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プリンス&ビースト  作者: 森のうさぎ
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第2話


いつもの森、いつもの風景、いつもの水辺。

そして遠くに見えるミメルト王国。


その時、獣人のエテリアは岩の上に一人、足を組んで座り

片手の甲に小鳥をとまらせて、ウサギや鹿たちと鼻歌を歌いながら戯れていた。


静かな森の空気、静かな景色、静かな……。

そんな静寂を破る音が響き渡る。

爆発の音、エテリアは時々耳にしていた大砲の発射音だ。


動物たちは大きな音に驚き、森の奥に逃げ

鳥たちは木々の間から一斉に飛び立った。

イライラと、眉間にしわを寄せながら音のする方角をエテリアは見る。


………

……


ミメルト王国とガストラル王国は、軍勢で移動して二日ほどかかる距離にある。

そしてよくミメルトは、その中間地点の場所でガストラルとの防衛戦をしている。


ガストラル帝国は前面に肉体改造された強化兵を出し、力でミメルトを押しつぶそうと

流れ込んでくる。


対するミメルト王国は前面と側面に部隊を展開し、ガストラルの強引な侵略を

包囲するように迎撃している。


ガストラル軍の兵士は皆、紅い目に赤い鎧をまとい

黒い剣で突撃してくる。

それに対してミメルト王国軍は青い鎧をまとった甲冑の兵士たちが応戦する

一人のガストラル兵に対して3人がかりでようやく対等に戦えるぐらいに

戦闘力に差がある。


しかし、ガストラルの兵力は年々減少傾向にあったため、今回は比較的

マシなほうだった。

お互いの砲弾が飛び交う中、騎士たちは戦い続ける。

そのミメルトとガストラルの戦争の指揮をとるのは

アレス・ミメルト国王陛下と、相手はトーレイ・ルイドという帝国の皇帝の側近である。


帝国側、トーレイは戦況を見ながらにやにやと笑う

「フフ、今回もいいデータが取れそうですねぇ。これなら勝算はある」

一番安全な後方の丘からトーレイは双眼鏡を使って様子を見ていた。



一方、王国側のアレスは落ち着きながらも少し苛立ちを覚えていた。

アレスが陣をしいている場所は、兵士たちの戦う最前線より少し後ろだ。

「怪我人を優先して退避させてください、それから応急処置も」


アレスのすぐそばには側近のノレッジもいる。

側近としては、陛下は後方にいてほしいところであるが

国王陛下であるアレスが直に戦場に出ると言って、いつも聞かない。


「スカームとベルジュの部隊を側面から前に出してください」

「……はい、しかし陛下。今回の戦、前回よりも敵が少なく思います」

「たしかに、何か仕掛けてくるかもしれない。場合によっては私が直接出る」


国同士の戦争というものは王が討たれれば終わりである、しかしアレスは

どうしても前に出ようとする。ノレッジはそこが気がかりだった。


「陛下、もし陛下の身になにかあったら……」

「では騎士たちには何かあってもいいというのか、死んでもいい命だと?」


そうは言いませんが、とノレッジは続ける。

と、同時に砲弾の一発が本陣のすぐそばに着弾する。

まったく動じないアレスとノレッジ。

これが初めてではない、何度も砲弾が本陣に飛んでくることはあった。

そこへ、ミメルト王国の騎士が馬に乗り走ってくる


「陛下、伝令です。敵軍は撤退を開始しはじめたとのこと」

「……そうですか、こちらも撤退の準備を……」


そういい始めたころ、本陣からも見える距離で大きな物体がガストラル側から

のそり、のそりと歩いてきている。

大きさは全長8メートルはあり、横に5メートルほどの巨人……。


「あれは……!?」


伝令を伝えに来た兵士がその姿を見て叫ぶ。

まだ比較的、新兵なのだろう。アレスは一度だけ、すでに見たことがあった。


「……巨人兵……」


ぼそりとノレッジはつぶやく。

無色透明な姿にもかかわらず、はっきり見える輪郭。

眼も鼻も口もないにも関わらず、人間を認識し殺す殺戮者。

ミメルトの騎士たちが弓や剣で応戦するも、矢は折れ、剣も欠けるだけで

まったく効果がない。


「う、うわあぁ……」


王国騎士たちが次々と踏みつぶされていく……。

その光景を遠くから見たアレスは剣をとると、本陣の王座から立ち上がり

白馬に乗ろうとする。


そんな焦るアレスと反対の感情をあらわにしていた、ガストラル帝国のトーレイは

腹を抱えて笑っていた。


「ひっひ!さぁ、私の人形!アリどもを踏みつぶしてしまえ!」


双眼鏡から王国兵が踏みつぶされ死んでいく姿を見て喜ぶトーレイだった。

だが、その笑いは長くは続かなかった。


武器を落とし、腰を地面につけて怯える王国兵を左足で踏みつぶそうとした

巨人兵だったが……刹那、その足がキレイに切れて転がる。

