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「たった一人を除いて……? ど、どーゆーことだ。そ、それじゃあまるで、この世界のだれかに自我があるみたいじゃないか……」

「あるよ、キミの愛したヒロインたちの内、たった一人にだけ、自我が、ね。その子は、データとはいえ、ボクやキミと同じように、自我がある。……皮肉なことに、滅びゆく運命さだめの人類が現実逃避のタメに逃げ込んだ先で、新たな人類が誕生した。ただの超リアルなAIに過ぎないハズの存在に、自我が生まれたんだ」


 ミサキは俺を見る。

 まっすぐに俺を見つめてくる。


「コタローくん、それが、ボクがこの世界に来たわけだ。キミをここへ呼んだわけだ。ボクたちエージェントは電脳世界の安寧を保つ。逆説的に、ボクたちがあらわれた電脳世界は、その安寧が脅かされている、ってわけだ」


 そう、そうだ、その通り、まったくもってその通りだ。

 俺はがっかりしている場合でも、どこかほっと安堵している場合でもなかった。

 この世界には、なにか問題があるんだ。

 だからこそ、世界の安寧を保つ存在であるエージェント・ミサキは、この世界に来た。

 そしてそれはおそらく、この世界でただ一人、自我を持ったAIに、なにか関係している。


「察しがいいね。そのとーり。AIが自我を持ったことが問題なんだ。

 アナザーライフは、多くの人間の不安をよそに、うまく稼働していた――当初はね。

 けど、ポータルサイトの時間で三年ほどが過ぎたころ、問題が生じた。

 それが、AIの自我の獲得だ。AIは、キミが身を持って体験した通り、超高性能なものだ。

 ――哲学的ゾンビって知ってる?」

「まぁ、なんとなくは」

「ぱっと見はふつうの人間なんだけど、その実、意思を持たない人間。アナザーライフが生みだすのは、そんな超高性能AIなんだよ。自我はない……ハズだった。こちらの問いかけにふつうに答えることが出来ても、それは、あくまでプログラムによる反応のハズだったんだ。それなのに、ある日、無数に存在するアナザーライフの第二世界の一つで、AIに、自我が生まれた」


 その時、頭に浮かんだギモンを、俺はそっくりそのまま口にしてみた。


「自我を持ったAIと、自我を持たないAIとの違いは一体なんだ?」


 ミサキは肩をすくめる。


「さあ」

「さあって……」

「いや、誤魔化してるわけじゃない。本当にわからないんだ」

「じゃあ、この世界で自我を持った何者かってのも?」

「わからない。ただわかってるのは、自我を得たのは、ケイオス・ラブのヒロインのうちのだれか、ってことだ」

「なぜそれはわかるんだ?」

「自我を持つ可能性があるのは、超高性能なAIだけで、そして超高性能なAIを使用しているのは、この世界でキミに頻繁に接触するヒロインたち十三人だけだ。ほかの無数に存在する人間には、キミが接触する可能性の低い人間になるほど、程度の低いAIを使用している。ここを出たら試しにまったく知らない人間と二、三分会話してみなよ。支離滅裂な会話になるから」


 赤の他人と会話する。

 それは、俺には、まったく縁のないことだ。

 ……いや、俺だけじゃないだろう。

 他の多くの人間が、通りすがりの人間なんて、歯牙にもかけない。

 俺がこの世界で数年過ごして来て、まったくそのことに気付かなかったとしても、まぁ、フツーだろう。

 決して俺が特別コミュ障なわけでも鈍いわけでもない。

 ……たぶんね。


「全員に超高性能なAIを使用しないのは、そうすると、まぁ、世界の維持が大変なんだ。それに、今は超高性能なAIが自我を持つ可能性があることはわかってるからね。なるべくそのリスクは避けたいんだよ」

