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「ああそうだ。これは夢だ。キミが起きたときには忘れているような、ね。けど、重要な夢だ」
「重要な夢?」
「ああ。キミの潜在意識に訴えかけている。起きた時には忘れているだろうが、完全にじゃあない。頭のどこかには記憶しているはずなんだよ。それは、酷く思い出しにくいことではあるけれど……」
「おはよう、お兄ちゃん。めずらしく一人で起きられたんだね……それに、なんだか今日は嬉しそう。なにかいいことあったの? ふふ」
柔らかく微笑んでくれる妹。
あらためて、誓う。
俺はこの子を、この笑顔を、絶対に守るんだと。
「ああ。ちょっとね」
答えて、俺はリリの頭をポンポンする。
あまりにも可愛くて、愛おしくて、思わずそうしてしまう。
手掛かりを掴めたかもしれないこともあり、俺はちょっとばかし大胆になっていた。
リリは、くすぐったそうに目を細めて、
「もぉう、子供じゃないんだよ?」
けれど、まんざらでもなさそうな表情を浮かべてくれたのだった。
さて、七周目。
俺がふたたび少女にあったのは、ゲーム開始時から三か月後、つまり、七月初旬のことだった。
前回と同じ条件で街を巡ったものの例の少女はあらわれず、あれは俺が求めていた救いとはまったく関係なかったのだろうか、と思いつつも、俺は諦めず、場所を変えながら、一人、デートスポットをめぐりつづけ。
そしてとうとう、この日、彼女にふたたび巡り会えた。
場所は前回とはべつの場所だったから、今回の場合、一人でデートスポットを巡る、というのが条件になっているのだろう。
……ただし、白いワンピースの少女が、俺の求めた救いであった場合の話、ではあるが。
「待って! 待ってくれ!」
人ごみの向こうにあらわれた彼女に声をかける。
けれど、彼女は俺の声が聞こえていないように、人ごみに紛れ、じっとしている。
「ちょっとどいて、すいません、通してください!」
人をかき分け、彼女に近づく。
彼女の真ん前まで行き、立ち止まる。
膝に手をつき、はぁはぁと肩で息をしながら、それでも、彼女を見る。
俺は、どこかで彼女を見た気がしていた。
それがどこなのかがわかれば、何かが解決するかもしれない。
凝視。
腰元まで伸びる、長い黒髪。
どことなく、お嬢様っぽいフンイキ。
瞳の色は……
「あっ」
消えた。
たしかに、今の今まで俺の目の前に存在していた彼女は――
けれど、瞬く間に姿を消していた。
あたりをきょろきょろ見回すが、彼女の姿はもうどこにもない。
猛スピードで移動した、とういうわけでもない。
彼女は……白いワンピースの少女は、間違いなく、俺の見ている前で、消えたのだ。
跡形もなく、消え去った。
そして、それを目撃したのは、例によって例のごとく、この俺だけらしい。
化け物が見えなかったように、俺以外の人間には、彼女の姿が見えていなかったのかもしれない。
となれば。
やはり彼女こそ、現状を打開するためのカギに違いない。
「どこかで見たような気がするんだけど……」
キャラデザは、間違いなくこのゲームの絵師だろう。
けれど、それでも、俺はあの少女の正体がわからない。
ヒロインにあんな子はいない。
かといって、サブキャラにもいなかった。
それでも俺は、白いワンピースの少女をどこかで見たような気がしていた。
どこだろう、それは。
どこかで見た……のか?
それとも、たんなる気のせいか。
……わからない。
酷く見覚えがあるような気がする一方で、一度も見たことのないような気もする。
不思議な感覚。
この正体はなんなんだろう。
見たことあるような、そうでもないような、そんな不思議な感覚。
もう一度……もう一度、彼女に会うことが出来れば、彼女を見ることが出来れば、思い出せる――
そんな気がした。




