02
非常に気まずい。
というか、なにかする度にいちいち心配してくれなくていい。
骨折しているとかではないのだから心配性すぎる。
しかもそんな彼の横には、
「志内さん、髪下ろそうよー」
そう、彼女さんである森瀬さんがいる。おまけに大熊くんもいる。
なにが気まずいって森瀬さんがどう感じているのか分からないということだ。
色々なことをドスルーして私の髪型をどうしても変えたいみたいに見えるけど……。
これは絶対に後で、「私の和に色目使ってるんじゃないわよ」とかって凄まれるのがオチ!
「わー、休み時間はまだあるので出てきますねー」
だからあれだけ教室から出て過ごすことのなかった私が珍しく出る羽目になった。
もう……なに考えるの樋高くんは。
嫌いだからこそそういう展開になることが目的だというの?
女の子同士って結構容赦なくて怖いんだから、もう少し考えてほしい。
「ちょうど良かった、教室から出てくれて」
「びっ」
「トイレ行こ、そこでしたいことがあるの」
ほらぁ、必ずこうなる。
そりゃ彼氏さんが他の女に構っていたら嫌だよなあと。
「どーんっ、サイドアップとかどう?」
「え、あ、あの?」
「ん? あ、変に結ばない方が良かった?」
「い、いえ、あの……樋高くんのことで怒るんじゃ……」
「え、怒らないよ」
鏡に映った森瀬さんの表情はにこにこ笑顔。
でも、「というかね」と呟いた後は凄く申し訳なさそうな顔だった。
「私が、志内さんから和を取っちゃったからね……」
「そんなの関係ないですよ、あなたのことが樋高くんも好きだったということじゃないですか。私は甘えすぎてしまいました。嫌いって言ったじゃないですか、好かれる理由なんかないんです」
取っちゃったって言うけど、樋高くんは私のものではない。
寧ろ喜ばしいことだ、自分といる時よりも楽しそうにしてくれている彼が見られて嬉しい。
「……和は私のこと、好きじゃないよ」
「不安にならないでくださいよ」
「とにかくっ、今日1日はサイドテールにしようね!」
「それでもいいですから、2度とそんなこと言わないでください」
そこで不安になってしまったら樋高くんも嫌だろう。
だってそれは疑われているみたいなものだ、好きなのに好きじゃないって思われるのは嫌だ。
いいじゃないか、好かれているんだから、私と違って少なくとも嫌われていないんだから。
「あ、おかえり」
「樋高くんは戻ってください」
「うん、戻らなきゃ」
……不安になるぐらいなら取らないでくれれば良かったのに。
そう考えて慌てて思考を消した、なんてことを考えているんだ私は。
窓の外を眺めてすっきりさせよう。
「席に着けー」
が、先生がやって来てしまい授業に集中することになった。
実は授業中のこの静かな時間が好きだ。
この時間だけはこの教室にいていいんだという気持ちになれる。
みんなも意外と真面目だから黒板と先生の話にしか興味を向けないし。
「大熊、なに寝てるんだ」
「あ……すみません」
「よし、この問題を解いてみろ」
「はい、これは――」
森瀬さんのことが大好きな大熊くん。
なのに手を上げようとしまったのはマイナス点だと思う。
けれどあの時、樋高くんも森瀬さんも結局返事を濁した。
この場合、重要なのは森瀬さんの気持ちだ。
先程あんなことを口にしていたし、中途半端すぎる。
「志内」
「わ、だ、だめですよ、まだ授業中ですよっ?」
「は? もう終わっているが」
「あ……」
気づいたら終わってた。
いくら考えても無意味だ、私にできることなんてなにもない。
変にドロドロの沼に巻き込まれても困るからちょっと線を引いておかないと。
「それでどうしましたか?」
「あ、たまには向こうに行って飯食おうぜ」
「そんなこと言って、森瀬さんといたいだけですよね?」
「そうだけどさ……あいつも女がいてくれた方がいいかなと」
「ふふ、そういうことにしておいてあげます、行きましょうか」
私は足を踏み入れることなく見ているだけにしたかった。
「あれ、ふたりがこっちに来たんだ」
「はい、大熊くんがひとりでは怖いということだったので」
「え、大剛って実は怖がりなの?」
「ちげえよ、志内が加代に会いたいけど怖いって言うから連れてきてやったんだ」
「えぇっ! 私のこと怖がらないでよー!」
後出しの法則、いや、この場合は信用に値しないということか。
大熊くんからのことはすぐ信じていることから、仲が悪くないことは分かる。
こういう場合の樋高くんは大体、無理に口を挟んだりしない。
