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プロローグ




 世界は二人の神によって創造された。

 女神と呼ばれる神は光の世界と人間を作り、邪神と呼ばれる神は闇の世界と魔族を作った。


 有史以来、人類と魔族はいがみ合い、争い合い、世界の覇権をめぐって戦っている。


 だがある時、なかなか決着のつかない争いに業を煮やしたのだろう。

 女神は対魔族用の生物兵器を自らの治める世界に投入した。


 いわゆる“異世界人”である。


 俗に地球と呼ばれる世界の人類はこの世界の人類と姿形はよく似ている。しかし彼らの魂は非常に頑丈で、大きな負荷がかかる“神々の加護”にも耐える事ができた。

 今、神々の間ではこの異世界人に様々な加護チートスキルを与えて自分の世界に放つ“異世界転移”が大流行している。


 だが、地球の神は考えた。


『優秀な人間が流出するのマジ困るわ。どうせならクソの役にも立たない人間……いや、世界に害がある人間押し付けたろ! あの女神ポンコツだからバレないっしょ』


 こうしてミーハーかつドジっ娘な女神は、地球からの追放者をまんまと自分の世界へ入れてしまったのである。

 それも、本人たちが望むままにチートスキルを与えて。




******





「すみませんお客様、そういうサービスはちょっと……」


 王都の繁華街に軒を連ねる酒場、『栄光の女神亭』。

 この店の主は王都一とも噂される絶世の美女だ。ゆるやかなウェーブのかかった金髪、輝く翡翠色の瞳、柔らかな笑顔。まるで神話の世界から取り出した女神のような容姿の彼女を口説き落とそうと足しげく通う常連客の数は少なくない。

 さらに目を引くのは、彼女の服装である。


「なに固いこと言ってんの。そんな格好しておいて」

「これですか? これは酒場における正装だそうです! “バニーガール”っていうんですよ」


 そう言って大きな胸を張る女店主。

 ウサギの耳を模したヘアバンドを付け、黒いレオタードと網タイツを恥ずかしげもなく纏っている。

 ピッタリしたレオタードが体の線を浮かび上がらせ、その凹凸に客の男たちが釘付けになっていることに彼女は気付いていないし、気にしてもいない。

 酒場で客に絡まれるなど、店主にとっては文字通り日常茶飯事。あまりに酷い時は常連の客が窘めるのだが。


「俺、異世界人なんだけど。分かる? この世界のために人生を捧げたんだよ? ちょっとくらい奉仕してくれてもバチは当たらないんじゃない?」


 先ほどから店主にしつこく絡んでいた青年の言葉に、店内の空気が凍る。

 ただの酔っ払いの戯言にも聞こえる言葉。だが彼の纏う浮世離れした空気と、紫の髪に緋色の目という特異な容姿がその言葉に妙な説得力を与えていた。

 可愛らしい女店主に良いところを見せようと腰を浮かせかけていた力自慢の男たちも、彼の言葉にそそくさと店を出て行ってしまう。

 テーブルに置かれたコインの枚数がいつもより多いのは、か弱き女店主を見殺しにした罪悪感からか。


 しかし、女店主の方はにこやかな表情を崩さない。


「お客さん、この街には来たばかりですか? あんまりそういうこと言わないほうが良いですよ。お巡りさん来ちゃいますよ」

「兵士なんて怖くないよ?」

「兵士じゃありません。お巡りさんです」

「悪いけど、意味わかんないこと言って煙に巻こうとしてるなら――」


 その時だった。

 店主に凄む青年の右肩を、節くれだった手が掴む。


「あのー、ちょっと良いですか?」


 丁寧な口調ながら、有無を言わせぬ強い語気。

 青年の脚が床から浮く。胸ぐらを掴まれ宙づりにされた彼は緋色の目だけを動かし、頭に突きつけられた冷たい鉄の塊を見る。


「……これが銃か。それじゃあ、あなたが“ケーサツカン”?」


 青年は額から汗を滲ませ引き攣った笑みを浮かべながら、目の前の男に赤い瞳を向ける。

 この世界の住人には馴染みのない筒状の武器を携える、紺色の軍服を纏った男。しかしその軍服は、どの国のどの軍のどの部隊のそれとも違うデザインである。

 ――聞いていた通りだ、と青年はほくそ笑む。


「“警察官”を知ってるのか。その赤い眼……奴らの好きそうな姿ではあるな」


 紫髪の青年を見定めるように、男はその黒い目を近づけた。

 引き金にかけた指に僅かに力が入る。


「ちょ、ちょっとロムレスさん! 店内を血塗れにするのはやめてくださいよ」


 女店主の悲鳴にも似た言葉が店内に響き渡るや、男はあっさりと銃口を下ろした。


「異世界人だなんてしょうもないウソ、二度と吐かないでくださいよ」


 掴まれていた胸ぐらを離されて床に腰を打ち付ける青年。それを見下ろしながら男は軍帽を正し、彼に背を向ける。

 しかし青年は恐れるでも怯えるでもなく、男のズボンの裾を掴んで扉へ向かおうとする彼の足を止める。


「待ってよ。警察官なんでしょ。良い情報があるんだ」

「今度はなんだ。店内でのキャッチはお断りだぞ」

「異世界人の情報だよ。もちろん、本物のね」


 心底迷惑そうな表情を浮かべていた男の目の色が、青年のその一言によって大きく変わる。


「お巡りさん、窃盗だ!」

「助けて、食い逃げなの」

「そ、そこの路地に露出狂がっ……えっ、ちょ、お巡りさん!?」


 助けを求めて続々と店内へ入ってきた者たちを、男は無言で締め出す。

 ドアに掛けられた札をひっくり返して「閉店」とし、店中のカーテンを閉めて回り、そして男は青年に向き合った。


「詳しく話せ」




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