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 友人の只野ただのと校門にむかって歩いているとちゅう、妹に出くわした。

 妹――鈴代すずしろ莉々子りりこの姿こそ見えなかったが……見なくても、わかる。

 放課後の、この時間。

 青春の汗を流すでもなくまっすぐに校門にむかうヒマで無駄な生徒たちを遮るようにわだかまっている邪魔な人だまり。

 その中心にいるのは、いつだって彼女しかいない。


「あ、お兄ちゃん!」


 一、二、三、学年問わず、この高校の男たちに囲まれ、ちやほやされていた妹の莉々子――リリが、歩いて来た俺に気付いて声をかけてくる。

 そのとたん、俺にむけられる殺気たるや……もう……


 つらいわー。

 モテる妹を持つ兄はつらいわー。

 男どもの刺すような視線が嫉妬と羨望に塗れていてつらいわー。


「お兄ちゃん、一緒に帰ろっ」


 男たちが放つ殺気に気付いているのかいないのか。

 リリは、男たちの包囲網を難なく突破し、俺の側にきて、俺の腕に自分の腕をからませる。

 ぷにゅっ、と、ささやかな膨らみが、俺の左腕にあたる。

 この世界に来て、もう何度目だ、つー幸福なシチュエーションではあるけれど、俺はいまだにその感触に胸の高鳴りを押さえることができないでいる。

 抑えることなど出来るものか。

 あんなにも恋い焦がれた彼女が、妹が、リリが、俺のすぐ側にいて、しかも無邪気に腕を絡めて、胸まで押し付けてきているのだから。


「やれやれ、僕はお邪魔みたいだね」


 アメリカンよろしくオーバーリアクションで両腕を広げた只野が、俺とリリを置いて校門の先に姿を消した。

 彼なりに気を使っているのだ。

 その彼の心中は実に複雑なものなのだけど……それはまた、別の話。


「なんであんな奴が莉々子ちゃんの兄なんだ……」

「クソゥ、俺が莉々子ちゃんのお兄ちゃんなら、あんなことやこんなことを……くうぅぅ」


 何をする気だ、一体。

 ヒソヒソ声だが、確実に、リリに群がっていた男どもの嫉妬のささやきが聞こえてくる。

 ――もっとも、リリにはまるで聞こえていない様子だが。


 男どもは……いや、女も含め、側にいる人間はみな、リリに羨望の視線をむける。

 そしてその学園のアイドルであるところの鈴代莉々子をはからずも独占している形の俺には、羨望と、嫉妬と、そして殺意の視線が突き刺さる。


 いやぁ……実に気持ちがいい。

 この学園の男どもが……いや、この世界の男どもがどんなに願っても手に入れられない立ち位置を、俺は手に入れているのだ。

 これが気持ちよくないわけが、ない。


 だれもが羨む美少女に腕を絡めてもらえる――


 まるでフィクションのようなシチュエーションだが……悲しいけどこれフィクションなのよね。

 そうさ。

 あるわけがない。

 現実で。

 学園でも、外でも、話題になるような美少女が。

 こんな冴えない男の妹で。

 しかも懐いてくれて。

 人目を気にせず腕を組んでくれるなんて……そんなこと、あるわけが、ないんだ。


 モテない野郎の憐れな妄想でなければ、モテない野郎のその憐れな魂を慰めるために創られたアニメやマンガやゲームなどのフィクション作品に決まってる。


 そう、フィクション。

 これはゲームだ。

 恋愛シミュレーションゲーム『ケイオス・ラブ』の世界なのだ。


 俺は、なぜか、そのゲーム世界に入り込んでしまったらしい。

 話は、だいぶ前に遡る――



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