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28、潜入!王宮地下通路




「ここで良いのか?」

「ああ、問題ないよ」


 沼に沈んでいくのを逆再生したかのように、影からゆっくりと浮かび上がっていく四人。

 彼らが顔を出したのは薄暗く湿っぽい地下通路である。


「良いんですか、魔族を城に入れて」

「良いよ良いよ。敵の敵は味方でしょ。この城じゃ私の許可がないとその影のスキル使えないし」

「え、そうなの? なんだ……」


 少し落胆したような表情をみせるセアル。

 ロムレスが彼に変な気を起こさないよう淡々と説得する中、ミーアはあたりを見回しながらブランに尋ねる。


「なにここ? 本当に城の中なの?」

「中というよりは下だね。城の下に作った地下通路だ」

「城内に入れるって言うから、もっときらびやかなの期待してたのに……うひゃっ!?」


 足元をチョロチョロと這い回るネズミにミーアは飛び上がり、ロムレスの体をよじ登る。


「ヤダ、気持ち悪い!」

「何言ってるんだ、よく見なさい。ほら可愛いでしょ? 長年の餌付けのお陰で、私が通るとお出迎えしてくれるようになったんだ」

「ネズミに餌付け……ですか?」


 ミーアを肩にぶら下げながら、ロムレスは怪訝な表情をブランとネズミに向ける。

 するとブランはにこやかに頷きながらローブの中から白い粉の入った小瓶を取り出した。


「うん。実験で出た動物の切れ端とかね、この特製パウダーを振りかけるとよく食べるんだよ。腐りかけだと特にね」

「産業廃棄物の不法投棄はやめて下さい」

「ねぇ、ここ気味が悪いよ! こんなとこ通らなくても、セアルの影で勇者の背後にでも運んでもらえばいいじゃん!」


 ネズミに怯えながらミーアは声を上げる。

 しかしセアルは首を振った。


「そんなことできたら魔族は勇者に負けてないよ。影からの出入りにはどんなに頑張ってもある程度時間かかるんだ。そんな悠長なことしてたら先に勇者に見つかって殺されるでしょ」

「えー? じゃあどうするの?」

「地下通路を通って勇者に近付き、ヤツの寝首を掻く」


 ロムレスは呟きながら懐に手を伸ばす。

 しかしブランは地下通路を進もうとせず、冷たい壁を撫でる。


「その前にちょっと見てほしいものがあるんだ」


 そう言って、ブランはなんの抵抗もなく壁の中へと入っていく。


「な、なになに?」


 ブランの消えていった壁を呆然と見つめる三人。

 壁の中へ体を隠してから数分、ブランは壁から頭だけをひょっこり覗かせて怪訝そうな顔を見せる。


「なにやってんの、早くきてよ」

「無茶言わないで下さい。それできるのあなただけです」

「ダメだよ、壁抜けくらいできないと。仕方ないなぁ。よっと」


 ブランはやれやれとばかりにミーアの両脇を抱える。


「え? なになに? えっ、ちょ」


 困惑するミーアを抱え、ブランは再び壁の中へと入っていく。


「ギャーッ! ヤダヤダッ、離してよ」

「今離すと壁の中で生き埋めだよ。そろそろ外に出るから、静かにね」


 ブランの言葉通り、ミーアたちはすぐに壁の外へと出ることができた。

 しかし目の前に広がる光景に、ミーアはすぐ壁の中へ戻りたいと考えを改めるようになった。


「な、なにここ」

「うちの姫が見つけたんだ」


 小さく区切られた檻の中に、四つん這いの状態で固定された人間。ミーアは目を見開き、口を押えて悲鳴を噛み殺す。

 彼らを眺めながら、ブランは呟いた。


「聞きたいんだけどさ、異世界人って人を食べるの?」

「えっ……」


 顔を引き攣らせるミーア。


「基本的には食べないはずですが……絶対食べないとも言い切れません。個人の趣向によるとしか」


 代わりに答えたのは、セアルと共に地面にできた影の中から這い出てきたロムレスである。


「食べるために飼育していると?」

「だってほら、見てこれ」


 ブランが指し示したのは、一際醜く肥え太った男。鉄製の猿ぐつわをかまされ、地面に涎溜まりができている。

 彼の檻には、茶色い何かがこびり付いた漏斗のようなものがいくつも掛けられていた。


強制給餌カヴァージュだよ」

「フォアグラを作るため、鳥に大量の餌を食わせるヤツですか?」

「そうそう。中を少し調べてみたんだけど、肝臓が石みたいになってた。肝臓は優れた再生能力を持つが、酷使すれば能力は失われる」

「どういう事?」


 怪訝そうに首を傾げるミーアに、ブランは急に真顔になって言う。


「取られてるんだよ。何度も何度も肝臓を。そのたびに人間業とは思えない再生能力で肝臓を取り戻している。いや、再生させられているのかもね」

「うえ……」


 口をへの字に曲げ、舌を出すミーア。

 だが醜く肥え太った男に改めて視線を移すなり、彼女から表情が消えた。


「こ、こいつ……いや、でも、そんな」

「どうした、ミーア?」


 ロムレスの問いかけにも答えず、ミーアは小さな体を小刻みに震わせる。


「この人、知ってる。路地裏の絞殺魔……でも、アイツはあの医者が、メアリーが」

「おいミーア、なんの話を」


 その時、微かに聞こえてくる足音に四人は息を止めるように黙り込んだ。


「誰かいるのか? メアリー? いい加減出てきてよ」


 地下室に響く少年の声。

 薄暗い“人間牧場”を照らすカンテラの光。

 現れた声の主は、赤い髪の少年だった。


「勇者だ!」


 セアルが叫ぶのとロムレスが引き金を引いたのはほぼ同時だった。



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