「自我を持ったAIが、この世界で、ヒロインたちを殺しまわっているのか?」

「そーゆーことだね」


 ……そうだったのか。

 ようやく、一つ謎が解けた。

 なにが起こっているのかわからなかった。

 誰が殺しまわっているのか、見当もつかなかった。

 けど、今は違う。

 ケイオス・ラブのヒロインのだれか。

 それが、この世界で、ヒロインたちを殺しまわっているんだ。


「なぜ自我を持ったAIは人を殺す?」

「さあね」

「さあねって……」


 またそれか。


「いや、本当にわからないんだよ」

「わからないって……じゃあ、どうやってヒロインたちを救えばいいんだよ!」


 言うと、ミサキは、きょとん、と小首をかしげる。


「ヒロインたちを救う?」

「そうだよ! 救うんだよ、この俺が! なんでそんな不思議そうな顔をするんだよ!」

「ヒロインって……データだよ?」

「そ、それでも、俺にとっては人間なんだよ! だいたい、哲学的ゾンビって、傍目にはまったく区別がつかない存在だろ!? なら、超高性能AIだろうが人間だろうが、なんの違いもないハズだ!」

「あー、まぁ、そーゆー考え方もあるか」


 と、いちおう納得する素振りを見せつつも、


「でもさ、それはそれとして、ボクがここに来たのはヒロインたちを救うためじゃあないんだ」

「ど、どーゆーことだよ? 自我を持ったAIが人を殺しまわってるんだぞ! 止めなきゃダメだろ!」


 わかってないな、とばかりにミサキは首を振る。


「問題は、自我を持ったAIが人を殺すことじゃあないんだよ。本当に問題なのは、自我を持ったAIが存在することそれ事態なんだ」

「どういうことだ? なぜ自我を持ったAIが存在すると問題なんだよ?」

「細かい理屈は省くけど、自我を持ったAIが存在すると、その世界の存亡が危うくなる。キミにも心当たりがあるんじゃないか?」

「……いきなり、世界が真っ白になることがあった。最初は長い間隔で起こっていたけど、最近じゃ、かなり頻繁に起きている」

「ホワイトアウト、とボクたちは呼んでいる。ま、便宜上、ね」

「偶然だな、俺もそう呼んでる」


 言ってから、思う。

 べつに偶然でもなんでもないかもしれない。

 あれを体験すれば、だれもが現実のホワイトアウトに重ねるだろうし。


「ヤバイ兆候だよ。キミのいるこの世界は、危機に瀕している」

「いったんリセットして作りなおせば……」

「リセットという選択はありえない。システムに負荷がかかり過ぎて危険だ。現実的なのはこの世界の凍結だが、それをするにも、自我を得たAIは排除しなければならない」

「そうか……悪いな、俺のためにわざわざ」


 なんとなく申し訳ない気持ちがして、謝ってみた。


「カンチガイするな。キミのためじゃない」


 が、返ってきた言葉は、存外に冷たい。


「アナザーライフにダイブすると、まず、第一世界であるポータルサイトに到着する。そこで、キミの言う我々管理者が、キミたちが第二世界に行くのをサポートするわけだ。記憶をどうするかも、この段階で本人の意思を確認する。余談だが、多くの人がそうであるように、キミもまた、外の世界の記憶を消去することを選択した。それはまぁ、本人の自由だ。本人の意思を最大限尊重する。

 閑話休題。

 さて、わかるかな? これがどーゆー意味か」


 試すように俺を見てくるミサキ。


「そうか……第一世界から第二世界へとダイブする……つまり、すべての世界は繋がっているわけか」

「その通り。無数にある電脳世界は、それぞれ独立して存在しているわけじゃあない。繋がっているんだよ。すべてが。一つの世界が崩壊すれば、繋がった他の世界もすべて崩壊する。だから、キミのためなんかじゃあ決してない」


