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 今日一日の学園においてのすべての行程が終わったことをチャイムが鳴り、示すと、俺はすぐに学園を出た。

 今日は、あと一人、会わなければならないキャラがいる。

 俺がここでゲームに反した行動をとるとどうなるかは知らないが、せっかく念願のギャルゲーの世界に入ったんだ。

 なるべくゲームのとおりに行動したいじゃないか。

 校門を出た俺が向かったのは、学校へ行く途中に通った公園だ。

 

 ここに、今日出会う、最後のキャラがいる。

 といっても、あくまで「プロローグで出会う最後のキャラ」であって、彼女がゲーム中に登場する最後のキャラではない。

 実は、プロローグに登場しないキャラがあと半分ほどいるのだけど、その子たちとは、本編が始まってから――つまり、明日以降、出会うことになる。


 さて。

 ここで立ち止まっていても仕方ない。

 公園に入るか。


 彼女は――公園の、ブランコに、一人、座っていた。

 ブランコをこぐでもなく、ただ、手すりをつかみ、じっとしている。

 そんな彼女の前に移動。

 彼女の名前は暗野あんのクララ。

 メデューサのようにわさわさした長い黒髪に、ブラウンの目。

 どこかどんよりとしたオーラを纏っている。

 いや、作中では確かに黒いもやもやが彼女の背後に漂っていたが……さすがに今はそんなことはない。

 ゲーム的な演出までは再現されていないらしい。


「よお、暗野だったよな」


 作中の主人公のセリフを借り、声をかける。

 暗野クララ、彼女はクラスメートで。

 学校に行く途中見かけたのが彼女だ。


「………………」


 しかし返事はない。

 暗野クララ。

 彼女は作中、ほとんどしゃべらない。

 だからこれも予定調和。

 学校ではどうするんだよ、と思ったが、まぁ、なんとかなっていた。


「俺は鈴代小太郎。よろしくな」

「………………」


 クララは淀んだ瞳でじっと俺を見つめてくるだけで、やはりなにも語らない。

 作中でもそうだ。

 クララは孤立している。

 ほとんどのキャラが彼女をいない人間のように扱う。

 べつにイジメているわけでもない。

 製作者がそう設定したってだけの話だ。

 彼女を攻略するには、とにかくひたすら会わなければイケナイ。

 会って、ひたすら一人会話に興じるしかない。

 それを一年近く根気よく続けることで、ようやく、エンディングで彼女は一言しゃべるのだ。

 ただ一言「ありがとう」と。

 人気アイドル声優を起用してこれだ。

 作中、クララがしゃべるのは、エンディングのこの一言だけ。

 だがそれがオタクに受けたのか、ネットで開催された人気投票では、彼女がダントツ一位だった。

 まぁ、気持ちはわかる。

 これまでずっと心を閉ざしていたクララが、最後の最後で主人公に心を開き、口を利いてくれるのは、心にグッとくる。

 こないわけがない。


「………………」


 クララが立ち上がる。


「帰るのか?」

「………………」


 やはり返事はなく、クララはいずこかへと歩き去ってしまった。








 これで、プロローグである始業式編のイベントはすべて済ませたことになる。

 今日はもうなにもない。

 本編は明日から。

 明日、入学式があり、そこからゲーム本編がスタートする。

 平日は休み時間と放課後、それぞれ一回ずつ校内から行きたい場所を選択し、その場所にいる女の子と出会いを繰り返し、仲良くなってゆく。

 ゲームも後半にさしかかり、ある程度ヒロインの好感度が高くなると、ルートに入るイベントが起こる。

 それに正しい選択肢を選べば、めでたくヒロインとのエンディングを迎えられる――といった寸法。

 ちなみに、ヒロインは全員学園関係者。

 ほぼ全員生徒で、さきほどあったメガ姉だけが先生側だ。

 一人だけ他校のヒロインが出る予定だったらしいが、それは、開発段階で没になったらしい。


 ……それにしても、本当にゲームの中に……ケイオス・ラブの世界に入ってしまったんだな。

 妹のリリも、声も、稚魚先輩も、只野も、ペソ子も、メガ姉も、クララも。

 みんな、ゲームの通りの人物だった。

 感激だ。

 涙が出る。

 明日から俺は女の子たちとの出会いを繰り返し、やがて、誰かとのエンディングを迎えるのだろう。

 それが誰であろうと、俺に異論はない。

 俺はケイオス・ラブのヒロイン全員を愛している。

 妹のリリは当然として、声も、稚魚先輩も、ペソ子も、メガ姉も、クララも。

 そして、明日以降登場する女の子たちも。

 俺は彼女たち全員を愛しているんだ。

 だから、だれとエンディングを迎えようと、不満があるわけがないんだ。


 ただし只野、てめぇはダメだ。


 ……いや、いくらモテナイからといっても、さすがに同性はねぇ。


 只野自体はいい奴だと思ってるし、あんな友達がいてくれたらなぁ、と何度も思った。

 けれど、それとこれとは話が別。

 俺にほもぉな趣味はない。

 なので只野ルートに入りそうになったら全力で逃げてやる!

 さいわい、ほぼすべてのイベントと、そこで出る選択肢と、選んだ選択肢がどういう効果をもたらすか、というのは、頭の中に入ってる。

 万が一にも只野とだけはエンディングを迎えることはない。


 グッバイ只野。

 フォーエバーユー。


 ……しかし俺は誰と結ばれるんだろうな。

 このケイオス・ラブは、ヒロインを攻略するには知識も当然ながら、それなりに運も必要とする。

 休み時間と放課後に行く場所を自由に選べるが、そこにどのヒロインが出現するかは行ってみなければわからない。

 ヒロインごとに、出現しやすい場所、出現しにくい場所が設定されてはいるものの、目当ての女の子と出会えるかどうかは完全に運任せとなる。

 そのタメ、ヒロイン攻略には、何度も何度もセーブ&ロードを強いられるのだが……それは、ゲーム世界の外にいてこそ可能な技。

 こうしてゲーム内に入ってしまえば、セーブやロードなど使えようハズもない。


 が、それでいい。

 俺は、只野以外なら、どのヒロインと結ばれようとしあわせなんだ。



 帰り道。

 俺は晴れ渡った蒼穹を見あげ、思いを馳せる。

 来年の三月。

 俺のとなりを歩いているのは、一体どの女の子なんだろう――





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