秘密のお店[グリシーヌ]開店?
ようやく休校などあけましたが、何やら忙しさ変わらず…久々の投稿です!
事件からアナザー時間で1ヶ月、アナザーワールド内は、事件前のような雰囲気が戻ってきた。
しかし、ここは昔のアナザーワールドと同じではなく、どうやらアソビタイコーポレーションの別ゲーム“魔物ストーリー”と混ざってしまったらしく、アナザーワールドにはいない魔王や魔族という新しい種族が現れている。
“魔物ストーリー”はPVP好きが集まっているので、ギリギリまで[MattalyLifeOnline]の人間を痛め付けるという、嫌がらせに近いことをされている。
しかし、お互いに不死ではなくなっているため、殺すことはしていないが、時間の問題ではないかとちょっとした噂になっている。
そんな話を耳に入れながら、ニーナは街中を歩いていた。
行き先はお得意先の道具屋。
ニーナは、お得意先のお店にいつも作ったポーションを売って稼いでいたので、事件後初めて売りに来たのだ。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ…あ!ニーナさん!」
『あ、NPCが自我を持ったって本当だったんだ…』
掲示板に書いてあったが、実際にこの目で見たのは初めてだった。
ずっとここに売っていたから、名前と顔がインプットされていたのだろうか…道具屋の店主フローラは、ニーナの顔を見るたび名前を呼んできた。
「待ってましたよ、ニーナさん」
「ふ、フローラ?どうかしたの?」
あまりにも勢いがすごいので、ニーナはたじろぎながらフローラの話を聞く。
すると、事件後からポーションの買い占めが起き、在庫がほぼ失くなってしまったらしい。
今まではそんなことはなかったし、常に欲しいものがあるのがゲームだったが、もうこの世界はゲームではなくなっている。
その為、在庫というものが存在するようになったのだ。
「だから、ニーナさんには定期的に卸して貰いたいんですよぉ…」
「そ、れは…いいけど。ここまで来るの、かなり大変なんですよね…」
事件前は転移石があったし、転移門もあった。
しかし、転移石は使用不可になり、この街の門は壊れてしまった。
噂によれば、元NPC研究者達が総力をあげて作成しているとかいないとか…。
「それでしたら、私の旦那が解決してくれますよ?」
「え!フローラ、結婚してたの…」
ただのNPCなのに、実は裏にはしっかりとした設定があったのだろうか。
フローラが呼ぶと、中から男性が現れる。
「どうも、フローラの旦那のジョセフです」
「あ、ニーナです」
頭を下げ、お互いに挨拶をする。
ジョセフの姿を見ると、どうやら魔法使いを生業にしていそうだ。
「僕もポーション調合出来るのですが、中級まででして…」
話を聞くと複合魔法も使える高位魔法使いであることがわかった。
本業はそちらのため、調合には時間を回せないとのこと。
それはそうだ。
NPCにだって生活がある。
「そこで、ニーナさんには僕が開発した魔法具を使って頂きたい」
渡されたのは1枚の布、開くとそこには魔法陣が描かれていた。
「それは転移門に使われている魔法陣が描かれている。それを布に貼付させた」
「ふむふむ」
「そしてこの魔法陣に魔力を登録すれば…簡単に物の受け渡しが出来る」
ジョセフが考えたのは、転移石の布バージョン。
しかし、事件前も物の受け渡しが出来るアイテムは無かったので、本当にジョセフが開発したものなのだろう。
ちなみに、転移石は使用不可になった際に作ることすら出来なくなっている。
「なので、ニーナさん。魔力とお店の名前を登録させてください」
「もちろ………え、店?」
ジョセフの話を聞くと、魔力店の名前を登録することで、転移先の座標が定まるという。
しかし、ニーナは店を出しているわけではない。
「取引をするためのお店として考えればいいのよ。特に登録は必要ないし」
「名前と簡単な看板さえあれば大丈夫だよ」
フローラとジョセフの言葉に、ニーナは頭を抱えたくなる。
ネーミングセンスがないんだってばっ!と大声で叫んで逃げ出したいくらいだ。
看板は目印になるものだから、座標固定に使えるのはわかる、しかし、名前とは…。
「あ」
『あれを使お……』
ニーナは名前が決まったことを2人告げ、魔法陣に魔力を流す。
魔法陣が光出すと、右手の人差し指に光が集まる。
「布に名前を指でなぞって」
ジョセフに言われた通りに、ニーナはなぞって書き上げる。
[グリシーヌ]
『神流と一緒に名字を考えておいてよかったぁ…』
ニーナは安堵の表情を浮かべる。
グリシーヌとは、フランス語で藤の花を意味する。
神流の名字、藤堂の藤を使うことを神流が思いつき、新奈が本当は後期で学ぶはずだったフランス語を使用した。
なぜ習っていないフランス語で藤の花がわかったかというと、神流の名字に入っているから、辞典を購入した時すぐに調べていたからであるが、それは神流には秘密だ。
「看板は帰ったらすぐに作るわね」
「はい、そうしたら作成した看板に魔力を流しておけば契約は終了です」
「ニーナさんの秘密のお店ですね」
フローラの言葉にニーナは少しドキドキする。
定期的に卸すことで収入はなくなることはないし、材料はスキル[アロマ]で収集した薬関係の材料は出せるから元手はかからない。
それよりも、自分のお店を持つなんて一部の人しか出来ないことが、まさかアナザーで叶うとは思わなかった。
「とりあえず、今日の分はこれで」
ニーナはインベントリからポーションを大量に取り出し、売却をする。
あとは街中を散策して帰ろうと、道具屋を後にしようと店から出ようとした時、勢いよく扉が開いた。
「すみませんっ!」
「あれ、すいさん?」
慌てた様子で店に入ってきたのは、フレンドのすいりん…くとごんの相方である。
見覚えのある顔に、すいりんは驚き、急に涙を流し始める。
「ニーナちゃん!くとが…くとが死んじゃうっ!」