 ……なるほど。

 どうやらこれは、俺一人の問題じゃあないらしい。

 ヒロインたちを救いたい、それだけを思って行動してきたが、実際は、そう単純な問題でもなかったのだ。


「だけど……どうすればいい? どうやってその、自我の芽生えたAIを特定するんだ?」

「さて、どうするか」

「なんだよそれ。これまでも自我の芽生えたAIを処理して来たんじゃあないのか?」

「してきたよ。けど、それはまぁ、世界によって違うし、いまだにその方法は確立されてないんだよ。ボクたちだって万能じゃあないんだよ」


 どこか苦々しげに言うミサキ。

 最初俺は、ミサキと話して、ひょっとしたらコイツは神様に等しい存在なんじゃないかと思った。

 けど、今じゃあだいぶ印象は異なっている。

 ミサキは、俺よりも世界の真実を知っているだけの、ただの人間だ。

 そのことを少し残念に思いながらも、どこか安堵している俺がいる。


「今まではどうしてたんだ?」

「その世界のルールに則って探してたり、糸の切れたマリオネット……つまり、自我を得たAIを引っかけたりして特定してきた」

「糸の切れたマリオネット?」

「そう呼んでる。超高性能AIなんて、プログラム通りに動く人形のようなもんでしょ? それが自我を得て、勝手に動き出すから、糸の切れたマリオネット」

「なるほどね。で、引っかけるってのは?」

「糸の切れたマリオネットは、メタ視点に立てる。だいたいの場合、第二世界はフィクションの世界を再現したものなんだ。キミの場合はケイオス・ラブというゲームだけど、ほかにはマンガやアニメや映画やドラマの世界を再現した世界もある。今回の場合なら、糸の切れたマリオネットは、自分がケイオス・ラブというゲームのキャラだということを認識したってことだ。自分がAIだと気付いた、というよりはね」


 自分がフィクションのキャラだと気付いたフィクションのキャラ、か。

 なんとも不思議な言葉だな。


「つまり……ゲームキャラじゃ絶対にしないような発言をさせる、とか?」

「まあね。この世界でなら、ペンギンのキャラがいたよね?」

「ペソ山ペソ子」

「うん、それそれ。あのキャラは、キミやボクにはペンギンに見え、フィクションキャラにはフツーの女の子に見える。けど、糸の切れたマリオネットには、すでにボクたちと同じように見えているハズだ。なにかそんな感じの発言をしているヒロインはいなかった?」

「って言われてもなぁ……」


 ペソ子をペンギンとして認識していたような素振りを見せていたヒロイン。


「……いや、心当たりはないな」


 ミサキは思いっきりしょんぼりと下を向く。

 うっ……そこはかとなく罪悪感が……

 が、すぐに顔をあげ、


「ま、そんな感じに、世界の設定を利用したり、しなかったり、だ」

「わかったようなわからないような……けど、そんなんで引っかかるのか?」

「人によるね。自我が芽生えたからといって、キャラが変るわけじゃない。あくまで自分をフィクションのキャラだと認識する、ってだけで、性格が変ったり頭が良くなったりするわけじゃあないんだよ。元がおバカならすぐに特定できるだろうし、それなりに知恵が働けば、特定するのは困難かもしれない」

「今まで特定できなかったことは?」

「ないよ」


 即答。


「特定して、しかるべき処置をしなければ、世界は終わる。この、電脳世界がね。そうすると人類は、今度こそ、生きる場所をなくしてしまうことになる。それは避けなければならない。絶対の絶対に、だ」


 失敗即絶滅、か。

 ……前よりも状況は悪くなってるな。

 たしかに、この際、ヒロインが殺されることなんて、たいした問題じゃなくなってる気がする。

 ……いや、まぁ、酷い話だけども。


「特定の方法についてはこれからふたりでじっくり考えて行けばいいけど、まずは、キミにある程度案を出してもらいたい。キミの方が詳しいだろうしね。次が始まるまでにじっくり考えておいてよ」

「次?」

「ああ、次だ。今の周も、もう少しで終わるだろう」

「……そーいや、最初はエンディングの日にループしてたけど、途中から、エンディングの日に関係なくループするようになったけど……? てか、そもそもなんでループするんだ?」


 思いついて、訊ねてみる。


「世界の構築には限界があるからね。無限に世界を広げられるわけじゃない。だから、ある一定の期間で、スタート地点に戻るようになっている。この世界の場合は、ゲームに準じているってだけだ。ケイオス・ラブの世界をそっくりそのまま再現したからね。

途中から、エンディングの日の前に時がもどるようになったのは、糸の切れたマリオネットの暴走からこの世界を守る緊急処置だよ。超高性能AIが殺害されるんだ。世界に、それなりの悪影響は出る。だから、超高性能AIがある一定数殺されてしばらくしたらスタート地点にもどるようにした」

