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13、新人猫耳警察官爆誕



 結局ロムレスが栄光の女神亭の扉をくぐったのは、すっかり日も傾き繁華街の酒場に明りが灯る頃であった。

 ほとんど空になった皿の前で不貞腐れたような顔をしたミーアが一人彼を迎える。


「ねぇ師匠どこ行ってたの? せっかくのお祝いだったのに。もう料理冷めちゃったし、お姉さん買い出し行っちゃったよ」

「すまない、仕事の依頼が――待て、なんだその服は」


 オレンジ色のライトに照らされたミーアの姿に、ロムレスは表情を凍らせる。


「んふふ、気付いちゃった?」


 ミーアは両腕を広げ、クルリと回って見せる。

 袖口の広い、ゆったりした紺色のローブ。前面に取り付けられた金色のボタンにロムレスは強烈な既視感を抱いた。

 彼は視線を落とし、自分の胸元に目を向ける。ミーアのローブと同じ生地、そして同じボタンが視界に飛び込んできた。


「それ、どこで」

「お姉さんに貰ったんだ」


 ミーアの無邪気なドヤ顔にロムレスは眩暈を覚えて頭を抱える。


「お前、それが何か分かってて受け取ったのか……?」

「分かってるよぉ、師匠とお揃いの服でしょ? これでミーアも警察官」

「そんな、こんな子供を……あの人は一体何を考えているんだ……というかお前、警察官の意味が分かってる?」

「もー、バカにしないでよね。異世界人絶対ぶっ殺すマンのことでしょ」


 ミーアの屈託のない笑顔に、ロムレスの口からはため息しか出てこない。


「……警察官っていうのは異世界の治安維持組織だ。こっちで言う憲兵とかギルドの自警団みたいなものだが、もっともっと強い権力を持っている。向こうの世界はこちらよりずっと略奪行為や殺人・傷害が少ないらしい」

「へー。そんな世界にあんな変態たちが住んでるなんて不思議だね」

「そうだな。でもあんな変態たちが強大な力を手に入れても、どうやら警官ってのは怖いらしいんだ。幼いころからの刷り込みってやつなのかもな。この服を見ると、ヤツらは大なり小なり警戒する。こちらの人間だって、軍服に似たこの服を見ると捜査に協力的になるだろ? それと同じだ」

「こっちの人間に権威を見せつつ異世界人を威嚇できる服ってこと? イカすじゃん」

「だが警戒するってことは攻撃態勢に入るってことだ。自分を餌に釣りをするような危険が付きまとうんだぞ」

「大丈夫だって、ミーアにはコレが付いてるし」


 ミーアはそう言って、クルリと背を向けて背負っていた日本刀をロムレスに見せつける。


「ん!? その剣は!?」

「あー、ハイハイ。そのくだりもうやってるから。これもお姉さんに許可をもらってまーす」

「くっ!? なぜ……」

「なんかお姉さんの言葉には従順だよね? なんで? ヒモだから?」

「……………………」


 ロムレスは腕を組み、苦虫を嚙み潰したような顔でジッと何かを考える。

 やがて彼は驚くほどさわやかな笑みを顔に張り付け、ミーアの肩に手を置いた。


「よし、ミーア。初仕事だ」

「えっ? なになに? どんなの?」

「お前にピッタリの重要な任務だよ」




*****




「……噓つき」


 ランドマークの一つであり王都屈指の待ち合わせスポット、“女王の噴水”の前でミーアはがっくりと肩を落としていた。


『異世界人は普通の人間と同じ姿をして、虫も殺せないといった顔で一般人に紛れている。一見何の関係もない事件に見えて、実は裏で異世界人が手を引いていたなんて話は今までにも多くあった。市民からの依頼を請け負うことは異世界人の情報を集める非常に重要な手段だ』


 そんな言葉に丸め込まれ、ミーアは朝早く女王の噴水へ足を運んだ。

 しかし彼女を待っていたのは、想像と全然違う依頼人。そして想像と全然違う依頼であった。

 ミーアは膝を折り曲げ、小さな依頼人と目線を合わせる。


「お名前は?」

「フリージア」

「フリージア? どこかで聞いたことあるような」


 ミーアは首を傾げながら依頼人をじっと見つめる。

 どこから拾ってきたのか分からないようなボロ布を纏っているが、フードから覗く銀色の髪はよく手入れされ光を受けて輝いている。幼いながらも芯の通ったアイスブルーの瞳は利発そうに輝いているが、その背丈は小柄なミーアより随分と小さい。

 ミーアの初めての依頼人は、どこからどう見ても子供であった。


「ええと、お母さんはどこ? まさか、一人?」


 フリージアは小さくうなずく。


「本当に私に、というか“警察官”に依頼したの?」


 フリージアは大きくうなずき、ミーアに一枚の画用紙を差し出す。


「ともだち、見つけてほしいの。もう1週間も会ってないの」

「ともだちねぇ……」


 画用紙の中央に大きく描かれたのは、四足歩行の黒い獣。ヒゲを表す3本の線が両頬にそれぞれ描かれ、頭頂部にはミーアのそれによく似た三角形の耳が乗り、首には金色の鈴が付いている。


「猫探し……“お前にピッタリの重要な任務”がこれ? 適当などうでもいい仕事押し付けてるだけじゃん」


 ミーアは唇を噛み、うなだれる。

 背負った自慢の刀も、猫探しにおいてはただの重い荷物でしかない。

 この小さな少女を置き去りにし、ロムレスに文句を言う事もできなくはないが。


『市民の信頼を得ることも、今後の捜査をスムーズに進めていくための重要な要素だ。決して手を抜かず、依頼人に失礼のないようにな』


 去り際に言っていたロムレスの言葉を思い出し、ミーアは頭を掻きむしった。


「あー、もう! 分かったよ。探そう、可愛いお友達を」




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