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 謎の少女の正体。

 それは、没キャラの、白鳥麗華だった。

 実際に画像を見たわけではないけれど、開発スタッフのインタビューを思い出す限り、まず間違いないと思う。

 そう、没キャラだ。


 ではなぜ、本来決してあらわれるハズのない没キャラがあらわれたのか。

 ……あるいはそれは、何者かによるメッセージなのではないだろうか。

 白鳥麗華がなぜ没になったのかは知らないけれど、彼女が没になることにより、彼女のために用意されていたデートスポットも同時に没になったと語られていた。

 没になった幻のデートスポット。

 それも覚えている。

 あの例の化け物があらわれる、都市最大のテーマパークへと続く道にある、駅ビルだ。

 駅ビルの地下にある喫茶店が、本来デートスポットとして使われるはずだったが、白鳥麗華が没になるとともに没となったのだ。


 そして、あの、例の化け物。

 アレの正体も、事ここに至って、ようやく俺にも察しがついていた。

 例の化け物の正体――アレは、たぶん、クマだろう。

 開発者が一体なにを考えてクマを登場させようとしたのかはわからないが、インタビューでは、たしかに「クマに襲われるイベントがあったが没になった」という趣旨のことが語られていた。

 そう、アレは、白鳥麗華と同様に没キャラだった。

 没キャラのクマが、なぜかこの世界では、黒いもやもやとなって出現したのだ。


 あの化け物は急に大きくなったが、いま考えれば、四足歩行をしていたクマが立ち上がったから大きくなったように見えたんだろう。

 そして、クマは、攻撃しているように見えて、その実、俺にいっさいの危害をくわえなかった。

 どこかを指し示しているようにも思えた。

 少女の正体が判明する前は、それがどこか見当もつかなかったが、今ならわかる。


 クマが指し示していた場所。

 それは、少女とともに没になったデートスポットである喫茶店が地下にある、駅ビルだ。

 クマは、駅ビルを……地下にある喫茶店を指し示していたのだ。

 

 いざなわれている――


 一体何者の仕業かは知らないが、それでも、クマと謎の少女の存在は、俺に、没になったデートスポット――駅ビルの喫茶店を連想させる。

 何者が、どんな意図でもって仕組んだことかは知る由もないが、間違いなく俺は、あの場所へといざなわれている。


 ……ふふ、ブルっちまうぜ。

 さすがの俺もブルっちまうぜ。


 手の込んだことをしてまで俺を没場所へと誘い込もうとしているんだ。

 当然、そこには、何かが待ち受けているはずだ。

 なにもないわけがない。

 そこにあるのは、希望か、あるいは、絶望か。

 夢の終わりか、はたまた、現実の始まりか。


 ――とにかくそこに、何かがある。

 ある、ハズだ。


 フツーならいかない。

 罠かも知れない。

 けど、今の俺は行くよ。

 このままこの世界でループを続けていても、俺の愛したヒロインたちが、その尻尾すらつかませない正体不明の何者かにただ殺されるのを黙って見ているしかないんだから。

 俺が誘いに応じることで、何か変化が訪れるなら、それがたとえ俺の身を危険にさらすことだとしても――望むところだ。

 怖いけど、おそろしいけど、このまま黙ってヒロインたちが死んでいくのを見せられ続けるよりかは何百倍もマシだ。


「……よし、行くか」


 早い方がいい。

 決断が、鈍らない内に。


 そして俺は、駅ビルへと足を向けた。





 都市最大のテーマパークへと向かう途中の道にある巨大な駅ビル。

 そこの地下街に、デートスポットである喫茶店はあったハズだ……いや、あるハズだった。

 没にならなければ。

 同じく没になったハズの白鳥麗華やクマがあらわれているから、当然、地下街の喫茶店もそこに存在しているだろう。

 俺は、以前一回読んだだけの情報を頼りに、なんとかそこまでたどり着く。

 ビルの中に地下へと続く階段があり、ここから喫茶店のある地下街へ行ける、とのことだった。

 その周辺に立ち、しばらく様子を窺ってたみたが、ここには不思議とだれも寄り付かない。

 まるで存在していないかのように、みな、一瞥することもなく通り過ぎてゆく。


 間違いない、ここが、地下街へつづく場所だ。


 クマの時も、白鳥麗華のときも、俺以外はだれも、認識すらしていないようだった。

 なら、同じく没となった地下街も、この世界の人間には認識できないのだろう。

 細かい理屈は知らんけど、たぶん、そんなとこだ。


 地下への階段をおりる。

 そんな俺を気に留める人間は誰一人としていなかった。


「……ここか」


 地下街へとおりたつ。

 誰の姿もない。

 ただ静寂のみが、空間を支配している。

 飲食店や雑貨店、本屋、メガネ屋、花屋……などなど、様々な店が立ち並んでいるが、そこに、店員や客の姿はない。

 まるで、一瞬にしてここにいた人々が消え去ったかのようだ。


「マリー・セレスト号」


 なんとなくそんなことを呟いて、静寂の空間を、俺は一人、歩く。

 デートスポットは喫茶店という話だった。

 それっぽい場所を見かけたら入ってみるべきか。

 それとも、俺をいざなった何者かがわかりやすく目印でもつけてくれているんだろうか?


 と思っていたら、途中で天井の照明が途切れていた。

 立ち止まる。

 左右を見る。

 右には、照明の灯っていない、いかがわしい類の本が置いてある、本屋。

 左は、バーのような落ち着いた雰囲気の、落ち着いた照明の灯っている、喫茶店。


「こっちか」


 俺は一瞬ためらったあと、喫茶店のドアを開けた。

 からん。ドアに取り付けられた鈴が鳴る。

 耳に心地いい。


 さほど広さのない、淡いオレンジの照明が支配する、レンガ壁の喫茶店。

 その、一番奥の席に、何者かの姿がある。


 いざなわれた先の喫茶店。


 そこで待ち受けていたのは。

 そこに、一人、座っていたのは。


 俺のよく知る人物。


「待ちくたびれたよ。遅かったね――お兄ちゃん?」


 妹のリリこと、鈴代莉々子、だった。






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