「………………」

「なに?」

「……いや、べつに」

「言いたいことがあるならはっきりいいなよ。男らしくない」


 ミサキがどこかムッとしたように言う。


「なら言わせてもらうけど」

「どうぞ?」


 ……なんで挑発的なんだよ。


「遅くないか? 対応が。ヒロインたちはずっと前から殺されてるんだぜ? 最初の周で妹が首つりをしてから、今回で、八周目だ。その間、俺の言うあんたたち管理者は一体なにをしていたんだよ? もっと早く俺に接触することは出来なかったのか?」


 とげとげしいミサキの態度に、俺も自然、とげとげしくなっていた。

 怒ると思ったけど……案の定、ミサキをはぷくぅ、と頬を膨らませて、


「違うんだよ! 時間の流れが!」


 怒鳴り、はぁはぁ肩で息をする。


「第二世界と第一世界、それと現実世界とでは、時間の流れが異なっているんだ。現実に近づくほど時間の流れはゆったりし、電脳世界に深く潜るほど、時間の流れは速くなる。

 たとえば、この世界で一年過ごして第一世界に戻ると、一日しか経ってなくて、さらにそこから現実世界にもどると、一時間しか経ってない。時間はあくまでたとえだけど、それほど時の流れの速さが違うんだ。第一世界から見れば、第二世界は超スピードで流れていってるんだよ!」

「あ、そ、そうなんだ……」


 これもなんかどこかで聞いた設定だな。


「それにそもそも、キミだって悪いんだぞ。ボクが必死でメッセージを出しているのに、なかなか気づかないんだから」

「メッセージって……アレか。没キャラの」

「クマと白鳥麗華。あとは、夢と……」

「夢?」

「ああ。うっすらとでも覚えてない? キミの夢になら多少は干渉できたんで、何度かキミと夢で会って会話したんだよ。そこで、今言ったような真実を伝えた。キミが覚えている可能性は限りなく低かったんだけどね」

「夢か……わからないな、正直」

「そっか、やっぱり忘れちゃってたんだ。うっすらと、潜在意識にでも残っていればいいかな、と思ってやったんだけどね。……まぁでも、キミがここにたどり着いたのなら、ひょっとしたら夢の影響があるのかもしれないね」


 どうだろう。

 夢か……なんとなく、そんな夢を見たような、そうでもないような……わかんね。


「あとは、メール」

「メール? ヒロインとのデートのあとに送られてくるメールが、一文字大きくなってたけど……」

「それもボクからのメッセージだよ」

「あれになんの意味があったんだ? 組み合わせても、文字になりそうになかったけど……」

「あれはボクの存在を伝えるためさ。キミ以外の存在がこの世界にいるぞ、って言うね。あくまで意識をそっちに向けて貰いたかったってだけ」

「文字の組み合わせでメッセージを伝えればよかったのに」

「それが出来たらそうするさ。最初に言ったと思うけど、ここはキミのための世界。キミがこの世界の主なんだよ。だから、この世界に干渉するには、この場所から、この世界のルール、つまりケイオス・ラブのルールに則って干渉しなければならないんだよ」

「なんでそんな面倒くさいことするんだよ。最初から自由に干渉できるようにすればいいだろ?」


 俺の言葉に、ミサキは肩をすくめた。


「まぁこっちにもいろいろ事情があってね。第二世界を構築した当初、第三者が第二世界に大きく干渉することは想定されていなかったんだよ。そもそもAIが自我を持つこと自体が想定外だったんだ。ありえないことだったんだよ。そのありえないことが起こってしまった結果、ボクやキミが苦労することになったってわけだ。ま、それでも、万一のために、こうしてこの場所のように、干渉できる場所を用意していたんだけどね。ここはキミの世界にあって、キミの影響力を受けにくい場所なんだ。治外法権みたいなもんだね。間違いなくキミの世界なんだけど、キミの許可なく、ここからキミの世界に微力ながら干渉できるようになっているんだよ」