バランスを崩した巨人兵は左に大きく横転し、その場に倒れ込む。


その光景を見たアレスは混乱する、一体何が起きたのか、と。

そこへ再び別の騎士が伝令にくる。


「陛下、銀髪の獣人の娘が戦場に!」

「……な」


倒れた巨人兵がまき散らした砂煙の中に、その銀髪の娘は立っていた。


「……うるさくて眠れもしない」


左腕を地面につけた巨人兵の右腕が銀髪の獣人の娘を叩き潰そうと、手を振り上げ

振り下ろした。

その一撃を、左手を上に掲げ受け止める娘。地面には衝撃で大きな穴が開く。


「力比べで……勝てると思うな!」


娘は巨人の手のひらをつかむと右手でその腕を薙ぎ払い、その爪が巨人兵の右腕を切り落とした。

ぼとりと、地面に落ちた巨人兵の腕は液状化し、水になって消えていく。

そして、巨人兵の頭部を右足で踏みつけた後、擦らせるように頭部から胴体へと足を流すと

5本の爪痕が巨人兵の顔面に入り、きれいに切れた。

巨人兵の体が液状化し、水になり消えていく。


「ふん……」


銀髪の獣人の娘は、面倒そうに視線をそらすと、そこに

白馬に乗ってやってきたミメルト王国のアレスがいた。


「え、エテリア……」

「なんだ、お前か」


驚いたアレスは、エテリアに何といえばいいのかわからないまま

口を開いた。


「兵士たちを助けて、くれたのか?」


その一言に眉間にしわを寄せた状態のまま、エテリアは


「うるさいから潰した、それだけだ。勘違いするな」


悪態をつきながら、エテリアはその場から去っていった。

帝国軍も撤退を始め、防衛戦は成功した。


その様子を見ていたトーレイは


「あの娘、まさか……生きていたのか」


その言葉を発したあと「早めに始末しなければ」と続けて言葉にした。


………

……


後日、戦争の結果報告と状況を聞いたあと

アレスはまたいつもいつものように騎士の衣装に着替えて

城下町へ出た、そこの商店街の果物屋で

沢山の果物を買い、革袋に詰めてあの森……あの洞窟へ向かった。


日はまだ昇っている、とてもいい天気だ。

すがすがしい空気に、きれいな水辺、そしてその先にある洞窟。

その洞窟の入り口から


「……エテリア、いるか?」


流石にいきなり声もかけずに中に入るほど不作法ではない

松明で中まで照らされているが、人影は見えない。

しばらく待っても返事は返ってこない。


「エテリア、入るぞ。いいか?」

「ダメだ」


今度は一瞬で言葉が返ってきた。

洞窟の少し奥に銀髪と狼の耳が見えた。

そして顔を出したその娘は、相変わらず不機嫌そうだった。

イライラとしているエテリアは「何の用だ、うざったい」

と続けていうが、その後

「ちょっと待て、なんだこの匂いは」

といってそーっと洞窟の奥から出てきた。


「昨日のお礼だよ、兵士たちを助けてくれてありがとう」


革袋いっぱいに敷き詰められたリンゴ、オレンジ、メロンを

アレスはエテリアに差し出すと、エテリアはリンゴを手に取る。

リンゴを不思議そうに眺めながらクンクンと匂いを嗅ぎ、りんごをかじる。

そして革袋とアレスの顔を交互に見た。


「……おいしい。……これ、いいのか?」


君には助けられたと、感謝の言葉を伝えるアレスに対して

少し警戒しながらエテリアはじっとアレスを見る。


「か、勘違いするなよ。あれはうるさかったから戦いに参加しただけで

 別にお前の仲間を助けようとしたわけでは……」


といいながら革袋を奪い取りもぐもぐと果物を食べ始めるエテリア。

りんごの汁が飛び散り、皮もむかずにオレンジを食べ、口の周りを

ベトベトにしながら……。

それを嬉しそうに見つめるアレス。


「だが、結果として助かった。本当にありがとう」

「ふ、ふん……」


少し照れたような表情をしたエテリアを、アレスは可愛いと思いながらも

口には出さず、じっと見つめていた。


………

……


一方、ガストラル帝国では玉座でトーレイの報告を聞いている

ロゲン・ガストラルがいた。

髪は金髪で巨漢、帝国の紋章の入った衣を身にまとい

玉座でトーレイの報告を聞いている。

対してトーレイは髪の毛はなく、細い目をさらに細めて水晶玉を見ている。

その水晶玉にはエテリアの戦う姿が映し出されていた。


「いかがいたしますか、皇帝陛下」

「……ふむ、ダグラスの娘が生きていたか」


続けて一言、「始末しろ」とロゲン・ガストラルは命令した。


【あとがき】

第二話です。

ミメルト王国とガストラル帝国の戦争ですね。

たびたび戦争してるので、エテリアさんも迷惑でしょう(笑)

この戦争において、エテリアさんは規格外の戦闘力です。

そしてエテリアさんの森には「果物が存在しません」

さて、この後どうなっていくのでしょうか……。

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