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≪ 10 ≫
「うわぁあああああああああッ!!」
さ、叫び過ぎて、の、喉が――!
「マスター、しっかり掴まっていて下さい!」
「言われんでも……うぎゃぁあああああああ――っ!」
ドゴォンッという大きな音とともに、アタシたちは何かにぶつかった。
辺りに濛々と土埃が舞い上がる。
「うっは! 今度こそ死ぬかと思った!! 何かにぶつかったっぽいけど……フジサキ、大丈夫?」
「問題ございません、マスター。それよりも今、気にかけるべき事は他にございます。只今私達が直撃し、破壊した建造物は見たところ、何かの儀式を行う祭壇と像と推測されます」
「え? 何それ、ヤバくね? 超罰当たりな事しちゃったんじゃ……バレる前に逃げた方が……」
「それはいけません、マスター。素直に自首する事をお勧め致します」
「いやいや、何で諭そうとしてるわけ? そもそも、これ壊したのアタシじゃないからッ!! さも、アタシが壊したかのような言い回しやめてくれる!?」
そのとき……何か気配を感じて、思わず振り返った。
何やら土煙の向こうに、人だかりが……。
靄がだんだんと晴れていく。
アタシ達の視線の先にいたのは……あんぐりと口を開けた、人の良さそうなお爺ちゃんだった。
その後ろには、おじさんやおばさん、小さな子供も。
ざっと数えて、20人ってとこかな。
フジサキが破壊したこの建造物から若干距離を置いた所に、全員が何事かと言う表情を浮かべてこちらを見ている。
やべッ、逃げられない!……いや、そうじゃなくて。
どう見ても、全員日本人ではない。
金や茶色の髪に、目の色は青、緑、灰色とアメリカ人やヨーロッパ系の白人種に似た風貌だ。
ど、どうしよう。言葉、通じないんじゃね? いきなりコミュニケーションに難有りな状況なんじゃないか? 何語なら通じるんだろ?
英語ならともかく、フランス語、ロシア語、ドイツ語? ……異世界特有の言語とかだったら完全アウトだ。
さっきから皆、全然動かない。もしかしなくても、めっちゃ怒ってる?
たぶん……いや、確実にフジサキが破壊した建物と像は彼らの信仰していた神様だ。
それをいきなり崖から落ちてきた奴らが粉々に粉砕したのだから、激怒しないわけがない。
うわぁあああ、何て事してくれちゃったんだよ、フ・ジ・サ・キ!
もう一度言うけど、アタシは悪くないぞ。
バキンッ! メキメキメキッ……
黙りこくる人々に何か弁解の言葉を発しようとしたその時、足元の若干クレーターの出来ていた地面から大きな亀裂音がした。
なんだ?と思って地面を見ると、見る見るうちに亀裂が走り、そこから勢い良く水が噴出してきた。
噴水のように噴出した水は、徐々に吹き出す量が増えていき、地面に延々と長く掘られた溝に流れ込んでいく。
どうやら水路のようだ。なるほど、ここは水脈だったのか。
ん? す、水脈を掘り当てた……だと!? 幾らなんでもピンポイント過ぎない?
「わわわッ!?」
アタシは噴出した水をモロに食らった。
制服が一瞬でずぶ濡れになる。大切な一張羅が台無しだ。
シャツにまで水が染み込んできて気持ち悪い。一緒に水を食らっているはずなのに、どうしたことかフジサキは一切濡れていない。
何て言うか、水を弾いている。
「なんで、アンタは濡れないの?」
不思議に思ったアタシが目の前の人々に聞こえないようにボソボソと問いかけると、
「私、防水も兼ねておりますので」
と、しれっとした顔でそう返してきた。
あ、そうですか。いいな、アタシもその機能欲しいな。
アタシ達の目の前にいた人達は一瞬唖然としていたけど……吹き上がる水が虹を作ると、手を取り合って喜びの声を上げた。
「おおー!」
「何ということだー!」
「おかあさーん、すごいよー!」
え? え? この騒ぎ、何?
ここはあの七つの星を身体に刻んだ男の世界ですか?
ほわたーっとか言っちゃう?
……とと、そんなこと考えてる場合じゃない。
とっとと、ここから移動したいが、一歩でも動いたらこのよくわからない盛り上がりをしている人々に包囲されかねない。
アタシが動くか否か悩んでいると、人々の中で一番アタシ達のすぐ近くいた人物、白髪で髭を生やしたのお爺さんが突然、ワナワナと震え出し、カッと目を見開いた。
「言い伝えは本当だったのだッ!! 《終末の巫女》様が我々を救ってくださったッ!」
「はぁ?」
アタシは思わず、首を傾げた。
~ 8th Scene End ~
第1章「アタシと、……?」≪ 完 ≫
これで、チヒロの最初の冒険は終了です。
お疲れさまでした。
このまま、「第1章 あとがき」へ進んでください。