話を振られたら答えるタイプだった。
……ちゃんとこちらの話を聞いてくれるところが好きだったりもする。
「いただきます」
このまま見ていたら楽しいのは確かだけどお昼休みが終わってしまう。
こういう時間をずっと求めていた、複数の友達と談笑しながらお弁当を食べるみたいな。
やばい、最近は涙腺が緩すぎる、これが1年ひとりでいた弊害か。
「うぅ……」
「お前って泣き虫だよな」
「その……幸せで」
「私達といられて幸せって言ってくれるのは嬉しいよ」
「はい、幸せです」
なので、できるだけ仲良くしていてもらいたい。
どう考えても大熊くんは諦めるしかないのだ、自分に振り向いてもらおうとすることは好きな子に好きな子を諦めてくれと言うようなものだから。
「うぉー!」
「「おわっ!?」」
こういう場合は美味しいご飯を食べるしかない。
あんまり他の人の前では涙を見せたくないんだけどな。
なんかどんな理由であれ相手に気を遣わせてしまうから。
「う゛っ、ごほごほっ」
けど、ここにいていいのかな。
変に大熊くんとぶつかったことで一緒にいるようになっているけど。
確実に私が3人を振り回して、なんとも言えないいまの距離感になっている。
「ふぅ」
「落ち着いて食べろ」
「そうだよ、危ないからね」
「はい、すみませんでした」
先程から樋高くんが黙ったままだ。
私達ではない、まるで自分の教室にいる時の私みたいに遠くを見ている気がする。
どうしたんだろうか、あ、もしかして大熊くんから言われたことを考えてしまっているとか?
「だ、だめですよっ」
「え……ちづ子?」
「大熊くんには申し訳ないですけど、森瀬さんを手放そうとしてはだめです!」
好きになった者同士だからお付き合いをしているのだ。
誰かに手放せと言われて素直に従ってしまうなんてだめだ。
不安になっているのならできる限り力になれるように頑張るつもりだ。
……見ておくだけでいいとか言っておきながら矛盾しているけれど。
「はは、いまそんなことは考えないよ、ちづ子が三編みじゃないから意外だなと思っただけ」
「へ? あ、そうなんですか……。あ、ちなみにこれ、森瀬さんがしてくれたんです」
触れると結構楽しい。
顔に巻きつけたりして遊ぶこともできる。
問題があるとすれば夏は暑いということだ、どうしたって熱もこもるし。
「……志内の言う通りだ、この前のことは忘れてくれ」
「「大剛……」」
「加代はずっと和のことが好きだっただろ、で、その好きな人間と付き合えるなんてめでたいことだよな。なのに俺は自分のことしか考えていなかった、悪い」
うん、やっぱり大熊くんは我慢して他の子を探すしかないんだ。
不幸を願ってはいけない、別れることを期待して行動してはいけない。
だから私も変なことを考えるのはやめる、樋高くんの幸せに繋がらないもん。
「おい和、弁当食わないなら食べちまうぞ?」
「食べるよ、せっかく母さんが作ってくれているんだからね」
「加代にでも作ってもらったらどうだ?」
「え、わ、私は調理スキル低いんだよねー……」
自慢ではないが私は結構作れたりする。
けれど母が作ってくれるご飯が好きだから任せることも多い。
あ、一応お手伝いとかはしっかりやるけどね、あまり負担になっても嫌だから。
「はははっ、だったら和で練習すればいいだろ? そのための彼氏だろ」
「いや……彼氏をそういう風に利用するのは――あ、だったら大剛で実験しようかな」
「俺は別にいいが……和が許さないだろ」
「大丈夫大丈夫! 和はそれぐらいで怒ったりしないよ! ほら、彼氏を苦しませるのはやっぱり違うじゃん? その点、大剛は絶対に食べられなさそうな物でも食べられそうだし」
「俺ならいいのかよ……まあ、さっきも言ったが俺は構わないぞ」
そりゃ嬉しいよね、下手でも好きな子が作ってくれたら。
だけどなんであの話の後にこうなるんだろう、森瀬さんはどうして自信を持って樋高くんが自分のことを好きだと思えないんだろう。
必要最低限にしか話さない樋高くんも気になるし、なかなか違和感のある時間となった。
「志内さん!」
「あうえ……」
この子は持久走で1番だった子。
そしてなぜか私は放課後に体操服を着て走らされていました。
「体力のない子を見てると走らせたくなるんだよね」
「あ、あの、私以外にもいたような――ひっ!」
「なにそんなに怯えてんの? いいからほら前を見て走る!」
「は、はいぃ……」
場所は歩行者専用道路、あ、いや自転車も走れるかな?
