プロローグ 1
短編を加筆した物です。よろしくお願いします!
ティファ王国に数多ある教育機関で、ローザンヌ学園は五百年の由緒正しき歴史を持つ名門校だ。ここには王国中の貴族、更にはその頂点とも言える王族が代々通うとしても有名である。
春の訪れを告げるように早咲きの薔薇のつぼみが綻ぶ頃、学園は入学式を迎えた。
そして正に今!
運命の少女が校門をくぐり、華々しい生活が始まる―――
(…のは昨日の話で、今日は何もない日のはずなんだけど…)
校門の前にたたずむ少女、ミカエラ・ルミエールは淑女としての微笑みを絶やさないよう努めながら、内心冷や汗をかく。
ミカエラは想定外の状況を把握するため、自らの行く手を遮る男たちにバレないよう気をつけつつ、周囲をさっと見渡した。
いや正確には立ち塞がっているのはたったの一人なのだが、それはさておき。
視線をついっと滑らせる。
まずはお馴染みの人達から観察させて貰おう。
第二王位継承者であるアルバートは口元に笑み、だが目つきは鋭く光らせ、屋外だというのに用意された高級そうなソファに優雅に腰掛けながらこちらを眺めている。
騎士団長の息子であるジャックはミカエラへの不快感を隠そうとせず王子の半歩後ろに控えている。
ミカエラと同じ新入生であり公爵家の三男であるノアも、アルバートの横から不審そうに様子を伺ってくる。
この三人は事の成り行きを校門の影、つまり学園の敷地内から見守る体勢のようだ。
目を見張るほど美形で尊き身分の面々。
貴賎無く平等を重んじると校則に記された学園の中でも、この至近距離ではめったにお目にかかる事は無いだろう。
しかしミカエラが気にしているのはそんな事ではない。
(やっぱりあの三人の様子はおかしいわ。目に見えてゲームと違うのは、春の節に攻略対象が複数人集まるイベントはない所と、何故か初対面であるはずである主人公への好感度が低い、というかむしろゼロ?)
(ああ、違う違う。それよりも―――)
ミカエラは現実逃避をやめ、目の前の男を見据えた。
相手もミカエラの意識が自分に戻った事に気づいたようだ。
視線がぶつかる。
「初めまして、ルミエール嬢。俺はカイル・オルティス。」
先手を打ったのは彼の方だった。
この学園で確実に上位に位置する人物をぞろぞろと引き連れてやって来た美青年に手を差し出され、頬が引きつるのを感じる。
ミカエラとは逆に、先程から攻略対象達からの熱の帯びた視線を一手に受けているこの男。
茶髪に橙の瞳。
この国では珍しくないカラーリングだが、攻略対象達と並び立っても遜色ない整った顔立ちが他との差を明らかにする。
筆で引いたような切れ長の目元には、健康的な肌を引き立たせるように涙ぼくろが添えられている。
その目が弧を描き、形の良い唇が開いた。
「俺のパートナーになって欲しい。」
いつの間にか集まっていた観衆から湧き上がる驚きの声を物ともせず、高らかに彼は第一イベント『え!私が人気者の彼とパートナー!?』の開幕を告げた。
(―――誰なの、この人!!)
初回サービス(?)で第2話は本日中に投稿予定です☺️