「……だから、あんなまわりくどい真似をしたのか。この場所に俺を呼び寄せるために」

「そう。キミにこの場所を想起させるため、まずクマを出した。これはゲーム内に存在していた没データを利用した」

「ゲーム内の没データを利用ってことは……この世界は、ケイオス・ラブのデータを使用しているのか?」

「そうだね。ケイオス・ラブを元に、極力その世界を再現するよう努めた結果の世界がこのキミの世界だ。……話をもどそう。クマが真っ黒だったのは、その状態のデータだったからだ。そしてデート中に現れたのは、そういうデータとして存在していたから。例の少女……白鳥麗華もまた一緒。キミにこの場所を想起してもらうため、ゲームのルールに則って、出現させた」


 白鳥麗華は、唯一他校の生徒として登場する――ハズだった。

 インタビューによれば、休日、一人でデートスポットに出かけると、低い確率で出現する予定だった、とのことだった。

 それを利用したのなら、俺が一人で出かけた時に現れ、けれどなかなか現れなかったのにも説明がつく。

 なるほど……すべてはゲーム内のルールに則り、ゲーム内に組み込まれたデータを利用したその結果だったのか。


「コタローくん。キミならきっと気付くと思ったよ。誰よりもこのゲームを愛し、そして、崩壊した世界の逃避先としてこのゲームを第二の人生を送る先として選んだキミなら、ね」

「…………………」


 こんなとき、どんな顔をしたらいいのかわからない。

 褒められてるのか馬鹿にされてるのか、微妙だったから。

 けどまぁ、だれよりもこのゲームを愛している、つーくだりは気に入った。

 たしかに、俺はほかにとりえのないくだらない人間だけど、ケイオス・ラブにかける情熱だけは、抱く想いだけは、誰にも負けないと自負している。


「けど遅い。もっと早く気付いてほしかったよ。待たされるのもけっこー辛いもんだよ?」


 妹の顔でそーゆーことを言われると、ドキッとする、なんか。

 いや、まぁ、深い意味なんてないんだろうけど。


「……て、そもそもなんでリリの姿をしているんだよ? ここなら俺の影響力から逃れられるんだろ? なら、どんな姿でもいーじゃないか。なぜわざわざ俺を混乱させるような姿で待ってたんだよ」


 ミサキは首を振る。


「誤解だよ、コタローくん。キミを混乱させるつもりなんてなかった。最初に言ったように、真実を知るボクからすれば、この世界のボクの姿はアバターなんだ。そんでもってアバターって、だいたいにおいて自分の理想の姿を選ぶもんだろ? ボクにとってキミの妹さんは、なかなか理想に近い姿だったんだよ。だから、外見を拝借したわけだ」

「たんなる好み、とな?」

「そゆこと。ほら、昔まだこの世界が崩壊してなかったころ『なりたい芸能人の顔ランキング』みたいなものがあったじゃない?

 いうなれば、あんな感じかな。キミの妹さんのような姿に、ボクもなりないなぁ、なんて」


 なんとなく、ひっかかりを覚える。


「自分の姿にコンプレックスでもあるのか?」


 問うと、一瞬、ミサキの表情が曇った。


「……まぁ、ね。てか誰だってそうじゃない?

 自分の外見を完璧だと思う人間なんて、一部の芸能人くらいじゃないの?

 そんでもって残念ながら、ボクはその一部でもなければ芸能人でもない。

 ルックスの良い人にあこがれるのは、まぁ、ある意味必然なわけさ」

「なるほどね」


 まぁ、わかる。

 俺だって、イケメンに生まれたかった。

 イケメン俳優やアイドルが、女優や美少女アイドルとの交際報道がされるたびに血の涙を流したものさ。

 来世こそは、と堅く心に誓ったが、その願望は、思わぬところで叶うことになったわけだ。

 鈴代小太郎。

 なかなかのイケメン。

 これが今の俺。

 つまり俺、今、まぁまぁイケメン。

 てへっ。


 …………アバターだけど。


 ちょっと切ない。


 まぁ、でも。

 愛する妹が理想の顔と言われてちょっぴり嬉しかったり……データだけど。

 それでも、さっきも言ったように、本物の人間と見分けがつかないAIなら、本物の人間と変わらない。

 たとえ超高性能AIだとしても、この世界がすべてデータだとしても、俺には本物と偽物の見分けがつかないから、何の問題もないんだ……たぶんね。


「さて、じゃあ、ここへキミを導いた本来の目的を告げよう」


 こほん、とミサキ。

 改まったように一つ咳払いをして、


「ボクがキミをここへ導いたのは、キミにキミの世界に入る許可を貰うためだ。アナザーライフのシステム上、キミの意思を無視して、キミの世界には介入できない。だからこそまわりくどい手を使ってキミをここへ誘ったんだ」


