06 異世界文明(さわり)
「行くです。祐様の元へ。それが最善だというのなら。」
覚悟を決めた表情で力強く宣言したクーデリア。どんだけ恐れられてるんだ祐……。多分得体の知れない人認定受けてるよな。
『うん。じゃあ待ってるよ。魔王のこと考えると今日中には来てほしいね。あ、でもご飯は食べてきてね?うちは人数分しかないからさ。それじゃあとよろしく。あ、12時1秒前に連れてきて今日中!って言い張るのはやめてね?遅くても10時でお願い。じゃっ。』
ガチャッ ツーーツーー
そんなこと思いつくのはお前だけだと言いたい。
「あ、夕ご飯はもうちょっとよ〜?急かさないでね?手切っちゃうかも。」
「んで、クーデリアは日中なにしてたの?」
「え?あ、わたしですか?お義母様にこっちの世界のことをいろいろ教えていただいていたのです。」
「逆にクーちゃんには向こうのことを教えてもらったのよー。それでね!大発見!クーちゃんリアル『おいしくなーれ♡』が使えるのよ〜!」
え?なにそれ?
「あっはい。スパイス魔法の事ですよね?わたしは勇者様、晴哉様の旅のお供をするために詰め込まれただけですので、なんで美味しくなるのかみたいな細かいことはわからないですが……。」
「なんか知らんが大変だったんだな……」
「……否定はしません。妹たちが呑気な顔してお姫様やってる中スパルタメイド教育でしたから、王女なのに、メイド……」
クーデリアのテンションがものすごい勢いで降下していく。それを冬華が厳しい目つきで見ている。ん?え!?どうした冬華⁉︎
「あら?そういえばハルって今日お弁当なかったかしら?」
「…………あるよ。食べてないから、まだあるよ。」
「あーよかった。どう見ても5人分ないからど忘れしたかと思っちゃったわ。よかったーハルがドジなのねー。」
「おおっそれはなんだか面白いことになりそうだな!息子よ。」
面白くねぇやい。この瞬間、俺だけ弁当で食卓を囲むことが決定した(サッカー部は長いから夕飯も弁当持参)。
「あ、ご飯できちゃった。」
そんな自然にできたみたいに言われても……というか本当にもうちょっとだったんだな。
「いただきます。」
家族全員(+クーデリア)で声を合わせる。ちなみにクーデリアはこの作法を朝食時に教わっていた。
「クーちゃんが言うにはぁ、私の料理って王族が食べるレベルらしいんだから感謝して食べなさいよ!」
満面の笑みで母さんが言う。食文化はこっちの方が上のようだ。ちなみに俺以外の主菜はハンバーグだ。
「それって食材が良……なんでもありません。」
母さんからプレッシャーを感じた。この世には言っていいことと悪いことがあるのを教えてくれるプレッシャーだ。
「お義母様、夕ご飯もとてもおいしいです。」
「あらぁ。クーちゃんみたいな舌が肥えてる子がそういってくれると嬉しいわ。」
「舌が肥えて……ますね。いろんな意味で。」
クーデリアのテンションが再び急降下。なにがあった!?
「どうかしたのか、クーデリア。」
「今、訓練中に食べさせられたイモリやネズミの味を思い出してしまったのです……。」
「……君本当に王女?」
聞かないほうがよかった。といかどんだけ過酷な旅を想定されてるんだ。
「ねぇ。」
冬華がクーデリアに呼びかける。ってあれ?視線が更に鋭く……それ睨んでるよね?なにがあったのお前らの間で!?
「クーちゃんのお母さんの呼び方、なんか変じゃない?」
「え?変ですか?えっと、もしかして様付けはだめなんですか?」
「そーじゃなくて!」
「???」
混乱するクーデリア。
クーデリアよ気持ちは分かる。俺も意味わからん。何に怒ってるんだこいつは……
ちらっと父母の方を見るとなんかニヤニヤしてやがった。ヨユーだな⁉︎これが年の功というやつか?まぁ、2人にしてみれば大した問題じゃないんだろう。つまり焦ることはない俺は2人に任せて静観しよう。
「もう一回行ってみてよ。」
「お義母様?えーと、お義母さんですか?」
「っそれだと!クーちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんみたい!」
「ぶっ!?」
あぶねぇ危うく口の中身ぶちまけるところだった。手が間に合ってよかった。つかそれどんな言いがかり?
