[アロマ]の効果とポーションとの違い
閲覧、ブックマーク登録などありがとうございます。
カンナに抱きしめられ落ち着いてきたニーナは、軽くカンナの胸を押し離れる。
心配そうな表情でカンナはニーナを見つめるが、ニーナは無理のない笑顔を向ける。
「ね、カンナ。疲れたでしょ?軽く汗流してから、ここに寝て?」
ニーナが指差した場所にあるものは、現実世界で新奈がよく神流に行っていた施術セット。
どうしてこれ?と思ったが、きっとマッサージしてくれるのだろうとすぐに理解したカンナは、ニーナの言う通りに汗を流しにいく。
水滴をタオルで拭き、そのタオルを腰に巻き付け、カンナは戻ってくる。
戻ってきた姿にニーナは満足げに頷く。
少女マンガ的展開ならば、なんでタオルだけなのとか、服着てきてよ!とか始まる所であるが、アロマの施術をする上で服は邪魔だといつも新奈は叫んでいたので、そんな展開にはならない。
「はい、横になってね」
「りょーかい」
ニーナの言う通りに横になったカンナは、目をつむりニーナの体温とアロマの香りに集中する。
新奈がアロマテラピーが好きなのは知っていたが、ニーナがアロマテラピーをしたのはこれが初めてだ。
知識と技術は現実世界で知っているので、カンナは安心して身を任せる。
「これ、いつものか?」
「うん。グレープフルーツにゼラニウム、ローズウッドの全身の疲労回復に効くアロマジェルのマッサージ」
「そうか…やっぱり、気持ちいいな」
カンナの言葉にニーナは嬉しくなり、満面の笑みを浮かべながらマッサージを続ける。
5分ほどマッサージを続けると、カンナは自分の身体の異変に気付く。
「ニーナ」
「んー?」
「お前、アロマにポーションでも混ぜたのか?」
「混ぜないよ?どうして?」
「…すげー身体が軽いんだよ。上手く言えないけど、1時間近く走ってきた足じゃないんだ」
カンナの言っている意味がわからないニーナは、カンナにポーションの説明をする。
ポーションはステータス上の体力ポイントを回復するものであり、疲労回復はしない。
アナザーワールド内で疲労回復をするには、現実世界同様休憩や睡眠が必要不可欠。
もちろん、ログアウトさえしてしまえばもとの身体の為疲れなどはない。
「それじゃ、そのアロマジェルはどうやって作ったんだ?」
カンナの質問に、ニーナはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情をカンナに向ける。
ついに黄金の桜を手にいれ、スキルをMAXにしたこと。
採取、収集、薬学、調合をMAXにしたことにより、レアスキル[アロマ]を会得したことをカンナに話す。
「スキル[アロマ]は、自分の考えた精油と材料を出してくれるスキルみたい。効果内容も変わらないみたいだよ?」
「それで、ニーナは疲労回復に効くアロマジェルをスキルで作ったんだな?」
「うん。混ぜるときにポーション調合と同じように魔力を込めて」
ニーナの説明にカンナは考え込む。
そして導きだした答えは…
「このスキル、ヤバくないか?」
というものだった。
どこがやばいのだろうと首をかしげると、カンナは自分の考えを述べる。
ニーナが現実世界で作ったアロマの中には、花粉症に効くアロマスプレーや、日焼けケアのローションなどがあり、今回はカンナに使ったのは疲労回復のジェル。
そのジェルを使われたカンナの疲労はすっかり回復…つまり、疲労がなくなったのだ。
「…てことは、花粉症のスプレーだったら」
「花粉症がなくなると思う」
「日焼け後のケアローションは…」
「多分、日焼け自体失くなる」
「………っすごくない?」
目を丸くして驚くニーナに、カンナは少し頭をかかえる。
だからヤバいスキルだと話したのに、アナザーワールドでもアロマテラピーが出来ると喜ぶだけだったのだろうなと安易に想像出来たカンナは、苦笑いを浮かべながらも愛おしいニーナの頭をそっと撫で、大丈夫と呟く。
「気を許した奴だけにしとけ、[アロマ]を使うのは」
「…悪用されちゃった時は?」
「俺が斬る」
真面目な顔で答えるカンナに、可笑しくなってニーナは声を出して笑う。
「レアスキル[剣豪]持ちのカンナにかかれば、百人力ね」
「誰かさんの料理スキルや、採取スキル上げに付き合わされた結果、剣術スキル全てMAXになってるからな、俺は」
皮肉なのか、意地悪なのか…同じ意味のような気もするが、ニーナはそれでも安心してカンナを頼ることが出来る。
料理スキルなどを上げたいが、材料を刈ることが出来ないニーナが、無理矢理に神流をゲームへと誘いこんでしまったのだが、カンナはニーナの為にいつも付き合ってくれた。
だから、今回も何かあったらきっと助けてくれるのだろう。
「カンナ、ありがと」
「な、なんだよ…改まって」
顔を真っ赤にしながら、カンナはニーナの方を見る。
ニーナは真剣な表情で、カンナのことを見つめていた。
わけがわからない状態異常事件にログアウト消失と、不安だらけではあったが、こうしてカンナが横にいてくれる…ただそれだけで、ニーナは安心出来る。
「カンナがいてくれてよかった」
「ニーナ…」
ニーナの真剣な眼差しを、カンナもしっかり見つめ返す。
しばらく見つめ合うと、ニーナがゆっくりと目をつむる。
それを合図に、カンナはニーナを左手で抱き寄せ、右手をニーナの顔に添える。
そしてカンナは、自分の顔をニーナに近付けていき、そっと唇を重ねる。
少し離し、今度はニーナの唇をカンナが舌で割り、ニーナの口腔内に入れて深く口付ける。
「ん……っ」
「ニーナ……」
「か、ん………っん」
何度も何度も角度を変えて、長い間口づけを交わし、お互いを確かめあった2人は、ゆっくりと唇を離す。
ニーナと優しく囁いたカンナは、視線をそらさずに言葉を続ける。
「結婚、しないか?」
「え?」
「あ、もちろん…今はアナザーの中でだけど」
カンナは右手でメニューを開き、インベントリから小さな箱を取り出す。
そして、その箱から指輪を取り出す。
「カンナ、これっ!」
カンナはにっこりと微笑み、ニーナの左手薬指に指輪をはめる。
指輪には、新奈の誕生石のアクアマリンが埋め込まれている。
「カンナ…」
「…これ採るのに、かなり苦労したんだからな」
戦闘スキルメインのカンナは、生活スキルは会得していてもあげていなかった。
なのでフレンドの協力を得ながら採鉱のスキルをあげ、やっと手にいれたアクアマリン。
本当は自分で加工したかったが、それは難しく街のNPCの店に頼んでいた。
「だから、街にいたのね」
「そういうこと。…で、ニーナ。返事は?」
ニーナの目の前にウインドウが現れる。
カンナから結婚の申し込みがきています。
申し込みを受けますか?
ニーナは少し涙を浮かべながら、YESを選択した。
次回より新キャラが出てきます。