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翌週、日曜日。
俺たちは例によって例のごとく。
デートスポットでの張り込みの後、テキトーな喫茶店で落ち合った。
この一週間、俺たちのあせりを誘う出来事があった。
瀬戸亜麻美が、殺されたのだ。
これで、世界崩壊のリミットまで、あと三人。
「……あと三人殺されたら、この世界は崩壊すると思う」
ミサキが言う。
例によって例のごとく、ミルクティを啜りながら。
「この世界崩壊――すなわち、電脳世界全体の崩壊――すなわち、セカイノオワリだ」
そうなんだろう。
――ミサキの言葉を全面的に信じるのならば。
「残り一人になってからあわてても遅い。ふたり同時に殺されないとも限らないしね。だから、あと一人……あと一人殺されたら、糸の切れたマリオネット候補の四人のうちだれかを、消去する」
「……まだ絞り込めてないだろ?」
「言っただろ? 遅いんだよ、あと二人殺されてから考えても。だからさ、今の内に考えておいてよ。容疑者の四人のうち、誰を始末するかを。確率は四分の一。分の悪い賭けだけど……しょうがない。ボクたちがふがいなかったその結果だ。九分の一じゃないだけよしとしよう。誰を消去するかは、コタローくん、キミが決めてくれ」
「俺が……決めるのか?」
問うと、ミサキは、諦めきったような笑顔を見せた。
「ここはコタローくんの世界だしね。コタローくんが決めてダメなら、それはもう、しょうがないよ。ボクが決めるより、幾分マシでしょ?」
「………………」
「ああ、安心して。間違っても、誰もキミを責めやしないから」
「他の誰も、正解なんてわかりやしないからか?」
ミサキは首を振る。
「キミを責める人間がいないからさ」
たしかに。
世界が崩壊するんだ。
一体誰がこの俺を責めるというのか。
「誰を、消去するか、か」
その答えは、まだ俺の中にはない。
けど……考えれば、わかりそうな気はしている。
正解が。
それが、俺にとっての正解とは、必ずしも限らないけれど……
「――信じていいのか?」
ふいに、俺は言った。
ミサキはきょとん。
「……え? なにが?」
「お前だよ」
「ボク?」
「ああ。お前の言葉は、信じていいのか? 本当に世界は崩壊したのか? AIに自我が芽生えたのか? 糸の切れたマリオネットなんて存在するのか? お前がヒロインを殺してないと言う保証はどこにある?」
これまでの不満が、爆発した。
疑心暗鬼だけじゃあない。
俺は、怖かったんだと思う。
ミサキに騙されることが。
そして、ミサキを信じることが。
信じられない、というような顔で、呆然と、俺を見つめてくるミサキ。
「ボクのことをそんな目で見てたのか? ボクが嘘を言っていると? ボクがヒロインたちを殺しているかもしれないと? 本気でキミはそう言うのか?」
身を乗り出してくる。
他の客が何事か、とこちらを見て来るが……しょせんAIだ。
彼らに、自我はない。
ミサキはまったく気にも留めてない様子だし、俺も、気にしなかった。
「ああ」
俺はうなずいた。
「ミサキが嘘を言っている可能性もあるし、ミサキがヒロインたちを殺しまわっていない、とも断言できない」
「ふっっっっっざけるな! ボクがどんな想いでここに来たのかも知らない癖に! ボクは、ずっと、この世界を守るために必死だったんだ! 全力を尽くして来たんだ! 何もかも忘れてこのあまったるい世界でヌクヌクと過ごして来たキミに疑われる筋合いなんてない!」
「筋合い? あるさ、筋合いなら」
「なん……だと……?」
眉をしかめ、俺を睨み付けてくるミサキ。
「ミサキ、お前は、俺に嘘をついている」
「この間のこと? ボクは本当に見かけたんだよ」
「……いや、取りあえずそれはおいといて。
それ以外のことだ。
それ以外で、ミサキ、お前は、俺に嘘をついてる」
言うと、ミサキは、一瞬、ためらった。
「う、嘘はついてない!」
「そうだな。嘘はついてない。訂正しよう。
ミサキ、お前は俺に、隠していることがあるな?」
「…………………」
沈黙。
なによりもそれが、俺の言葉を肯定していた。
俺は言う。
あるいは、残酷な言葉を。
「ミサキ、お前…………………………男、だろ?」
ミサキの顔から、一切の表情が消えた。