「あ、はい。お父様はそうなれと言っていたので、そういう風に読んでいたのです。」
違った。確信犯だった。当のクーデリアは悪意のかけらもなかったようで、気を白黒させている。何を当然のことを?って感じの様子。文化的格差を感じる。
「俺みたいな脳筋に恋愛とか無理だぞ。」
「?むしろ政略結婚に向いていいると思いうのです。」
今すげえ余計なこと言っちゃった気がする。
まずいよ。冬華はギリギリ『大きくなったらお兄ちゃんのおよめさんになる〜』とか言いかねないお年頃だ。つか聞いたことあるかもしれん。まずくね?両親を見ると相変わらずニヤニヤしている。え?まだ余裕?嘘?やばいだろ?冬華大爆発するんじゃ……?食事に逃避。
「それって、政略結婚ってこと?」
「は、はい。」
「つまり愛なんていらないわけね?」
「できれば欲し」
「いらないわけね?」
「…………はい。」
予想に反して爆発せず、黒い笑みを浮かべる冬華さん。怖い。冬華さん怖いです。
「じゃあ、形だけ結婚してればそれでいいわけね!」
冬華さん喜色満面。狙いが読めたぞ。クーデリアと結婚すれば他の女は寄り付きようがない。そしてクーデリアとも別に男女の関係にない。つまりお兄ちゃんを独り占め!ってとこか。……俺の自由は?
「え?それって子供を作るのはどうなんでしょうか?できないと私の立場が結構まずいんですが……」
「⁉︎⁉︎⁈」
「……。」
ちょっなんの話を……顔が熱くなってきた。なっ!?冬華の氷点下の視線がこっちにも!?
「ご、ごちそうさまでした!」
弁当を運ぶ名目でキッチンに退避。未だニヤニヤしている両親。くっここまで読んでたっていうのか⁉︎これが年の功の力かっ。
閑話休題。
「それで、昼間は他に何してたの?」
みんながご飯を食べ終え、冬華を宥め、今に至る。
「文字を教えたわ。クーちゃん話せるけど文字は違うものみたい。」
「言葉は例の召喚魔法陣の効果の一部で翻訳されて聞こえるらしい。試してみたら英語もフランス語も秋田弁も通じたぞ。」
父さんは秋田出身だ。
「そもそも何語で話しても日本語として聞こえてるらしい。すごいな魔法。」
勇者が日本人じゃなかったらクーデリアの言葉は通じるのかそれ……。
「ご飯食べたけど、行く用意ってできてるのか?」
「昼間のうちに服は大量に買っといたわよ。」
「後なんだ?歯ブラシとか一応持ってくか?不備があれば社君の家で補ってくれるんじゃないか?」
「……用意意外と楽?」
その後なるべく早くとのことだったのですぐに社家に直行。クーデリアは車を見ても特に驚かなかった。「こっちにも魔導車が」とかつぶやいていたので向こうにもあるんだろう。街並みはテレビでも見てただろうに興味深そうに見ていたのでそこは結構違うのかもしれない。
祐が無邪気な研究者の実験動物を見るような笑みでクーデリアを迎えたために、何かを察したクーデリアは顔面蒼白だった。無茶苦茶不安なんだが……
「何かあったらすぐ知らせるんだぞ。」
そう言って子供携帯を手渡し使い方を説明する。
「余計に不安になるんですけど……私大丈夫でしょうか。」
「全く、ハルは大袈裟なんだから。」
晴哉は玄関に消えていくクーデリアを最後まで心配そうに見ていた。
社家、結構豪邸。宮家、中の上。
やっぱりクーデリア元に戻しました。頑張って修正します。もう見逃さない。