事件の原因
遅くなりましたが更新です。
ブックマーク登録などありがとうございます。
「そか、上手くいったんだ」
「はい、くとさんのおかげですよ」
ログアウト消失したからアナザーワールド時間で4日過ぎたの夜遅く、カンナはフレンドチャットを飛ばしていた。
彼はくとごん、通称くとさん。
「すいがかなり気にしていたからな、明日起きたら話しとく」
「ありがとうございます」
「…にしても、何なんだろうなこれは」
「本当、何でしょうね」
話を聞くと、くとごんも相方すいりん、通称すいと狩りにでもいこうと拠点で話していた時に、状態異常事件に巻き込まれたそうだ。
「ようやく明日がニュースの更新日だ、きっと何かわかるんじゃないか」
「そうだといいんですけどね」
カンナは、隣で寝ているニーナの頭をそっと撫でながら話を続ける。
話は2日前、カンナが街で聞いた噂について。
「くとさん、デスペナがなくなった話、聞きました?」
「もちろん。…デスペナが失くなったというよりは、不死が失くなったらしい」
くとごんの言葉にカンナは息を飲んだ。
アナザーワールド内では、体力ポイントが0になると強制的に拠点に戻されるシステムで、死という概念はない。
その変わり、体力ポイントが0になった場合はデスペナルティとして、自身のレベルと会得しているスキル全てのレベルが1つ下がってしまう。
今回の事件以降、そのデスペナルティがなくなり、強制送還所謂死に戻りが出来なくなっているようだった。
つまり、死んでしまうということだ。
それがどういうことかはわからないが、ログアウトも出来ない状態での死は、あまりにも危険すぎる。
この4日間で死んだプレイヤーの姿は、死んだ後には見られなくなったという話だ。
「とりあえず詳しいことがわかるまでは拠点からは出ないようにカンナもしとけ。うちはそうしてる」
「こっちもとりあえず、家からは出てません」
「…ま、出られるわけないよな。結婚成功したんだから、毎日毎晩ずっこんばっ」
「くとさんっ!!」
明らかにからかわれているとわかっていても、恥ずかしくなったカンナは、少し大きめの声でくとごんの話を遮る。
くとごんも笑いながらごめんと謝り、話を続けた。
「カンナ、明日のニュースでは、最悪の状態も覚悟した方がいい」
「くとさん?」
急に真面目なトーンで話すので、カンナを急に緊張してくる。
どこか、カンナも楽観的に考えていた。
しばらくすれば運営がメンテナンスなど行い、原因が分かれば現実世界にいずれは帰れるだろうと、そうなるであろうと、決めつけていた。
しかし、くとごんの考えはどうやら違うようだった。
「一部アイテムの使用不可、死に戻り出来ない、自我を持ったNPC…あまりにも奇妙なことが起きすぎてる」
「はい…」
「そんな混乱の中、守れるのは己と、愛する奴だけだ」
くとごんの言葉にカンナは無言で頷く。
今のアナザーワールドは、昔のアナザーワールドではない。
きちんと調べ、理解し、行動していかないと自分の身ですら守れない。
「…お前のとこのニーナには、錬金術の結晶で世話になってる。失くすには惜しいからな…守れよ、カンナ」
「はい」
翌日、ニュースが更新される正午5分前。
ニーナとカンナは昼食を食べていた。
「カンナ、デザートのストロベリーパインのムースよ。食べる?」
「もちろん」
運ばれてきたムースを1口食べて、カンナはメニューを開く。
ニーナは自分のメニューを開くことなく、カンナの横でメニューを覗く。
「掲示板、まだ燃えてるね」
「あぁ。現実世界組の文字化けさえなければ、情報が掴めるんだけどな」
カンナは再びムースを1口食べ、ニーナに返答する。
ムースが食べ終わった頃、ニュースの更新がされる。
そこにはアソビタイコーポレーションの株価が大暴落という記事や、GPGに問題が?という見出しに、記録的な局地的豪雷雨による大災害など、何やら不吉なものばかりであった。
