[MattalyLifeOnline]へようこそ!
子育て中でのんびり亀更新になりますが、よろしければコロナ自粛の暇潰しのお供に…
空を見上げれば、太陽がギラギラと人々を照らしている。
本格的な夏が始まる7月も下旬、全国各地の大学生は前期講義も終わり、試験やレポート提出に追われていた。
空調の効いた図書館やカフェテリア、食堂などには大勢の生徒が集まっていた。
1人黙々と作業するもの、あーでもないこーでもないと慌てふためくもの、単位を諦めゲームをしているものなど様々だ。
「新奈!」
カフェテリアの窓際、人気の席を陣取り頼んだカフェモカを片手にパソコンでレポートを進める新奈と呼ばれた女性は、自分の名前が聞こえた方へ振り向く。
「あ、咲ちゃん。テストどうだった?」
「ばっちりよ!新奈の作ってくれたアロマスプレーでかなり集中出来たわ」
咲と呼ばれた女性は、鞄からスプレー容器を取り出し、新奈に向かってずずいっと突き出す。
まるで「この紋所が~」という決まり文句が出てきそうなポーズだ。
咲の行動に苦笑いを浮かべながらも、それだけの力じゃないからと言いながら新奈は両手を横に振る。
「メインで使ったレモンには、精神鼓舞の作用があって、香りもリフレッシュ効果が「あーあっ!そういうまどろっこしい理屈はいいのよ!」
アロマスプレーの説明を始めた新奈の話に被さるようにして、咲は大声をあげる。
特に、アロマのうんちくみたいな説明を、だらだらとしたいわけではない新奈も話を続けようとはしない。
鞄にアロマスプレーを閉まった咲は新奈の隣に座り、パソコンの画面を覗く。
そこには自分はまだ手をつけていない、必修のレポート課題であった。
「え、新奈…もうそれやってるの?」
「うん。あとこれだけだもん」
素早いブラインドタッチで新奈はレポートを仕上げていく。
自分よりも受講数が多いはずなのに、なぜ残り1つまで進められているのか…咲は謎で仕方がなかった。
「咲ちゃん次は?」
「4限に補講、5限も補講…」
「咲ちゃん受講してたの、休講多かったもんね…」
休講の時は「やった!休みだ!カラオケ行こう!」と騒いでいた咲は、補講の存在を忘れ、それに伴い試験の日程も伸びていたことに、試験期間になった最近気付いたのだった。
絶望にうちひしがれている咲を、面白いと思いながら笑いを我慢していると、ガラスを挟んだ向こう側からこんこんと誰かがガラスを叩く音が聞こえる。
誰だろうと顔をそちらに向けると、身長175cmくらいの長身の男性がそこには立っていた。
「神流!」
「あら…旦那が迎えに来たわ」
「さ、咲ちゃん!」
テーブルに突っ伏した頭を上げることなく、視線だけ窓に向けていた咲は、立っていた人物を見てさらに絶望する。
旦那と言われたことに、新奈は顔を真っ赤にしながらも否定することなくただ慌てていた。
そんなやりとりがされていることを知らずに、神流と呼ばれた男性はカフェテリアの中に入り、新奈達のもとへとやってくる。
「新奈!…と、畑山いたのか」
「いたのかじゃないわよ、藤堂……ほんっと新奈しか見えてないわね」
神流の言葉に呆れながら、誰にも聞こえないくらいの小声で悪態つく。
そんな様子を全く気にしない神流は、新奈に近付きこの後の話を始める。
神流の話では4限に試験があり、それが終われば帰れるという。
新奈は少し考えてから、先に帰るねと神流に告げる。
一緒に帰れなくて少し残念と、素直に告げる神流に咲はざまあみろと言葉を吐き捨てる。
何かを言い返そうかと咲の方に体を向ける神流だったが、すぐに面倒になったのか新奈の方へ向きを戻す。
「帰ったらすぐにインすると思うけど、新奈は?」
「今日こそ見つけたいから、多分インしてる」
「…また、あれの話?」
呆れた表情を見せながら、咲は2人に問いかける。
新奈は、もちろんと目を輝かせながら肯定するが、咲にはそれが輝かせるほどのものかなと悩んでしまう。
