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第1講-プロローグ-
第1講-プロローグ-
男の名前はK。愛知に生まれ、悠々と生きてきた。
友人は多くないが、時々は夜の町に繰り出すような悪友はいた。
付き合った女性もいた。
学力は平均よりは少し上。容姿は直視しがたいものというほどでもないであろう。
彼にとって、生きるとは、前提。
何のために生きるのか。そんなことはこの30年、どうでもいいことであった。
その日の晩酌は何を飲もうか。次の休みはどこに行こうか。
たまに将来のことを考え、少しだけ不安を感じ、少しだけ期待を抱き、けれどほとんどは今日の、明日のことを考えて生きてきた。
Kは善人であった。
Kのことを知る人物にインタビューをしたならば、およそそういった回答になるだろう。
同時に、他者へ及ぼす影響力の小さい男でもあった。
彼が何をしても、概ねそれが好意的に捉えられたとしても、1時間後には忘れられているだろう。
要するに、透明な男だった。
要するに、突出したもののない、平凡な男だった。
転機は突然。今にして思えば、全ては想定されるべき必然だったのか。
そしてKは死を決意した。