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部屋を出た瞬間、どっと疲れが出た。
深く息をついて近くの壁に寄りかかっていると、廊下の曲がり角からこちらを覗っていたハル先輩と目が合った。
声を発する元気がなかったため、とりあえず笑顔で手を振ってみた。
すると、ハル先輩を筆頭にマルコ先輩、フジサキの順番でこちらに駆け寄ってきた。
「チヒロ、大丈夫だった?」
マルコ先輩が壁によりかかるアタシを支えて心配そうに聞いてきたが、アタシは首を横に振って力なく
「はい。特に何も……」
と答えた。
「何にもねーわけないだろ! お前、ヘロヘロじゃねぇか!」
ハル先輩もアタシの様子を見て、ヒソヒソと小声で話してはいるが語尾はキツかった。
何もなかったと言えば嘘になるが、アイネに口止めされているので何も言えない。
すまんね、皆。折角見張っててくれたのに……。
「マスター、アイネ様からのお話とは何だったのですか?」
フジサキからの質問で、ようやくアタシは口を開いた。
「いや、何。大した事じゃないよ。ただ、お嬢様も相談したい事があったみたい。それでアタシはその相談に乗っただけ……とりあえず、解決したから問題ないよ」
マルコ先輩とハル先輩は、納得いかないって顔をしてたけど、アタシがお礼を言うと『また何かあったらいつでも相談に乗るよ』と言い残して、自分の持ち場に戻っていった。
フジサキとアタシだけが、その場に残った。
アタシはフジサキを見上げて、一言だけこう言った。
「ねぇ、フジサキ……」
「何でしょうか?」
「アンタって、本当に罪作りな男だよね……」
「はて、罪作りとは、一体何のことでしょう?」
首を傾げるフジサキを置いて、アタシはよろめきながらもその場を後にした。
今晩は、文字の勉強よりも先にフジサキの趣味とタイプを聞かなくちゃな……。
アイネとの約束だからね。
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