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25、本当のこと




「ねぇ本当のこと言って?」

「さっきから俺は本当のことしか言ってない」

「大丈夫だから。ミーア絶対引かないから。全部受け止めるから」


 ミーアはしつこくロムレスを問い詰め、彼の顔を色々な角度からジロジロ見つめる。

 ロムレスはうんざりした表情でミーアから視線を逸らした。


「だから……あっ」


 床に横たわったセアルの目が開いている事に気付く。

 ロムレスはこれ幸いとばかりにミーアに背を向けた。


「ようやくお目覚めか」


 セアルは緋色の眼をロムレスに向け、まだぼんやりした顔で呟く。


「ああ……どうなった」

「どうなっただって? 依頼人さんがぐっすりお休みの間に全部終わったよ」

「そうか。流石だな。やっぱり僕の目に狂いはなかった」


 そう言ってゆっくりと体を起こす。

 その時ようやく、セアルは自分の腹に乗っかったゲル状の物体に気が付いた。


「エリザベス! 良かった、無事だったかい? ……どうしたの、その色?」

「ピイ」


 プルプル震えるスライムの体は薄い桃色をしている。セアルが今までに見たことがない色だった。

 首を傾げていると、代わりにロムレスが答えた。


「お前の血をスライムに通して、溶けた薬物を除去してもらったんだよ。透析と言うんだが」

「トーセキ? 異世界人の技術?」

「まぁな」

「異世界人殺しまわって来るくせに、そういうのはちゃっかり利用するんだね?」

「仕方ないだろ、依頼人に死なれるのは困る。助かったんだから文句言うな」

「それもそうだけど」


 セアルはそう言って、ピンク色に蠢くスライムを愛おしそうに撫でる。


「ねぇねぇ、もしかして師匠って魔族だったりする?」


 ロムレスを押しのけるようにして、ミーアがセアルの顔をのぞき込んだ。

 困惑したセアルは怪訝な表情で問い返す。


「何の話?」

「だってだって、師匠の身体能力おかしいんだもん。強化ゴブリンを素手で倒して、沼地の腸吸いをナイフ一本で倒したんだよ? 人間業じゃないよね。だから、もしかしたら本当に人間じゃないのかもって」


 至って真剣な表情で尋ねるミーア。

 セアルはあっけにとられたように口を半開きにしていたが、やがて噴き出すように言った。


「なるほど。なかなかの推理だね」

「え! なら――」

「でも残念。彼は人間……と僕には断定できないけど、少なくとも魔族じゃない」

「いや、普通に人間だって」


 困ったような顔をしたロムレスの主張など、二人は気にしてもいない。

 セアルは横目にロムレスを見ながら、少し意地悪な顔をする。


「彼はね、傭兵だったんだ。王国を守る騎士ってのは由緒ある家の者しかなれないんだけど、戦争中はそんな事言ってられないだろ。だから腕のいい冒険者とかゴロツキとかを兵士として僕らとの戦争の駒にしてたんだよ。で、その中でも飛び切り強い駒が彼。まぁそれも異世界人が現れる前までの話だったけど」

「異世界人が現れてからは?」

「そりゃあもう、今までの戦局が全部ひっくり返ったよ。兵士たちもお役御免だ。だって異世界人一人で兵士数百、数千、下手したら数万の力があるんだから。あんなのズルだ。滅茶苦茶だよ。君たちの神様って、ちょっと子供っぽいとこがあるよね」


 ロムレスは否定も肯定もせず、ただ苦い表情を浮かべてセアルの話を聞く。

 そしてセアルは小さく息をつき、呆れたように辺りを見回した。


「それで……魔物を殺戮しまわっていた“死神”が、今度は何の真似だ?」

「そのスライムのお陰だよ。色んな魔物の毒抜きをしてくれた」


 ロムレスはそう言って辺りを見回す。

 横たわった、たくさんの魔物たち。檻に入れられ、観賞用とされていた魔物だ。そのほとんどが異世界人により暴走させられたが、スライムに毒抜きされて今は大人しく眠っている。

 その中にいた見覚えのあるゴブリンの姿に、セアルは目を細める。体中傷と痣だらけではあるが、確かに息をしていた。


「殺さなかったのか」

「今回のテーマは“互いに互いの種族を尊重しよう”だろ。まぁ全部とはいかなかったが。話の出来そうなやつと大人しそうなやつだけな」

「借りでも作ったつもり?」

「その通りだ、感謝しろ」

「余計なことを……頼んでないよ。追加料金は払わないからね」

「まぁ、報酬のことは後でゆっくり。とりあえず話はこれくらいで終わりにしよう」


 ロムレスはそう言って締めた扉に目を向ける。

 よくよく耳を澄ませば、外がザワザワと騒がしい。人の叫ぶような声も聞こえてくる。


「客たちも目を覚ました。王都も近いから、そろそろ兵士も駆け付けるかもしれん。お前は仲間を連れて逃げてくれ」


 魔物を助けたと知られれば、二人が他の人間からどんな目に合わされるかは想像に難くない。

 セアルはスライムを抱え、ゆっくりと立ち上がる。


「運ぶのはお手の物さ。荷物も魔物も情報も。君たちも運んであげようか。二人多くなったところで重量オーバーにはならない」


 しかしロムレスはセアルの申し出に首を振る。


「大丈夫だ。色々説明もしなきゃならないし」

「……そう。まぁ人間には人間の義務があるんだろうね」


 セアルが静かに腕を振ると、床に広がる影から黒い帯がうねうねと伸びる。

 それは傷ついた魔物たちを包み、ゆっくりと影へと引きずり込んでいく。


「また会おう。君らが無事ならね」


 そんな言葉を残し、セアルも影の中へ消えた。

 すっかり静かになった室内に残されたミーアとロムレス。

 二人は顔を見合わせ、扉へと体を向ける。


「なんか勘違いしてたね」

「ああ。まぁ、ヤツに貸しを作って困ることはない。それより問題は――」


 ロムレスはそう言って小屋の扉を開く。

 足を踏み出すや否や、大歓声が二人を包んだ。


「我らの英雄だ!」

「もう大丈夫なのよね? もう魔物はみんな始末したのよね!?」

「ありがとうございます、ありがとう……!」


 魔物園へ訪れていた客たちはみんな涙を流し、縋るように、そして辺りに転がった死体から目を背けるように二人を讃える。

 彼らは魔族と組み、園内に囚われていた魔物を開放した裏切り者――ではなく、突如暴走し始めた魔物から人間を守り戦った英雄として認知されていたのだった。




書き溜めストックがなくなりました!!!

キリの良いとこまで書き上げたらまた連日更新します。

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