右側に顔を向ければ広大な海原が見える。
わざわざちょっと離れたここじゃなくてもと思ったが、「部活をやっているんだからグラウンドは使えないでしょ」と言われてしまった形になる。
「こ、この前はすみませんでした」
「そういうのいいから、ほら、いちに、いちに、いちに、いちに、いちにいちにいちに――」
「いちにいちにいちに――無理ですよぉ!」
もう体力が失くなってきていた私はまた「待ってぇ、待っでぇ」と呻く羽目になった。
「うーん、いままでどうしてきたの?」
「特になにもしませんでした!」
「そこだけ元気に言うな!」
分かっているのだ、体力がないことぐらい。
努力しようともした、けれどなぜか続かなかったのだ。
なんでだろうねえ、調理とかは楽しく継続できたのに。
「あの、阿坂さんは確かテニス部だったはずじゃ」
「だから?」
「なのにすごいですね、あれだけ速いなんて」
「違う、私が速いんじゃなくて周りが遅いだけ」
「格好いいですっ」
「や、やめなさい」
話してみると印象が変わる。
ただただ怖い人だと思っていたそれがすぐに消えるんだ。
やだ、私って単純すぎ? でも、それ以外に言いようがないし。
「友達になってください」
「は? 嫌」
「えぇ、こうして優しさを見せてくれたじゃないですか」
今日だって部活動の日なのにこちらを優先してくれているのだから。
「言っておくけど今日だけだから、それ以外では関わりたくないです」
「なるほど、ツンデレということですね」
「いいから集中して走ろうね?」
「はい……」
1時間ぐらいは走った。
せっかく付き合ってもらっているのならと頑張った。
その結果、
「はぁ、絶対にもう付き合わないから……」
ここまで喜んでくれたので飲み物を買ってお礼をしておく。
もう持久走はないけどこれからはもう少しマシなところを先生に見せられる気がする。
「そうだ、聞きたいことがあったんだけどさ」
「なんですか?」
「あんた、樋高のこと好きでしょ」
「それ、聞きたいことと言うより言いたいことだと思いますけど」
「うるさい、それでどうなの?」
えぇ、ここで新たにライバルが出現となると森瀬さんがより不安になってしまう。
くぅ、樋高くんも少しは魅力を抑えたらいいのに、彼女さんを不安にさせるなんてだめだよ。
「私はともかく、樋高くんには嫌われていますから」
「え、そうなの? その割には最近一緒にいるじゃん」
「それはあの3人が優しいからです」
「叩かれて、殴られたくせに?」
「自業自得です、大熊くんは悪くないですよ」
頼むっ、これ以上泥沼化にしないでくれ!
