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 月日は瞬く間に流れて行った。

 ひょっとしたらあるかもしれないリリの悲惨な未来を回避するために他の女の子と付き合ったんだけど……

 今となってはそんなことがどうでもよくなるくらい、聖子のことを愛おしく思っていた。

 ……いや、もちろんリリは大切だけど。

 首をつって欲しくはないけど。

 それでも、聖子のことは、今ではリリと同じくらい大切に思っている。


 エンディングを迎える三月の今となってそう思えたことは、良かったと思っている。

 彼女が俺を思ってくれているように、俺も彼女のことを大切に思えることができた。

 こんな素敵なことはないだろう。


 この数か月で、聖子は大きく成長した。

 今はもう、以前のように、俺に頼りっきりの聖子ではない。

 寄生子は、もはやこの世界にはいないのだ。

 寄生子は、自立子になった。

 自立子になって、俺を今日、家へ招待するメールを送ってよこした。


 だから俺は今、彼女の家の前に立っている。

 ゲームの通りなら、ご両親は外出中だ。

 家の中で、世話になった主人公のために手作り料理を用意して待っている。

 もちろんサプライズだが、プレイヤーである俺には筒抜けだ。


「聖子ちゃん? 小太郎だけど。入るよ?」


 メールには玄関のカギは開けてあるから勝手に入って来て、と書いてあったが、念のため、声をかける。

 返事はなかった。

 ま、これも、ゲームと同じ演出だ。

 靴を脱ぎ、家にあがる。

 勝手知ったる他人の家。

 ここにはゲーム中でも現実でも何度も来た。

 ゲーム内でイベントが起こるのは居間である畳部屋だから、そこに向かう。

 ふすまの前に立つ。

 これを開ければ、その向こうに、豪華な料理と、手をバンソーコーだらけにした聖子が待ち受けている。

 俺はそれを知っているわけだが、当然、驚く準備は出来ている。

 聖子が俺のためにサプライズで用意してくれたんだ。

 全力で驚いてやるさ。


 がらっ。


 ふすまを開ける。

 予定通り、俺は驚いた。


 そこには、豪華な料理と――


 聖子の首つり死体が用意されていたから。


「う……うわああああああああああああああああああああああああああああ!」


 立ち尽くす。

 なぜ。

 なぜ、またもやこんなことに…………

 俺は忘れていた。

 リリの身に起こった悲劇を。

 ……いや、意識的に考えないようにしていた。

 アレは夢かなにかなんだと。

 現実ではない、ナニカなんだと。

 そう、思い込んでいた。

 だからこそ、またもやこの悲劇を招いたのだ。

 なんのことはない。

 甘ったれていたのは、聖子ではなく、この俺の方だった。


 俺のあまったれた考えが、愚かな認識が、聖子を殺したんだ。

 聖子を……後輩を……俺の大事な、恋人を。


 受け入れよう。

 この現実を。

 この世界は…………………………呪われている。

 俺が迷い込んだのは、そんな楽しくも、厳しい世界だった。


 受け入れる。

 俺はそれを受け入れる。


 だから、どうか、時よ、またあの始業式の日にもどってくれ。

 俺にもう一度やりなおすチャンスをくれ。

 頼むから、俺から大切な人を奪わないでくれ………………!




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