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12、祝賀会(女子会編/男子会編)




 王都の繁華街にひっそりと店を構える酒場、栄光の女神亭。

 扉には『準備中』との札が掛けられているが、店内には灯が輝き、肉の焼ける香りが路地にまで漂っている。

 中では警官と猫耳少女の任務遂行をたたえる祝賀会が行われていた。


「ご苦労様でした。ミーアさんも一緒に行ってしまったと聞いて心配していたんです。怪我はありませんでした?」


 お祝いだからだろうか。今日の女店主のコスチュームはスパンコールの眩しい華やかなパーティドレスである。

 胸に谷間を作りながら、グツグツに煮えたスープを鍋ごとカウンターに出す。

 炭火で焼いた骨付き肉、色とりどりの新鮮な生野菜、魚介の揚げたてフリット、真っ赤に茹で上げられたロブスター、たっぷりのチーズを纏い湯気を立ち昇らせるマッシュポテト――カウンターは食べきれないほどのご馳走が並び、ミーアが肘をつくほどのスペースもない。


「へーきへーき! ちょっと熱出したくらい。リンゲンの田舎は最悪だったけど、都市部は最高だったよ。ソーセージもすっごく美味しくて、スイーツも可愛くて。あ、これお土産」

「まぁ、ありがとうございます!」


 ミーアの差し出したクッキー缶を女店主は嬉々として受け取る。

 そして彼女はふとミーアが背負ったものに目を向けた。


「そういえば、その剣は……?」

「ふふ……気付きましたか」


 ミーアは背の高い椅子から飛び降り、背負ったそれを外して掲げる。

 彼女が腰に下げれば引きずってしまうほど刃長の長い日本刀。それはロムレスが異世界人に渡されて使用し、銃で刃先を砕いた刀であった。


「カッコいいでしょー! ミスリルも異世界人の首も斬っちゃうんだよ」

「……ただの剣じゃありませんね」


 女店主はなにかを見透かすような目でミーアの抱える刀を見つめる。


「それ、貸してください」

「えっ……ヤダヤダ! せっかく小刀二本犠牲にして、これだけは師匠から隠し通したのに」

「師匠? ああ、ロムレスさんに弟子入りしたのですか。ならばなおさらです。見せてください」


 ミーアは隠していた捨て犬を発見された子供のように刀を後ろ手に抱えて細かく首を振る。

 だが母親のような笑顔で手を差し出す女店主になぜか逆らうことができず、ミーアは泣く泣く刀を彼女に手渡した。


「欠けたところは別の金属で補ったんですか?」


 女店主は刀を鞘から出すことなく、それの現在の状態を言い当ててみせる。

 ミーアは驚きのあまり目を丸くしながらうなずいた。


「良く分かったね。砕けたミスリルの短剣使ったの。短くなっちゃうの嫌だったから」

「なるほど。この子、救ってくれたミーアさんにとても感謝していますね」

「え? お姉さんにも声が聞こえるの?」

「声は聞こえませんが、分かりますよ。きっとあなたの助けになります。大事にしてあげてくださいね」


 女店主は女神のような優しい笑みを浮かべながらミーアに剣を返す。


「あ、でもロムレスさんには決して渡さないように。この子を砕いたのは彼ですね。彼に対してとても怒っています」

「あー……分かった。渡さないようにする。で、師匠どこ行ってんの? 遅くない?」

「用事を済ませてから来ると言っていましたが……」

「料理冷めちゃうよぉ」


 カウンターから立ち上る湯気と香りに、ミーアの腹が抗議の声を上げる。

 女店主はクスクスと笑い、ミーアに葡萄ジュースで満たされたグラスを差し出す。


「もう始めちゃいましょうか。ミーアちゃんにあげたい物もあるし」

「えー? なになにー?」


 店内に女子たちの朗らかな声が響く。

 祝賀会の主役欠席のまま、会は徐々に“女子会”へとその姿を変えていくのだった。




*****




「うぐっ!? ゴホッ……」


 薄暗い路地裏に膝をつき、腹を抱える紫髪の男。

 彼を見下ろしながら、ロムレスは吐き捨てるように言う。


「いい加減吐けよ、なにが目的だ」

「どうしたんだよ、藪から棒に。僕のお陰でまた一人異世界人を始末できたんでしょ? まずお礼をするのが筋じゃない?」

「余計なこと喋るな。なぜかお前を見てると“ぶっ飛ばさなきゃ”って気分になってくるんだ」

「さすが、伝説の傭兵は言うことが違う」


 笑顔で言う男の胸ぐらを掴み、ロムレスは彼を壁に叩きつける。


「お前、何者だ?」

「情報屋だってば」


 殴られても凄まれても、男はヘラリと笑うばかり。

 ロムレスは感情を押し殺したような低い声で男に尋ねる。


「リンゲンの異世界人、金属操作スキルを持ってて俺の銃が効かなかった。お前、知ってたんだな?」


 その問いに、男は悪びれる様子もなくあっさりとうなずいた。


「もちろん。凄いのが武器だけじゃあ頼りにならないからね」

「リンゲンの主要な武器屋に聞きまわったが、妖刀など見たことがないと言う。ヤツは作った刀を市場に卸してはいなかったんだ。なら、貴様は流通していないはずの刀の情報をどこで仕入れた? なぜただの肉屋があの刀を持っていた?」

「情報屋が情報の出どころ言う訳ないよね。でも、まぁ、お察しの通り。僕があの男に剣を握らせた。“警察官”がどれだけ強いのか、この目で確かめたかったからね」

「なぜだ……何人も死ぬかもしれなかったんだぞ」

「うーん、正直人間の生き死ににあんまり興味ないんだよね。君だってさ、スライムが十匹死んだって聞いても特に何の感情もわかないだろ?」


 ロムレスはハッとしたように目を見開き、そしてますます視線を鋭くさせた。


「お前、まさか……」

「ついこの前までは憎み合い殺し合う関係だったけど、そうも言ってられないでしょ? 敵の敵は味方っていうし。今だけは手と手を取り合い協力しようよ」


 男はそう言って紫色の髪をかき上げる。

 薄く笑った唇からは妙に尖った歯が覗き、路地裏の壁に映った影がウゾウゾと蠢く。

 その不気味な雰囲気にロムレスの肌が粟立った。その感覚はロムレスの古い記憶を呼び覚ました。


「魔族……!」


 親の仇を見るような目で男を睨むロムレス。

 男は張り付けたような笑みを取り払い、急に真剣な表情で口を開いた。


「僕、“警官”って職業よく知らないんだけど、仕事の依頼ってできるのかな?」

「依頼だと? 魔族に仕事の依頼をされるとは夢にも思わなかったな」

「真剣な頼みなんだ。多分君にしかできない」


 男はロムレスに訴えかけるような視線を向け、重々しく言った。


「異世界人に囚われた妹を、救ってほしい」




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