一緒にいていいのかななんて疑問に感じる時はあるけど、あの3人といられるのは嬉しいんだ。
「お、お願いしますっ、樋高くんを好きにならないでください!」
「は? つか私、別のクラスに彼氏いるし」
「なわぁ!?」
「ひゃっ!? い、いきなり大声出さないでよ!」
自分が全く見ようとしなかっただけで所謂リア充さん達がたくさんいるのか。
どうして私は同年代の子と比べてそういうのと無縁なんだろう。
やっぱり眼鏡が悪いのかな、……単純に見た目がとかって話になったら凹む。
「もう帰るよっ」
「は、はい、帰りましょうかっ」
良かった、これで泥沼化は避けられる。
……樋高くんが森瀬さんの特別になってから膨れ上がるこの感情はなんとか捨てたいと思う。
なんで一緒にいられるのが当然の時に気づかなくて、どこかにいってしまったいま気づくのか。
「ふぅ、戻ってこられましたね」
「うん、それじゃあね」
「はい、ありがとうございました」
早く家に帰ってお風呂に入りたい。
汗臭いし阿坂さんと離れられて良かった。
「待ってたよ」
「え、樋高くん……? あ、ちょっ、近づいて来ないでください!」
「……傷つくな、そこまで嫌われちゃってたのか」
「あ、そうじゃなくてですね、先程まで阿坂さんと走っていたんです。つまりその、汗をたくさんかいて汗臭いので近づいてほしくないです」
一応私も女だし、仮にも相手は好きな子だし。
「なら、リビングで待たせてもらってもいいかな?」
「いいですよ? すぐお風呂に入ってきますね」
別にわざわざ外で待っていなくたって幼馴染なんだからすぐ行き来できるのに。
……嫌いだから連絡とかもしたくないってことかな? ……気にしないでお風呂に行こう。
「ふぅ」
夏も冬もお風呂って気持ちいい。
汗をかくのは嫌いじゃないけど、やっぱりなんか気持ち悪いしね。
「眼鏡、やめてみようかな」
でも、コンタクトはコンタクトで色々な問題がありそうだ。
この件はもう少し考えてみることにして、とりあえずリビングに向かう。
「おかえり」
「た、ただいま……です」
なんだろう、凄く気恥ずかしかった。
だってお風呂後にこのやり取りって――頭の中がイカれているみたいだから今度病院に行こう。
「なんでそんなところに座ってるの? 横に来てよ」
「い、いえ、ここでいいです。それで、どうしたんですか?」
「駄目だ……なんかさ、ちづ子を前にすると言いたいことが分からなくなるんだよね」
「それは嫌いだからじゃないですか?」
ぐはぁ!? じ、自分で言っておきながら高ダメージ。
それでも間違ってはいないと思う、中学生時代までの癖が抜けていないんだ。
だからこうして私のところに来るけど本能が拒絶しているというか、とにかく無自覚なんだ。
「無理してないでください、私は大丈夫ですから」
「無理はしてないよ、ただ」
「ただ?」
「いや、やっぱりなんでもない」
なんだそりゃ!? こっちはモヤモヤすることになるから勘弁してほしいんだけど。
あの時みたいに真っ直ぐ否定してくれればいいのに、合わないならみんなそうするでしょ?
仮に直接はしなくても一緒にいなくなることで否定する、人ってそういうものだ。
大熊くんには悪いけど、向こうのクラスでいてくれたらなって考えてしまった。
そうすれば教室に来る理由もなくなる、そうすれば私も落ち着けるというわけで。
「そういえば今日、口数が少なかったですね」
「あ、そうだね」
「あのこと、許すんですか?」
「うん、別に僕で試してくれてもいいんだけど、加代が選択したことだから」
言いたい、あのことを。
……言ったらまた壊してしまうのではないだろうか。
少なくともペラペラと大切なことを喋ってしまう人間は信用されない。
嫌われることを望んで行動するのも違う、言うのはやめた方がいいかな……。
「なにか言いたそうな顔をしているね」
「あなたと同じです」
あなたを前にすると言えなくなってしまう。
いやまあ、最近の私はポロポロ言葉を零してしまっていたけれど。
「僕には言えないことなのかな?」
「あなたと、森瀬さんのためです」
「僕と加代のためか」
関係のない私が壊してはならない。
森瀬さんだってあれはつい漏らしてしまった言葉なんだ。
色々なことがあって不安だったと、大熊くんの好意とかも関係しているのかもしれない。
