33、栄光の女神亭にて
城の隠し部屋に設けられた人間牧場のニュースは瞬く間に国中へ広がった。
それと共に、勇者の謎の失踪もすぐ国民たちの知るところとなった。
救国の英雄の失踪と残虐でショッキングなニュースを表立って結びつけるものはいなかったが、こうも時期が重なればその関係を意識しない者の方が少ない。
「だが、メアリーの行方は依然分からず、か」
ロムレスは再生した右腕を撫でながら視線をカウンターへ落とす。
「ま、きっとそのうち会えるよ。あんな大物倒せたんだから、もっと喜んで良いのに」
「いや、隠れた異世界人がまだまだたくさんいるはずだ。気を抜いてはいられない」
「固いなぁ、師匠は」
ミーアはそう言って、グラスを満たす葡萄ジュースをストローで吸う。
そして彼女は当然のように隣のカウンターに座ったセアルに視線を移した。
「で、あんたはいつまでここにいるの? 仇は討ってあげたのに」
「確かにそうだけど、妹たちが安心して暮らせる世界には程遠いからね。まだ異世界人に虐げられている仲間もいるかもしれないし」
「そんなこと言って、こっそり魔族復興とか企んでるんじゃないの?」
「やだな、そんな大それたこと僕にできないよ。それにほら、人間の姫とも顔見知りになれたわけだし」
「王族に取り入ろうっていうの? やっぱ魔族って怖いなぁ」
「人聞き悪いね、人と魔族の歴史的和解が実現するかもしれないでしょ? 敵の敵は味方っていうし」
「そんな事できるわけないじゃん」
「できるとも。まずはね」
理想論を語るセアルに、それを一蹴しながらも話に耳を傾けるミーア。
彼らを横目に、酒場の女店主はロムレスにそっと耳打ちした。
「ロムレスさん、相談良いですか? そろそろミーアちゃんにも新しい武器を渡してあげようかと思ってるんですが、マシンガンとかどうです?」
女店主の言葉に、ロムレスは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。
「またそんな事を……そうやってあなたが簡単に力を渡すからこんなことになってるんですよ?」
「あら、簡単に考えたんじゃありませんよ。彼女なら使いこなせると、確信をもって渡すんです」
得意げになって言う女店主を見上げながら、ロムレスは小さく息を吐く。
「……せめてマシンガンはやめてください。あまりに派手だし、周囲への被害が大きい」
「そうですか? 強くてかっこいいと私は思うんですが」
「絶対だめです」
静かな時間の流れる栄光の女神亭。
だがそれも長くは続かなかった。
「お巡りさん、窃盗だ!」
「助けて、食い逃げなの」
「そ、そこの路地に露出狂がっ!」
転がり込むように開店前の栄光の女神亭に駆け込んでくる住民たち。
魔物園の剣で顔が売れてから、彼らはますます忙しい。
「行くぞミーア」
「はーい!」
二人は同時にカウンターをたち、揃いの制服を纏って店を飛び出したのだった。