「…カンナ」
「とりあえず、1つずつ読んでいこう」
すべて読み終わり、今置かれている状況を理解するには、かなりの時間がかかった。
どうやら、各地で起きた記録的な豪雷雨は、各地の電力会社のシステムダウンを引き起こし、その影響で充電しながらプレイしていたGPGの回路に異常が発生。
内容としては、回路異常から内部がショートしてしまい、使用者は感電死してしまったというもの。
その数はおよそ5万人。
停電などにも対応出来るよう何度も実験し安全と話していたGPGの利用は現在は禁止され、[MattalyLife Online]他GPG使用ゲームのサーバーはクローズ状態になっていると言った内容だ。
「え、つまり…現実世界の私達は、死んでるってこと?あの、麻痺は感電したことによるものなの?クローズされたからログアウト消失したの?それとも、帰る場所がないから?」
ニーナは身体を震わせながら、呟く。
カンナはそんなニーナを抱き寄せ、強く抱き締めた。
ニーナの言葉を否定することは、カンナには出来なかった。
なぜなら、カンナもニーナの考えと一緒だったからだ。
カンナの胸の中で一通り泣いたあと、ニーナは見ていなかったニュースを見つける。
カンナにそれを告げて2人で画面を覗く。
するとそこには、犠牲者となったプレイヤーから?コメントが続々と書いてある。
2人は顔を見合せ頷くと、掲示板を開いてコメントを書いた。
《アナザーで生きてます。そっちに戻ることは出来ないけれど、こっちでしっかりやっていきます。身体に気を付けて。神流、新奈より》
自分達を知っている人に届くよう、また悲しみの毎日を送ることのないように…どうか届きますようにと願いを込めて。
「…カンナ」
「どうかしたか?」
ニーナはカンナを真剣な顔で見つめて、話し始める。
泣いていたって、悩んでいたって始まらない。
事故にあってしまったのだから、仕方がない…もとに戻してと頼んだって、もとに戻ることは出来ない。
第2の人生…という気分にはまだならないけれど、ここで生きていこう、頑張っていこう。
「…向こうに帰れないのは、悲しいけど、私……神流がいて良かった」
「……あぁ。俺も1人じゃなくて、新奈がいてくれて良かったよ」
ニュースが更新されて、アナザー時間で2日後。
アナザーワールドでの混乱は続いていた。
絶望に襲われ、ずっと泣いているもの。
未来を考えられなくなり、自ら命を経つもの。
システム不死がなくなり、恐怖から引きこもるもの。
そして全て受け入れ、前を向くもの。
「神流」
「どうした、新奈?」
「せっかく結婚、したんだから…2人で名字つけない?」
ニーナは顔を真っ赤にしながら、カンナに提案する。
アナザーワールドではプレイヤーネイムはあるが、それはもちろん名前だけで、名字なんてものはない。
結婚システムも了承すれば、それで終わり…結婚した2人が同じパーティーにいれば、いろんなバフがつくというだけであった。
ここで生きていくという、ニーナなりのけじめなのか、ただつけたいだけなのか…わからないが、カンナは了承する。
「何にしたいんだ?」
「え…神流がつけてよ」
「言い出しっぺの新奈がつけろよ」
「…私、ネーミングセンスないもん」
新奈の言葉に神流は思い出す。
数日悩んだ末、プレイヤーネイムを自分の名前を少しだけ弄った、新奈のことを。
にいな、にぃな…ニーナ、ってそのまんまじゃないかっと、聞いた時には笑ってしまったんだったと神流は苦笑する。
ちなみに、神流はアナザーワールド内でも新奈に自分の名前を呼んで欲しいから、カンナとつけたのだから、おあいこなのだが…。
「じゃ、トードウ?」
「それはまんますぎだろ…」
「だよね…」
新奈の案に神流は苦笑を続ける。
2人で悩むこと10分。
全く案が出てこないので、この日は考えるのをやめた。