16、王宮に潜む化物
「んしょ、んしょ」
城壁の穴をネズミのようにくぐり抜け、こっそり顔を出すフリージア。
彼女が草木に隠れるようにして侵入したのは、王都の中心にそびえる宮殿の中庭。
キョロキョロとあたりを見回し、巡回の兵士がいない事を確認すると、彼女は素早く立ち上がって駆け出した……はずだったのだが。
「止まれ!」
背後からの声に、フリージアは凍りついたように足を止める。
次の瞬間、彼女の体はふわりと浮かび上がった。
「なーんちゃって。おかえり、お姫様」
満面の笑みでフリージアを抱きかかえる、白いローブの男。
髪は老人のように真っ白だが、その顔はフリージアの兄と言われても納得できるほどに若々しい。
フリージアは彼の笑顔を見るなり、喜んでいるような怒っているような不思議な表情を浮かべた。
「ブラン! 脅かさないで!」
「ははは。後ろめたい事してる方が悪いんだ」
ブランと呼ばれた男は少年のような笑みを浮かべ、そして急に真顔になって言う。
「……変わった匂いがするね」
「ふふー、気付いた?」
フリージアはニンマリ笑い、纏ったボロ布をもぞもぞとさせる。
すると首元から黒猫がひょっこり顔を覗かせた。
「ミーヤ、見つかったの! 路地裏にいたから、ちょっと路地裏の匂いがするかも」
「そういう匂いじゃないんだけど……まぁ良いや。見つかったんだね、猫。私の知り合いのお陰だね」
「なによ、ブランのせいで逃げちゃったんじゃない」
「ははは。そうだったそうだった。でも久々の王都は楽しかったろ?」
ブランの問いかけに、ミーアは少々悩んだあと小さく頷いた。
「王都って城と全然違うんだもん」
「そうだろう、そうだろう。ならやっぱり私のお陰だ」
「なによ、偉そうに。良いもん、今度は勇者様に連れて行ってもらうもん」
拗ねたように呟くフリージア。
ブランは彼女の言葉に首を傾げる
「ユーシャサマ? 変な名だね。外国人かい?」
フリージアは首を横に振る。
「ううん。“いせかいじん”だよ」