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そして翌週。
俺はべつの女の子と、ふたたびそこを訪れた。
でもって現れる化け物。
今回は、躊躇わない。
化け物が消える前に、俺の方からアクションを起こす。
化け物の姿を認めたその瞬間、全速力で化け物との距離を詰める。
「くらえええええええええええええええええええええ!」
叫び、右手に持ったハンマーを化け物へ向けて振り下ろす。
すかっ
しかし手応えはまったくなく。
ハンマーは、俺の手ごと、化け物の体をすり抜けていた。
まるでなにもない空中に向けてハンマーを振り下ろしようだった。
「ど、どうしたの、イキナリ空中にハンマーを振り下ろしたりして……」
そして実際。
俺以外の人間から見たら、その通りだった。
他の人間からすれば、俺は、イキナリハンマーを空中へ向けて振り下ろしたキケン人物だったのだ。
「あ、いや、ちょ、ちょっとね」
誤魔化すのが大変だったが、なんとか切り抜け。
そして翌日、日曜日。
三回目の挑戦。
ひょっとしたらアレはなにかの間違いかも知れないと思い、ふたたび化け物にハンマーを振り下ろしたが、
すかっ
しかし、手ごたえはなく。
また、化け物がやり返してくることもなかった。
化け物はいつも同じアクションをし、消えて行った。
「………………」
まだまだ、こんなことじゃ諦めない。
四、五、六、七、八………
ハンマーがダメだったのか、と考え、色々武器を変えて試してみた。
水、火、塩、銀のスプーン……などなど。
けれど、そのどれもが、化け物の体をスルーするだけだった。
それでもさらに挑み続け、合計回数が五十回を越えるころ。
俺は、うすうす感じていたことを、ようやく声に出してみた。
「ひょっとして……俺はとんでもない思い違いをしていたんじゃあないのか?」
あの黒いもやもやした化け物が、ヒロインたちを殺している。
俺はかつて、そう確信した。
ヒロインたちが死に続ける中で、あの化け物を見たんだ。
誰だって化け物がヒロインたちを殺して回っていると思うだろう。
だけど――
もしかしたら、ヒロインの死と、あの化け物は、無関係かもしれない。
そう思い始めている……いや、ずっと前から思っていた。
頑なに認めようとしなかったその考えを、そろそろ俺は、認めるべきなのかもしれない。
あの化け物が本当にヒロインたちを殺しまわっているのなら、なぜ、なにもしてこない?
化け物は攻撃するような仕種を見せるが、その実、あれは攻撃ではない。
掲げた手を、九十度振り下ろしているだけだ。
……もしかしたらあれは……どこかの場所を指し示しているのかもしれない。
いや、そうとしか考えられない。
化け物は、いずこかへと、俺を誘おうとしているのかもしれない。
けれど、一体どこへ?
そしてなんのために?
それが、ギモンだ。
後者のギモンはとりあえず無視出来ても、前者は無理だ。
指し示している方向に、建物はいっぱいある。
ゲーム中では入れる建物は限られていたが、この世界では、建物の一つ一つに入ることが出来る。現実世界と同じように、存在している。
つまり――特定できないのだ。
化け物が俺にメッセージを寄越していたとしても。
どこへ行けばいいのか、あの程度の少ないヒントでは、とても無理。
砂漠で針を探すようなものだ。
ほかにもっとヒントが出ていないかと、俺は化け物に対して攻撃をやめ、その一挙手一投足を見守ることにしたが、それ以上の手掛かりを得ることはできなかった。
そして、俺は、化け物から手を引くことにした。
あの化け物がヒロインたちを殺しているんじゃないのなら、アイツに固執する意味は、ない。
気にはなる、気にはなるが……これ以上、無駄な時間を過ごすつもりはない。
俺は、意味不明のメッセージを寄越してくる化け物より、ヒロイン殺害の犯人の方を追うことにした。
――そんなころだ。
どこか見覚えのある、謎の少女と出会ったのは。
「デート中」と「例の場所」という二つの条件を満たしたら、化け物があらわれた。
ならば。
ほかの条件を満たせば、またべつの変化があらわれるかもしれない。
そしてその変化は、この行き詰った状況を、ひょっとしたら打開するために必要なものかもしれない。
そう思い。
俺は、色々試してみることにした。
まずはいろんな女の子を誘い、いろんなデートスポットに行った。
けれど。
二か月ほど経っても、なんの変化も訪れず、俺はそれをいったんあきらめることにした。
次に俺がとった行動は、一人で色々な場所に行ってみることだった。
二人でダメなら、一人で。
そのころ、すでに二月をまわっていて。
この作戦は、ループをまたぐだろうなぁ、と考えていた。
ところがどっこい。
三月。
エンディング間際。
その少女はあらわれた。
とあるデートスポットにて。
俺は、その少女を見かけた。
白いワンピースに、麦わら帽子の少女。
遠すぎて、顔は良く見えない。
けれど、なぜか気になった。
ワンピースに麦わら帽子。
べつに、取り立てて気にするほど変わった服装でもない。
むしろ某有名マンガを連想させる組み合わせだ――言葉だけを取れば。
……話が逸れた。
とにかく、俺は、そのなんてことのないカッコの少女が、なぜか気になった。
どこかで会ったことのあるような……
あるいは、彼女こそが、俺の探し求めていた「何か」かもしれないと、人ごみの中、足早に彼女に近づこうとしたが――
「糞っ」
一瞬……ほんの一瞬、人影に隠れたと思ったら、人が通り過ぎた後、彼女はすでに、その場からいなくなっていた。
惜しいことをした。
彼女がなにかを知っていたかもしれない。
そうでなくとも、この悪夢のような現状を打開するカギに成り得たかもしれなかった。
これは確信ではない。
ただのカンだ。
けれど、今の俺には、そのカンは、縋るに十分なもので。
次に時がもどったら、今回と同じ条件――つまり、一人でこの場所を訪れることを繰り返すと決心し。
やがて、時はもどった。




