プロローグ 4
回想を終え、脳内で頭を抱える。
確かにアルバートは予想通りにイケメンだった。
王家のみが代々受け継いで来た金髪はゆるくカールしていて、手入れの行き届いてる事を証明するかのように艷やかに天使のベールが浮かんでいる。
吸い込まれそうな碧眼は明かりを受けて複雑な彩を放ち、見る者を惹き付けてやまないだろう。
だけど、だけど………!
ちらっとアルバートの方を盗み見る。
見てる…。目の前の男が差し出した手にわたしがどう応えるのか…。目を細めて圧のある瞳で…!
まるで蛇に睨まれた蛙。王族に不興を買えば、この貴族社会、命はない。
一歩間違えれば家の評判を落としちゃう…。わたしはただ、格好いい男の子達がイチャついてるのを見たいだけなのに!
どうやってアルバートの機嫌を損ねないようにするか思案するわたしにカイルと名乗った男は困ったような笑顔を向けた。
「えっと、僕がパートナーだと不満だった、かな…?それとも」
カイルは一旦言葉を止め、アルバートの方へ視線を向ける。
「殿下の方が良かったかな?さっきから熱心に見つめているみたいだし。」
アルバートを見ているの気づかれてた!?
そうだよね、正面に立ってるから私の行動は筒抜けだよね!
違うんです、噂の王子が良いとかじゃなくて!むしろ必要以上に関わりたく無いんですけど…!
私達の会話が聞こえているのかな、アルバートの背後に黒いオーラが立ち込めているように見えるよ。
明らかに怒っているのに崩れない微笑が却って恐ろしいぃ…!
「…やはり殿下が―――」
カイルは声を落としてまだ何か呟いていたが、この状況を突破しようと思考を回転させるわたしの耳には届かない。
「おい女。カイルがお前を栄えあるパートナーに選んだというのにまさか断るというのか?」
「そうだよ!カイル兄ちゃんのパートナーには僕がなるつもりだったのに、あんたを選ぶって聞かなかったんだから!」
ここまで無言を貫いたわたしに痺れを切らせたのか、カイルの背後に並ぶジャックとノアが声を上げた。ノアに関しては勢い込んでちゃっかりカイルに抱きついている。
そうだ、この二人を忘れていた。
ジャックは騎士団長の息子らしく鍛え上げられた体と尖った目つき。
幼少から将来のアルバートの側近として教育され、王子に近づく者の真意を見抜く冷徹な性格をしている。濃紺の短髪に対して燃え上がるような紅朱色の瞳は秘めた激情を表している(というキャラ設定だったはず)。
一方ノアは女の子に見紛うほどの美少年。
綿菓子のようにふわふわとした白髪と宝石のように潤むピンク色の瞳。
華奢な体躯は庇護欲をそそるが、その風貌を利用して有力貴族の弱点を聞き出し、自身に有利な環境を築くよう暗躍する強かな一面を持つ。
あー、わたし、アルバートの持つ兄の第一王子への劣等感をジャックが少しずつ溶かしていくストーリーが好きだったんだよなあ。
いつもは厳しいジャックが弱るアルバートを抱きしめる場面のスチル、さくまるるこ先生の今までの技術の結晶!っていうぐらい繊細に描かれていて、プリントアウトして額に入れて飾っておきたいぐらいだったのよね。
現実逃避して薔薇色の妄想を始めると、再びジャックの「聞いているのか!」という鋭い声が飛ぶ。
顔を上げると子犬のような顔で私を見るカイル。背後に般若の顔をした攻略対象の3人。まじ怖い。
というかなんだこの溺愛のされ方。貴方がヒロインですか?
ここまで存在感を放つカイルだが、『薔薇姫の君とともに』にはこんなキャラはいない。
つまり私と同じイレギュラーな存在で、様子を見るに攻略対象とは大層仲が良い様子。
それなのにゲームの第一イベントをわたしに仕掛けてくる。
何故主人公に近づいてくるのかわからないし極力関わりたくない存在だが、申し出を断っても(攻略対象達による報復という)地獄。
それならば――
すうっと息を吸い、気合を入れる。
「…お初にお目にかかります、オルティス様。パートナーの件、謹んでお受けいたしますわ。」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。この男の思惑を掴むため、パートナー役やってやろうじゃないの!
「俺のことはカイルでいいよ。これから一年間パートナーなんだから。」
「では…カイル様。至らぬ点もあるかと思いますが、よろしくお願い致します。」
わたしが意気込んで差し出された手を取ると、カイルは何故か幸せそうに目尻に皺を寄せて笑った。
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『美香、まーたそのゲームばっかしてんの?』
わたしの顔を覗き込む為にさらりと揺れる濡羽色の髪。楽しげに窄まるアーモンド形の目。
姿は違うのに彼を思い出したのはどうしてだろう…?
ようやく短編と同じ所まで進みました。
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