私に言えたというか、私の前で油断してしまったのは、大して縁もないから。
それでもこれから一緒にいれば仲良くなれるかな? もしそうなら嬉しいけど。
「手放しちゃ駄目だってことは言えるのに?」
「すぐに発してしまうところがだめですよね」
「いや、僕はそれで救われたから」
「それって大熊くんが諦めてくれたからですよね?」
好きだという気持ちは簡単に捨てられないから表面上だけだろう。
残念、一緒にいればいるほど膨れ上がってどうしようもないものになる。
好きになってしまった時点でだめなんだ、男の子だろうが女の子だろうが関係ない。
好きでも臆して動けなかったとか、後から好きだと気づいてしまったとか理由は色々あるが、それが悲しい気持ちであることには変わらなかった。
だってその好きな子の前では平静を装おうとしてしまうから、後にひとりになった際に限りない寂しさに襲われると思う。
笑顔で楽しそうに話しかけてくれる好きな子を見ているのが辛くなるのが普通だ。
だから大熊くんは異常なんだ、樋高くんと森瀬さんのふたりといられるのかが分からない。
私は弱いのに同じルートを辿ろうとしている、なにをやっているんだろう。
「大剛は諦めてないよ」
「そりゃ……好きだという気持ちは簡単に捨てられませんよ」
同じようなものだからよく分かる。
けど、こっちは諦めようとしているのだ、なのに来てしまったらだめなんだ。
いや、自分から近づこうとしているぐらいで、本当に馬鹿だなとしか言いようがない。
「好きだという気持ち、か」
「あなたにもそれがあったから森瀬さんといまの関係になったんじゃないですか」
「大剛はずっと加代のことが好きだった、で、いまもまだ捨てられずにいるんだよね?」
「そうですね」
「すごいよね、手放してくれなんて言えるなんてさ」
確かにすごいと思う。
私では絶対にできないことだ。
でも、森瀬さんの気持ちをなにも考えていない。
そりゃこちら側は好きだと訴えるだけだからいいけど、相手は好きでいるとかではなく付き合っているんだから手を出してはならない。しかも自分の友達の恋人となればなおさらなこと。
「樋高くんも意地悪ですね、煽ってはだめですよ」
「いや、煽ってなんかないよ、本当にそう思ったんだ」
「偉そうですけど、大熊くんの気持ちも考えてあげてください」
それぐらい必死だということだ。
だめなことでもそれぐらいできるというか、してしまうぐらいどうしようもないのだ。
延々に叶わない願いなのに、大熊くんは強いなあ。
「煽ったのは君でしょ、努力していないみたいな言い方されれば誰だって怒るよ」
「……それは反省していますよ、いま持ち出さなくてもいいじゃないですか」
殴れたことですっきりできたと思う、そのことに関しては。
私はきちんと罰を受けた、逃げてきたわけではない。
というか、そもそもなにしに来たんだっけ?
言いたいことが分からないなら帰って考えるとかすればいいのに。
また、私と対面するとできなくなるならやめればいい。
3人といたいという気持ちと、一緒にいたいくないという気持ちが綯い交ぜになっている。
違う、彼さえいてくれなければいいのか、そうすれば多分高校卒業までには捨てられるから。
「……言いたくなかったんですけど、いいですか?」
「いいよ、言ってみて」
「もう、私に話しかけないでください、お願いします」
しかしそうなると必然的に大熊くんや森瀬さんともいられなくなると。
ならやっぱり阿坂さんに友達になってもらおうと決めた。
遊びに行けたりはしなくていいから、せめて教室にいられる理由がほしいのだ。
「なにを勘違いしているのか分からないけど、僕は――」
「そういうのもいいですから」
「じゃあ帰るよ。だからそれはつまり、連絡先とかも消せってことだよね?」
「どうせもうないんじゃないですか?」
「いや、残してあったけどね、ま、ちづ子がそれを望むならそうするしかないね」
ぐぅ、私だって本当はこんなことしたくないよっ。
でも、苦しいから、この先一緒にいても辛いことしかないから。
「正直に言って……残念だな」
「そんなことないですよ、私と一緒にいない時の方が楽しそうですから」
さようなら、私の大好きな人。
あとはあれか、大熊くんや森瀬さんが来てくれなければいいなって願ったのだった。
毎回こういうパターン。
学生時代の俺がポジティブじゃなかったから影響している……。