はじまり、はじまり。
本当に突然なんだけど――。
アタシには『捨て子』だったという衝撃の黒歴史がある。
本当の両親の事は全く覚えていない。
仕方ないって。だってその時のアタシはまだ喋るどころか、ハイハイもできない赤ちゃんだったんだもん。
少し大きくなってから、自分についての記録を見て、自分が新生児の時点で児童養護施設に保護されたこと知ったくらいだったし――。
事故で亡くなったのか、それとも事件に巻き込まれたのか。経済的な理由か――。
あるいは、生まれてくる事を望まれていなかったアタシを捨てたか。
憶測だけならいくつでも上げられた。
小さい頃はそのことがものすごく疑問で、施設の大人達に「私のパパとママはどこ?」「いつ、私を迎えに来てくれるの?」と毎日のように聞いて周っていた。
聞くたびに誰もが口を濁したし、すぐに話題をすり替えられた。
最初は答えてくれない大人達の反応がもどかしくて、膨れっ面をしていたけれど、何となく「聞いてはいけないことなんだ」と子供ながらに理解して、聞くのをやめた。
それから、自分の名前――。
アタシはいつの間にか、周囲に『千尋』と呼ばれていた。
両親が付けてくれた名前かもしれないと思っていた時期もあった。
でも、生まれてまもなく捨てられた自分に両親が付けた名前がある訳ないんだよなぁ――って、5歳になった頃にはたと気が付いてしまった。
それからは施設の大人が名前のないアタシに勝手に付けた名前なのだと考えるようにした。
とにかく、アタシはいつの間にか『千尋』と言う名の身寄りのない少女になっていた。
そして、アタシは常に一人ぼっちだった。
同じ施設にいるんだから、周りの子供達だってアタシと同じ境遇だったろう。
でも、何となく馴染めなくて――。キャッキャッと笑い声を上げて、楽しそうに遊ぶ子供たちの輪に混ざることなく、遠巻きからその様子をただじっと見つめるだけの生活を送った。
笑い話にもならないけど、施設の職員さん達が精神を多少病む程度に、当時のアタシは頑なに孤独を好む陰キャキッズだったわけよ。
マジ、ウケる。
そんなぼっち街道まっしぐらだったアタシにある日、転機が訪れた。
現在の両親。つまり、私を養子として引き取った宮間夫婦との奇跡の出会い。
どんなに頑張っても子供が出来なかった父と母は、アタシのいた児童施設のことをたまたま知って、養子を求めてやって来た。
そして引き合わされたアタシを一目で気に入って、そのまま、あれよあれよと手続きが進んで、そのまま引き取ってくれた。
6歳の誕生日に血は繋がっていないけど、優しい両親ができた。
めでたく陰キャ卒業か? と、思われたが……まだしばらく、暗黒時代は続くんだよね。
そんな特殊な経歴持ちのせいか、『もらわれっ子』のアタシは、入学した小学校で仲間外れにされたり、無視されたり持ち物を隠されたりと、まぁアタシは世間一般で言う『虐め』にあった。
意地悪や嫌がらせをされる度に「世の中は理不尽だな」とは思ったけど、施設を出たばかりで孤独に慣れていたその頃のアタシは、別段それを何とも思わなかった。
ただ教室の窓から見える空を見つめながらこんなことを想っていた。
『現実じゃない、どこか別の世界に行けたらなぁ』って。
別の世界――。誰の目も気にせず、自分らしく生きられる世界。
穏やかで何となく毎日が平和に過ぎていく世界。
それがアタシが唯一望む世界だった。
表面上では「どうってことない」とうまく取り繕っていた。
それでも小さかったアタシの心の中には、常に周囲と交われない孤独と先の見えないこの世への絶望、どうする事も出来ない現実への諦めが渦巻いていたのかもしれない。
今考えてみると、何て暗い思考回路をしていたのだろう。
クラスメイトの間やネットでよく聞く『中二病』とか言うそれそのものだ。
でもそんな考えも、父親の仕事の都合で何度となく転校する度に段々と薄れていった。
転勤族だった父親には感謝してもしきれないくらいだ。
初めてクラスメイトに話しかけられて、友人と呼べる同級生達の輪の中に入れた時、アタシは誓った。
極普通の女の子として『平凡』に生きていくんだって……。
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