に文字を打った。