新奈と神流が話しているのは、今一部の人に人気となっている[MattalyLifeOnline]というMMORPGのことだ。
2人は高校3年から、今現在大学2年までの2年間ずっとプレイしているゲームだ。
もとは新奈がたまたま始めたゲームであったが、ドはまりしてしまい、自分の円滑なスキルレベル上げの為に神流を誘ったことが始まりだった。
その頃から2人と知り合いだった咲には、そのゲームの良さがわからなかった。
「まだやってたんだ、あのドマゾゲーム」
「ドマゾじゃないよっ!」
[MattalyLifeOnline]は、スキル上げが鬼畜過ぎると有名で、廃人かドマゾなプレイヤーしかながつづきしないとレビューされている。
それを2年も続けている2人は、かなりのドマゾだと咲は思っている。
それが例え、惚れた弱みに負け始めた神流であっても、新奈の為と始める辺りは、かなりのドマゾだと思う。
本人達はそうは思っていないようだが…。
「それよりも[魔物ストーリー]やろうよ!まじPVP楽しいよ」
咲が話す[魔物ストーリー]とは[MattalyLifeOnline]と同じ、アソビタイコーポレーションが開発運営しているMMORPGであり、プレイヤーは魔物か人間か選択し、自分達の領地を争っていくゲームだ。
PVPが主流で、こちらも苦手意識がある人には向いていない、一部の人向けのゲームである。
「嫌だよぉ…私、PVP嫌いだもん」
「…ま、知ってるけどね」
咲は座ってた椅子から降り、荷物を持つ。
もうすぐ4限が始まる。
「んじゃ、また明日ね!」
「じゃあね!咲ちゃん」
挨拶を終えると咲は走って次の教室へ向かう。
確かカフェテリアから一番遠い棟の4階だったようなと新奈が考えていると、神流に肩を叩かれる。
「俺も行くわ。じゃ、またアナザーワールドで」
「うん、またね」
2人と別れた新奈はレポートをキリの良いところまで仕上げ、USBメモリに保存する。
素早く片付け、バス停まで早歩きで進む。
正門まで出るとバスの姿が見える。間に合わないかと諦めかけたその時、信号が赤になりバスが停まる。
ギリギリの所でバスに間に合った新奈は、今日はついてるかもと考える。
バスに乗ってしばらくすると、雨が降りだしてくる。
運がいいことが続くなと感じた新奈は、今日こそはお目当てのものを探し当てると強く心に決めた。
-これから始まる混乱を知らずに…-
「ただいまー…」
共働きの両親は、出張や夜勤などで家にいることが少ない。
今日もまた、静かな家に新奈の声だけが響く。
この年になると気にすることもなく、新奈はまず浴室へと向かう。
明日は4限だけなので、今夜は夜更かし出来る…そう考えた新奈はささっとシャワーを浴び、汗を流す。
部屋に戻った新奈は、机の上に置いてある大きなゴーグルを手に取る。
ゲームプレイゴーグル[GPG]。
これを装着することによって、脳波と微弱電磁波が噛み合わされ、ゲーム世界へダイブ…[MattalyLifeOnline]内アナザーワールドへ入国が出来る。
「あ、いけないっ!充電してなかった…」
GPGは充電式であり、スマートフォンのように充電しながらプレイをすることが出来る。
新奈は充電器をGPGに繋ぎ、ゴーグルを着ける。
「今日こそ見つけるからね!黄金の桜!」
プレイを開始しますか?
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こちらで使用しているアロマレシピは、アロマテラピーの教科書を参考にしております。
まさか5年くらい前に買った本が、こんな形で役立つとは思いませんでしたが…
もう1つの作品も亀更新で進行しております、よろしければそちらもよろしくお願い致します!
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