プロローグ 2
わたしが前世の記憶を取り戻したのは二日前の事。
あの時、明日に入学式を控えた私はうずうずしていた。
具体的に言うと入学説明会で貰った学園のパンフレットを幾度となく見返しては素敵な男性との恋物語を妄想し、昼食を食べ損ねそうになった程だ。
コックのスリフには、
「せっかく祝いとして食後のデザートにお嬢様の好きなショートケーキを用意したのに、まだ見ぬ男の方が大事かい?」
なんてからかわれたけど、どれだけ私が学園に夢見ているのかは家中の人が知っているからこその対応だった。
「〜〜〜もう我慢出来ないわ!マーサ、ルーシャ、制服を着るのを手伝ってちょうだい。」
ショートケーキをしっかり完食し自室に戻っても気分が高揚したままだった私は、お付きの侍女二人に学園の制服を用意させた。丁寧に髪もセットして貰い、ウキウキとした気分で姿見の前に立つ。
(―――え?)
鏡に映る自分を見て最初に思い浮かんだ感情は、憧れた制服を身に纏ったことによる喜びではなく既視感。
初めて着たはずの制服は自画自賛も甚だしいが他の誰よりも、そう、まるで自分に合わせてデザインしたかのように似合っている。
「ていうか、パッケージそのまま?」
零れた自身の言葉に驚く。いつもより砕けた口調は私らしくなかった。そもそもパッケージって何のことだ?
浮上した気分から一転、困惑が部屋を包む。と言ってもそう感じたのは私だけのようで、着替えを手伝ってくれた侍女たちは「お似合いです、お嬢様!」と手を合わせている。
お嬢様と呼ばれる事を当然とする"私"と違和感を覚える"わたし"。混乱する気持ちを落ち着かせようと侍女二人に下がってもらい、部屋で一人になる。
「何かしら…。」
姿見の前でくるくると回り、先程の違和感の原因を探る。
真っ直ぐにおろし、背で切り揃えられた黒髪。母親譲りの空色の瞳をまじまじと見つめる。
純白に金のラインが入った制服、それに爽やかなパステルブルーに染まるネクタイを身につけている以外は見慣れた自分だ。既視感を感じたのも只それだけだろうか。
ふと視線を落とすと胸ポケットに金糸で縫い付けられた校章が目に入った。
明日から通う学園『ローザンヌ学園』のものだ。
第二王子であるアルバート・ルイ・フォンフォードが昨年から通っている事もあり、お近づきになりたい貴族女性からの入学申込みが殺到。今年の入試試験は今までにない倍率となった。もちろん、私もその内の一人だ。
だって、この国の王子であるアルバートはもちろん、他の有力貴族様と交流を築くにはこの方法が手っ取り早いのですもの。男爵令嬢が成り上が―――玉の輿をするには、イイ男を早々に見つけておく事が最重要なのだ。
(―――あれ?アルバートって、)
第二王子の名前を再び思い浮かべた所で突如過去の記憶、いや前世の記憶がまるで洪水のように私の脳内に入り込み、
「この乙女ゲームのヒロインって人生勝ち組確定じゃん!!!?」
という普段の"私"ではあり得ないような大声をあげ、そのまま気を失った。