 まっすぐに俺を見てくる。


「コタローくん。今、ここで、はっきり言葉にして欲しい。このボクを、キミの世界に迎え入れる、と」


 うなずく。


「ミサキ、あんたを俺の世界に迎え入れる」


 一瞬、間。

 そして、


「ありがとう。これでボクはキミの世界に干渉できるようになった」

「よかったね」

「ふはははは! 馬鹿め! 騙されたな! ボクは実は管理者ではなく、アナザーライフを壊そうとしている人類の敵、破壊者なのだ! こうしてコタローくんを騙し、まんまとキミの世界へのアクセス権を手に入れた! これでアナザーライフを内側から破壊することが出来る! この愚か者が!」

「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 だ、騙すなんて卑怯だぞ!?

 今まで語ったことは全部嘘だのか!?」

「その通りだ! そもそもボクが、人類を滅亡に追い込んだ張本人、異界の魔王・ガングロブスティアなのだからね! ふははははははははは!」

「く、くそ……どうすれバインダー!」

「ふはははははははははは!」

「くっ………!」

「ふははははははは!」

「くっ………!」

「ジョーダン」

「知ってた」


 なんとなく、ミサキのノリは、理解してしまった。


「じゃ、ボクは次の周回から佐山美影さやまみかげとしてキミの世界に――ケイオス・ラブの世界に参加するよ」

「サブキャラだな」

「ああ。サブキャラに、成り代わる」

「わかった」


 佐山美影。

 黒髪のポニーテールで弓道少女で巨乳で。

 彼女を一言で示すなら、ベンリな友人キャラ、ってとこか。

 設定としては特定のどのキャラとも仲がいい、とは示されてないんだけど、イベントによって、いろんなヒロインと実は友達だったことが判明する社交的なキャラだ。

 ……まぁ、てよりも、開発者がベンリに使っただけ、って感じなんだけどね。

 出すキャラに困ったら佐山美影をだしとけ、みたいな。

 初めて一緒に登場するキャラともまるで昔からの友達のように接する様が、やはりカオス。

 その佐山美影に、ミサキが成り代わる、という。

 なら、リリの姿をしたミサキもこれで見納めか。

 べつにいいけど。


「じゃあ、とりあえず今日はここまでにしよう。まだ伝えないといけないことはあるけど、今はこれで十分だ。あとは次に周回したときに伝えるよ。コタローくんも色々と気持ちの整理があるだろうしね」

「うん、まぁ、そうだな。たしかに、一人になって、ゆっくり考えたい気分だ」

「じゃあ、今日はこれで。数週間もしたら、また、時がもどると思うから」


 そして、俺たちはわかれた。

 俺はまるで熱に浮かされたように現実感の薄れた街をふらふら歩いた。

 ゲーム世界であるということは最初からわかっていたはずなのに。

 あらためてそのカラクリを聞かされると……ちょっと、むなしくなる。


「お帰り、お兄ちゃん」


 家に帰ると、無性に人恋しくなって、ここが現実だと無理やりにでも信じたくなって、妹を強く抱きよせた。


「!? お、お兄ちゃん? どうしたの、イキナリ……」


 リリはビクッ、と身を震わせたが、それでも、俺から逃げることはなく、ただただ、俺の腕の中で、俺に身をゆだねていた。

 腕の中に感じる、たしかな温もり。

 感触。

 髪からは、シャンプーの香が漂ってくる。

 そんなことはしないけど、舐めたら、きっと、味だってするだろう。


 ここは確かに電脳世界かもしれない。

 けど、俺の腕の中に、リリは、たしかな実在感をもって存在している。


 ここは電脳世界であっても、俺にとっては、間違いなく現実なんだ。

 守らなきゃ、リリを、みんなを。


 ついでに――この電脳世界、アナザーライフを。







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